29 / 33
4
しおりを挟む
「弓月くーん? また開いてるみたいなんだけど? これじゃ、綺麗に治ってたのに今度こそ傷目立つよ?」
竜ヶ崎のことをデカワンコとあだ名で呼んでいた医者が弓月を叱る。「しっかり傷開いてるし。痛くなかったの?」。
終始青ざめた竜ヶ崎に付き添われ、病院に連れて行かれた弓月。けろっとしている弓月を余所に、「今回は俺のせいだ」と後悔を口にする。
医師は竜ヶ崎と弓月を交互に見て、にんまりとする。二人の間に繋がった何かを察したらしい。
「まぁほどほどにしなさいよー。僕、外科医だから弓月君のお尻事情は治してあげらんないからねー」
「へぁ?! え、先生……? 何言ってんの?」
「あれ? そういうことじゃなかった?」
「違わねぇ」
「シロまで!? 」
「デカワンコ君の方がよっぽど覚悟が決まってるね。前は耳垂れたただのデカイだけのワンコだったのに」と竜ヶ崎に刺激を与える医師は、弓月の患部を処置しながらこともなげにいう。
「それより、ゆづの傷は大丈夫なのか」
「ああ、そこは僕の担当だから任せて。でも、その他はちゃんと君が面倒見るんだよ」
「弓月君って話してるだけでも感じるほど無垢だからさ——あ、もう無垢じゃなくなったんだっけ」と今日はどこまでも挑戦的な先生に、弓月は竜ヶ崎と先生への視線を右往左往させて困惑する。
「大丈夫! デカワンコ君が弓月君のことを好きだってのは、君がここに運ばれた時から知ってるよぉ! それこそ、彼がそういうことを隠さないもんだからさぁ」
弓月だけが困惑するので、竜ヶ崎は「……覚悟が決まって無かっただけで、俺の方が先だった」と白状する。
「だよねぇ。だからあの日、弓月君が寝てる間にこっそりキスしてたもんね」
処置の最中に弓月が驚愕して頭を揺らした。おかげで、ピンセットが患部を突き刺してしまい、また出血をする。医師も爆弾を投下した自覚なしに、弓月を叱る。「こら、頭動かしちゃダメでしょ」。
「い、いやいや。無理でしょ?! 先生何言ってんの?!」
痛みに堪えながら医師に噛み付いて見せるが、羞恥心を隠すのにはちょうど良い。
「えー、だって見えたんだもん」
「だもんって——」
医師と茹蛸になった弓月のやりとりを「その話は、後で俺がちゃんと説明すっから、こっからはちょっと」と竜ヶ崎が止めた。
「……ごめんごめん。弓月君、後ろのデカワンコ君が今の君の赤くなった顔を見られたくないから、これ以上はダメなんだって! さっさと処置済ませて、また一週間後に今度こそ、そこのデカワンコ君と抜糸しにおいでよ」
したり顔で竜ヶ崎を見た後、「良かったね、弓月君」と今度こそ優しい言葉をかけてくれた。竜ヶ崎を知ることを勧めてくれた医師に、感謝してもしきれない。
病院を出ると、ネット帽を被った弓月に「おぶってくから乗れ」と背中を貸してくれる。それに遠慮せず飛び乗る弓月。
「よし、おぶられたから、寝込みを襲った件については目を瞑れよな」
「え、説明なしにそれぇ?!」
「説明も何も、あの医者が言ったことが全てだ」
「それよりも辛くねぇか、ケツの方は」と完全に話を逸らしたが、大人しく脱線されてやる。
初体験で頭部の傷口が開いて出血するという忘れられない結末を迎えたわけだが、一段落すると病院での新事実と相まって羞恥心がやってくる。
しかしながら、尻の奥が未だむずむずしているような違和感は残るものの、孔が切れたような痛みはない。経験の差というやつが、羞恥心と中和して複雑な感情である。
竜ヶ崎の背中に顔を埋めて口をまごつかせる。
「な、なんか……すごかった。あんなのを他の女の子としてたのって聞くのは野暮なことくらい分かってんだけどさぁ」
返答のない竜ヶ崎に「それよりもゴム着けてなかったから、あんなに……その、むず痒くなってたのかな」と話を変えた。
すると、あ、と言って立ち止まる。「やべ。あれ、もしかしたら媚薬入りのローションだったかもしんねぇわ」とさらりと衝撃的なことを抜かした。
これには、弓月も羞恥心を忘れて「それ使用済みの物だったら許さねぇからな!?」と怒声を浴びせた。さらに解せないのは、この怒りに竜ヶ崎は嬉しそうに笑って新品だと言ったことだった。
「どうしてそんなもん買ってんのさ!」
「来る日に備えて——」
「準備だけは一丁前に!」
「もちろん、身体目的じゃないからな」
「当たり前だ!」
「でも、来る日が来て良かった」
そう言った竜ヶ崎の顔はおぶられていて見ることができなかった。
竜ヶ崎のことをデカワンコとあだ名で呼んでいた医者が弓月を叱る。「しっかり傷開いてるし。痛くなかったの?」。
終始青ざめた竜ヶ崎に付き添われ、病院に連れて行かれた弓月。けろっとしている弓月を余所に、「今回は俺のせいだ」と後悔を口にする。
医師は竜ヶ崎と弓月を交互に見て、にんまりとする。二人の間に繋がった何かを察したらしい。
「まぁほどほどにしなさいよー。僕、外科医だから弓月君のお尻事情は治してあげらんないからねー」
「へぁ?! え、先生……? 何言ってんの?」
「あれ? そういうことじゃなかった?」
「違わねぇ」
「シロまで!? 」
「デカワンコ君の方がよっぽど覚悟が決まってるね。前は耳垂れたただのデカイだけのワンコだったのに」と竜ヶ崎に刺激を与える医師は、弓月の患部を処置しながらこともなげにいう。
「それより、ゆづの傷は大丈夫なのか」
「ああ、そこは僕の担当だから任せて。でも、その他はちゃんと君が面倒見るんだよ」
「弓月君って話してるだけでも感じるほど無垢だからさ——あ、もう無垢じゃなくなったんだっけ」と今日はどこまでも挑戦的な先生に、弓月は竜ヶ崎と先生への視線を右往左往させて困惑する。
「大丈夫! デカワンコ君が弓月君のことを好きだってのは、君がここに運ばれた時から知ってるよぉ! それこそ、彼がそういうことを隠さないもんだからさぁ」
弓月だけが困惑するので、竜ヶ崎は「……覚悟が決まって無かっただけで、俺の方が先だった」と白状する。
「だよねぇ。だからあの日、弓月君が寝てる間にこっそりキスしてたもんね」
処置の最中に弓月が驚愕して頭を揺らした。おかげで、ピンセットが患部を突き刺してしまい、また出血をする。医師も爆弾を投下した自覚なしに、弓月を叱る。「こら、頭動かしちゃダメでしょ」。
「い、いやいや。無理でしょ?! 先生何言ってんの?!」
痛みに堪えながら医師に噛み付いて見せるが、羞恥心を隠すのにはちょうど良い。
「えー、だって見えたんだもん」
「だもんって——」
医師と茹蛸になった弓月のやりとりを「その話は、後で俺がちゃんと説明すっから、こっからはちょっと」と竜ヶ崎が止めた。
「……ごめんごめん。弓月君、後ろのデカワンコ君が今の君の赤くなった顔を見られたくないから、これ以上はダメなんだって! さっさと処置済ませて、また一週間後に今度こそ、そこのデカワンコ君と抜糸しにおいでよ」
したり顔で竜ヶ崎を見た後、「良かったね、弓月君」と今度こそ優しい言葉をかけてくれた。竜ヶ崎を知ることを勧めてくれた医師に、感謝してもしきれない。
病院を出ると、ネット帽を被った弓月に「おぶってくから乗れ」と背中を貸してくれる。それに遠慮せず飛び乗る弓月。
「よし、おぶられたから、寝込みを襲った件については目を瞑れよな」
「え、説明なしにそれぇ?!」
「説明も何も、あの医者が言ったことが全てだ」
「それよりも辛くねぇか、ケツの方は」と完全に話を逸らしたが、大人しく脱線されてやる。
初体験で頭部の傷口が開いて出血するという忘れられない結末を迎えたわけだが、一段落すると病院での新事実と相まって羞恥心がやってくる。
しかしながら、尻の奥が未だむずむずしているような違和感は残るものの、孔が切れたような痛みはない。経験の差というやつが、羞恥心と中和して複雑な感情である。
竜ヶ崎の背中に顔を埋めて口をまごつかせる。
「な、なんか……すごかった。あんなのを他の女の子としてたのって聞くのは野暮なことくらい分かってんだけどさぁ」
返答のない竜ヶ崎に「それよりもゴム着けてなかったから、あんなに……その、むず痒くなってたのかな」と話を変えた。
すると、あ、と言って立ち止まる。「やべ。あれ、もしかしたら媚薬入りのローションだったかもしんねぇわ」とさらりと衝撃的なことを抜かした。
これには、弓月も羞恥心を忘れて「それ使用済みの物だったら許さねぇからな!?」と怒声を浴びせた。さらに解せないのは、この怒りに竜ヶ崎は嬉しそうに笑って新品だと言ったことだった。
「どうしてそんなもん買ってんのさ!」
「来る日に備えて——」
「準備だけは一丁前に!」
「もちろん、身体目的じゃないからな」
「当たり前だ!」
「でも、来る日が来て良かった」
そう言った竜ヶ崎の顔はおぶられていて見ることができなかった。
0
あなたにおすすめの小説
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
百合豚、男子校に入る。
揺
BL
百合をこよなく愛する男子高校生・眞辺恵。
母の歪んだ価値観により共学への進学を断たれ、彼が入学させられたのは――
男同士の恋愛が“文化”として成立している、全寮制男子校《私立瑞嶺学園》だった。
この学園では、生徒会長は「抱かれたいランキング」で選ばれ、美貌こそが正義とされる世界。
それでも眞辺は決意する。
生徒会長になり、この学校を“共学”に変え、間近で百合を拝むことを。
立ちはだかるのは、顔面至上主義の学園制度、性に奔放すぎるイケメンな幼馴染、そして彼らに憧れ恋をする生徒たち。
さらに何故か、学園の人気者たちに次々と目をつけられてしまい――。
百合を拝むため男子校を変えようとする異端者が、歪んだ王道学園を改革する物語。
【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】
彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。
高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。
(これが最後のチャンスかもしれない)
流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。
(できれば、春樹に彼女が出来ませんように)
そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。
*********
久しぶりに始めてみました
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
隣の番は、俺だけを見ている
雪兎
BL
Ωである高校生の湊(みなと)は、幼いころから体が弱く、友人も少ない。そんな湊の隣に住んでいるのは、幼馴染で幼少期から湊に執着してきたαの律(りつ)。律は湊の護衛のように常にそばにいて、彼に近づく人間を片っ端から遠ざけてしまう。
ある日、湊は学校で軽い発情期の前触れに襲われ、助けてくれたのもやはり律だった。逃れられない幼馴染との関係に戸惑う湊だが、律は静かに囁く。「もう、俺からは逃げられない」――。
執着愛が静かに絡みつく、オメガバース・あまあま系BL。
【キャラクター設定】
■主人公(受け)
名前:湊(みなと)
属性:Ω(オメガ)
年齢:17歳
性格:引っ込み思案でおとなしいが、内面は芯が強い。幼少期から体が弱く、他人に頼ることが多かったため、律に守られるのが当たり前になっている。
特徴:小柄で華奢。淡い茶髪で色白。表情はおだやかだが、感情が表に出やすい。
■相手(攻め)
名前:律(りつ)
属性:α(アルファ)
年齢:18歳
性格:独占欲が非常に強く、湊に対してのみ甘く、他人には冷たい。基本的に無表情だが、湊のこととなると感情的になる。
特徴:長身で整った顔立ち。黒髪でクールな雰囲気。幼少期に湊を助けたことをきっかけに執着心が芽生え、彼を「俺の番」と心に決めている。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる