24 / 33
3
しおりを挟む
結局唇女だけではなく、もう一人の女もついてきて三人で歓楽街の方へ歩いている。両腕に華といいたいところだが、竜ヶ崎には二人の顔がノイズがかかったように曖昧だ。
歓楽街を制服で歩き回ると後々面倒なことになりそうだが、この際どうでもよかった。
竜ヶ崎の両サイドで、しおらしくしている玩具二体。竜ヶ崎は少し焦っていた。
(やべぇ……勃たないかもしんねぇ)
そんな焦燥感に紛れて、いつも不意に感じていた憎たらしい視線を蔑ろにしてしまった。だから、「——おい、アンタ。これからどこに行こうとしてんだよ」の声がするまで、後ろの気配にまるで気が付かなかった。
振り向かなくとも、この主は分かっている。女たちは怪訝そうに男を見るが、男にとって竜ヶ崎の両腕にくっついている華は羽虫と同然なのだろう。
女たちの訝しげに送る視線を歯牙にもかけず、こちらへずんずんと近付いてくる。
「停学中に何シケ込もうとしてんだよッ!」
挨拶代わりと言わんばかりに殴りかかる男。しかし、それは竜ヶ崎によって不発に終わる。そして、避けたついでに男の腕を後ろで捻り上げた。「桜木。お前、一人なのか」。
「当たり前でしょう。つか、ここは荒んだ性生活を送るクズ男が一発くらい殴られて喝を入れられるとこでしょうよ」
「まだヤってねぇっつの」
「だって、竜ヶ崎さんが三浦先輩の連絡にも返信せずどこほっつき歩いてるかと思えば、堂々と浮ついたことしてっから」
彼女たちはここでようやく竜ヶ崎の正体を知り、黙ってこの場から姿を消した。歓楽街も目の前に差し掛かったところであった。
桜木は悪びれもなく、「行っちゃいましたね」という。
それに怒る気になれない竜ヶ崎は、安堵感が先行している。
「あの制服……」
桜木も岡田の通う学校だと気付くと、途端にトーンダウンさせて竜ヶ崎を睨め付ける。下からより鋭さのある視線で突き刺してくる。
「アンタ、何がしたかったんですか。三浦先輩への当て付けですか」
(当て付け……? ゆづはもう菊池と?)
竜ヶ崎は桜木の言葉に、全身の毛が逆立つ感覚に見舞われる。弓月の庇護をさせている桜木に手を出しかねない状態だ。
この期間で弓月と距離を置くと決めたばかりなのに、嫉妬や憤りに支配されて、決意がいとも簡単に崩壊していく音がする。もし、その崩壊が完全に終わった時、その間は竜ヶ崎の良心は鳴りを潜め、本能のままに行動してしまうだろう。
だが、幸いにもまだ残る理性。それらを総動員させて、「さっきの着信どうせお前だろ。わざわざ俺にかけてきて、何の用だ。俺はおめでたい報告なんて聞きたくねぇからな」と防戦を張る。
返答次第では完全崩壊待ったなしだ。
桜木は据わりかけた眼を向ける竜ヶ崎に深くため息を吐いた。そして、桜木は呆れ顔でいう。「この様子だと僕のメール既読だけ付けて読んでないですね」。
竜ヶ崎の喉が一瞬詰まる。
「あ、やっぱり。竜ヶ崎さんから僕に頼んできたんですから、放し飼いは良くないですよ」一瞬の動揺を見逃さない桜木。尚も鋭い目付きで竜ヶ崎を一喝する。
「アンタがそんな不誠実なことしちゃダメでしょ。三浦先輩至上主義なくせに、三浦先輩の気を揉ませるようなことして」
