イノセントキラー

ゴンザレス

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 適当に街をブラつく竜ヶ崎を含めた三人は、途中でカラオケの個室に入店した。他愛ない会話から話を広げるつもりは無かったが、竜ヶ崎が彼女たちの制服に突っ込んでから世間話が止まらない。

「ウチら岡田と同じ学校、つか、同じクラスだよ」

 世間の狭さか、何かの因果か、竜ヶ崎は彼女二人に関心を向ける。向かい合わせで座る竜ヶ崎が身を乗り出した。

 それに勘違いする彼女たちは、いつかの菊池と同じように好意的な目でペラペラと情報を話す。「でも今は停学中なんだよねぇ。なんかS校の竜ヶ崎っていう県下最強って言われてる凶暴な人にボッコボコにされたとかでぇ」。

「そうそぅ。ボコボコにされた挙句停学とかダサすぎ」

 「喧嘩売る相手が悪いのよねぇ。いくらヨリ戻そうと考えてるからって」と分厚い唇を尖らせて言う女に、もう一人の女も賛同する。

「ヨリ? 誰と」
「えぇ? 百合っていうギャルなんだけどぉ」
「は? 岡田と菊池は付き合ってたのか」
「え?! もしかして百合と知り合い?」

 「ずるーい!」という声を完全にスルーして、竜ヶ崎はさらに身を乗り出して分厚い唇の女の肩をがっしりと掴む。赤面して悦んでいるのも構わずに。

「おい。ボコボコにされたのは岡田たちかもしんねぇが、こっちは竜ヶ崎って野郎とは関係のない人間が巻き込まれてんだよ。偶然お前らが岡田と同じクラスの人間って知って、おめおめ離せるかよ。情報寄越せ」

 「10針以上縫う大怪我だぞ」と加えると彼女たちも痛みが移ったような顔をして、同情心を見せる。

「そうなの? しろ君って巻き込まれた人の事考えてここまで真剣に考えるなんて、優しいぃ」
「岡田の奴、言ってたんだよね。百合から竜ヶ崎を潰してくれって言われたって。でも、頼まれたことだけをやるのは仕事ができない奴だって」
「言ってた言ってた!ウチらそれ聞いて百合なら喜ぶだろうなっては思ったんだけど……ねぇ?」

 二人は顔を見合わせて、「相手が悪すぎるって思ってて」と竜ヶ崎と三浦弓月の危険性を十分に理解していたらしい。
 この時点で竜ヶ崎の思惑は成功に近しいものになったが、竜ヶ崎と裏番の弓月は名前だけが先行している状態で、顔までは把握されていないようだった。

「で、菊池はどんな反応だったんだ」
「そこまでは知らないんだよねぇ」

 唇女が竜ヶ崎から視線を外す。「転校してしばらく経った頃から、ブロックされてるみたいで連絡がぱったりなくなったのぉ。それで、ああ、縁切られたんだなって思ってぇ」。

「ウチもブロックされてる」
「だから、百合から話は一度も聞いたことないの」
「それでウチらはムカついたから、ウチらも岡田の無謀な行動に水は刺さなかったの。百合が諸悪の根源だってことに竜ヶ崎と三浦もいずれ気付くだろうしってぇ」

 「岡田の方が先に縁を切られてたはずなのに」と二人は憎々しげにいう。

「……。悪かったな、さっき会ったばっかりの野郎に話したくないことも話させちまったみたいで」
「全然大丈夫ぅ! しろ君が百合の話を出すまで忘れてたもん!」
「そうそう! マジで気にしてない」
「……そうか? 今の菊池どんなか知りたいか?」
「別にぃ? それよりも歌お歌お!」

(コイツら、薄っぺらいな)

 菊池もその友達であったコイツらも。薄っぺらい関係でしか結ばれていなかった。

 ——だからこそ、空いた穴を埋めるには後腐れなくて丁度いい人種でもあるが。

 「どっちか、これからラブホ行かね?」竜ヶ崎は唇女の唇を親指でなぞった。

 これ以上深掘りしても無意味さを知り、行き場のない悶々とした感情は発散用玩具に吐き出すことにした。
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