「はっ、お前がそれを言うのか。お前こそ三浦先輩至上主義だろうが。ゆづが望むなら俺とゆづを引き離すことも厭わないくせに」
沸点が低下していく竜ヶ崎は桜木の胸ぐらを掴んで見下ろす。「そんな奴の事を信用して誠実な対応をしろ? 俺、イイ子じゃねぇから無理だな」。
「あぁ? アンタ、僕が暴走を止めてくれることに安心してたじゃないか。その矛盾に気付いてねぇとは言わせねぇぞ、おい」
一歩も怯まずに竜ヶ崎に立ち向かう桜木に、弓月の面影がチラついて仕方ない。——人並みの恐怖を抱えているくせに、竜ヶ崎の前では強気で平気なフリをする弓月と。
一方、桜木は弓月と違って虚勢ではないので、堂々と眼光鋭く竜ヶ崎を睨む。弓月至上主義になると、その他の人間に対する見え方は全てフラットだというのか。
全く引けを取らない凄みに、据わりかけていた眼が正常になり、ただの輩の喧嘩へと昇華されていく。
「……アンタ、三浦先輩の怪我の経過知ってんのか 」
掴まれていた胸ぐらを掴み返す桜木。怒りで手を振わせながら、細い腕から男の力で竜ヶ崎を揺さぶる。これ以上の暴力は竜ヶ崎も桜木も得策ではなかった。
「アンタが怪我をさせたようなもんなんだぞ!!」
「アンタが……さっさと腹括ってりゃ、今回の騒ぎは起こさずに済んだんだぞ!!」と桜木が声まで震わせて、思いもよらないことを言った。
歓楽街を制服で歩き回ると後々面倒なことになりそうだが、この際どうでもよかった。
竜ヶ崎の両サイドで、しおらしくしている玩具二体。竜ヶ崎は少し焦っていた。
(やべぇ……勃たないかもしんねぇ)
そんな焦燥感に紛れて、いつも不意に感じていた憎たらしい視線を蔑ろにしてしまった。だから、「——おい、アンタ。これからどこに行こうとしてんだよ」の声がするまで、後ろの気配にまるで気が付かなかった。
振り向かなくとも、この主は分かっている。女たちは怪訝そうに男を見るが、男にとって竜ヶ崎の両腕にくっついている華は羽虫と同然なのだろう。
女たちの訝しげに送る視線を歯牙にもかけず、こちらへずんずんと近付いてくる。
「停学中に何シケ込もうとしてんだよッ!」
挨拶代わりと言わんばかりに殴りかかる男。しかし、それは竜ヶ崎によって不発に終わる。そして、避けたついでに男の腕を後ろで捻り上げた。「桜木。お前、一人なのか」。
「当たり前でしょう。つか、ここは荒んだ性生活を送るクズ男が一発くらい殴られて喝を入れられるとこでしょうよ」
「まだヤってねぇっつの」
「だって、竜ヶ崎さんが三浦先輩の連絡にも返信せずどこほっつき歩いてるかと思えば、堂々と浮ついたことしてっから」
彼女たちはここでようやく竜ヶ崎の正体を知り、黙ってこの場から姿を消した。歓楽街も目の前に差し掛かったところであった。
桜木は悪びれもなく、「行っちゃいましたね」という。
それに怒る気になれない竜ヶ崎は、安堵感が先行している。
「あの制服……」
桜木も岡田の通う学校だと気付くと、途端にトーンダウンさせて竜ヶ崎を睨め付ける。下からより鋭さのある視線で突き刺してくる。
「アンタ、何がしたかったんですか。三浦先輩への当て付けですか」
(当て付け……? ゆづはもう菊池と?)
竜ヶ崎は桜木の言葉に、全身の毛が逆立つ感覚に見舞われる。弓月の庇護をさせている桜木に手を出しかねない状態だ。
この期間で弓月と距離を置くと決めたばかりなのに、嫉妬や憤りに支配されて、決意がいとも簡単に崩壊していく音がする。もし、その崩壊が完全に終わった時、その間は竜ヶ崎の良心は鳴りを潜め、本能のままに行動してしまうだろう。
だが、幸いにもまだ残る理性。それらを総動員させて、「さっきの着信どうせお前だろ。わざわざ俺にかけてきて、何の用だ。俺はおめでたい報告なんて聞きたくねぇからな」と防戦を張る。
返答次第では完全崩壊待ったなしだ。
桜木は据わりかけた眼を向ける竜ヶ崎に深くため息を吐いた。そして、桜木は呆れ顔でいう。「この様子だと僕のメール既読だけ付けて読んでないですね」。
竜ヶ崎の喉が一瞬詰まる。
「あ、やっぱり。竜ヶ崎さんから僕に頼んできたんですから、放し飼いは良くないですよ」一瞬の動揺を見逃さない桜木。尚も鋭い目付きで竜ヶ崎を一喝する。
「アンタがそんな不誠実なことしちゃダメでしょ。三浦先輩至上主義なくせに、三浦先輩の気を揉ませるようなことして」
「はっ、お前がそれを言うのか。お前こそ三浦先輩至上主義だろうが。ゆづが望むなら俺とゆづを引き離すことも厭わないくせに」
沸点が低下していく竜ヶ崎は桜木の胸ぐらを掴んで見下ろす。「そんな奴の事を信用して誠実な対応をしろ? 俺、イイ子じゃねぇから無理だな」。
「あぁ? アンタ、僕が暴走を止めてくれることに安心してたじゃないか。その矛盾に気付いてねぇとは言わせねぇぞ、おい」
一歩も怯まずに竜ヶ崎に立ち向かう桜木に、弓月の面影がチラついて仕方ない。——人並みの恐怖を抱えているくせに、竜ヶ崎の前では強気で平気なフリをする弓月と。
一方、桜木は弓月と違って虚勢ではないので、堂々と眼光鋭く竜ヶ崎を睨む。弓月至上主義になると、その他の人間に対する見え方は全てフラットだというのか。
全く引けを取らない凄みに、据わりかけていた眼が正常になり、ただの輩の喧嘩へと昇華されていく。
「……アンタ、三浦先輩の怪我の経過知ってんのか 」
掴まれていた胸ぐらを掴み返す桜木。怒りで手を振わせながら、細い腕から男の力で竜ヶ崎を揺さぶる。これ以上の暴力は竜ヶ崎も桜木も得策ではなかった。
「アンタが怪我をさせたようなもんなんだぞ!!」
「アンタが……さっさと腹括ってりゃ、今回の騒ぎは起こさずに済んだんだぞ!!」と桜木が声まで震わせて、思いもよらないことを言った。
0
あなたにおすすめの小説
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
百合豚、男子校に入る。
揺
BL
百合をこよなく愛する男子高校生・眞辺恵。
母の歪んだ価値観により共学への進学を断たれ、彼が入学させられたのは――
男同士の恋愛が“文化”として成立している、全寮制男子校《私立瑞嶺学園》だった。
この学園では、生徒会長は「抱かれたいランキング」で選ばれ、美貌こそが正義とされる世界。
それでも眞辺は決意する。
生徒会長になり、この学校を“共学”に変え、間近で百合を拝むことを。
立ちはだかるのは、顔面至上主義の学園制度、性に奔放すぎるイケメンな幼馴染、そして彼らに憧れ恋をする生徒たち。
さらに何故か、学園の人気者たちに次々と目をつけられてしまい――。
百合を拝むため男子校を変えようとする異端者が、歪んだ王道学園を改革する物語。
【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】
彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。
高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。
(これが最後のチャンスかもしれない)
流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。
(できれば、春樹に彼女が出来ませんように)
そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。
*********
久しぶりに始めてみました
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
隣の番は、俺だけを見ている
雪兎
BL
Ωである高校生の湊(みなと)は、幼いころから体が弱く、友人も少ない。そんな湊の隣に住んでいるのは、幼馴染で幼少期から湊に執着してきたαの律(りつ)。律は湊の護衛のように常にそばにいて、彼に近づく人間を片っ端から遠ざけてしまう。
ある日、湊は学校で軽い発情期の前触れに襲われ、助けてくれたのもやはり律だった。逃れられない幼馴染との関係に戸惑う湊だが、律は静かに囁く。「もう、俺からは逃げられない」――。
執着愛が静かに絡みつく、オメガバース・あまあま系BL。
【キャラクター設定】
■主人公(受け)
名前:湊(みなと)
属性:Ω(オメガ)
年齢:17歳
性格:引っ込み思案でおとなしいが、内面は芯が強い。幼少期から体が弱く、他人に頼ることが多かったため、律に守られるのが当たり前になっている。
特徴:小柄で華奢。淡い茶髪で色白。表情はおだやかだが、感情が表に出やすい。
■相手(攻め)
名前:律(りつ)
属性:α(アルファ)
年齢:18歳
性格:独占欲が非常に強く、湊に対してのみ甘く、他人には冷たい。基本的に無表情だが、湊のこととなると感情的になる。
特徴:長身で整った顔立ち。黒髪でクールな雰囲気。幼少期に湊を助けたことをきっかけに執着心が芽生え、彼を「俺の番」と心に決めている。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる