復讐代行

深海雄一郎

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父と母

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松前警部補ともう一人の刑事は、被害者の遺族が待っている警察病院に向かった。被害者のことについて詳しく調べるためである。霊安室で、打ちひしがれている遺族と面会した。『警視庁捜査一課の松前と申します。こっちは部下の田中です。』警察手帳を見せて、霊安室から一旦出てもらい、隣の部屋で事情聴取を開始した。『こんな時に恐縮ですが、一刻も早く娘さんを殺した犯人を捕まえるためにご協力していただきたい。』老夫婦は、私たちにできることなら協力しますと、承諾してくれた。

父親は、斎藤伸一、56歳。職業は、歯科医を務めている。母親は、斎藤美代子 、54歳。専業主婦である。
『娘さんのご職業は』
『この近くにある会社でOLをしていました。』
『スマホの着信履歴を拝見しましたが、娘さんとは最近まで、連絡を取り合っていたようですね。』
『ええ、娘が一人暮らしをする条件が、家を出てからもちゃんと連絡を取り合うということでしたから。』父親の斎藤伸一が答えた。
『それでは、娘さんのマンションを訪ねたこともおありですか。』
『訪ねたことは2度ありましたが、ここ数年は尋ねていません。』と父親。
『奥さんもですか。』『ええ』力なく母親は呟いた。夫は見かねたのか、『刑事さん。申し訳ないが、家内は大変ショックを受けておりまして、尋問は、私だけにして、家内は帰してもよろしいでしょうか』と松前に頼んだ。松前は少し考えたが、『分かりました。奥さんには、また後ほど詳しいお話を伺うということで。ここまでは、旦那さんの運転する自動車でこられたんでしたね。もしよろしければ、部下に自宅まで送らせますが』『どうかそうしてやってください。』夫が頼んだ。妻は部下の田中刑事と一緒に部屋を去った。
『貴方には申し訳ありませんが、質問の続きをさせてください。』
『単刀直入に伺いますが、娘さんが誰かに恨まれていたということはありませんか。』
『いえ、私の知る限りでは。娘は優しい子でしたから。』
『では最近、娘さんに変わったことは。例えば何か悩みがあるとか』
『務めている会社の愚痴はよく聞きましたが、それぐらいですね。』
『愚痴というと、上司のパワハラが酷いとかですか』
『いえ、直属の上司の人は優しい人だと娘から聞いていました。ただ、残業が多いとか、給料が少ないとか、そんな些細な事です。』
『なるほど。特に深刻な悩みはなかったという事ですね。』父親は頷いた。
『娘さんには彼氏がいたようですが、ご存知ですか。』
『ええ、それは知っています。小川君といって娘とは幼馴染の間柄でした。』
『この人ですか』松前は、斎藤茜の部屋にあった男の写真を見せた。
『ええ、この写真に写っているのは間違いなく、小川君です。』 
『幼馴染と聞きましたが、具体的には』
『小学校から中学校まで一緒でした。非常に仲がよく、娘と二人で家に来ることもありました。大学で偶然また同じになって、交際に発展したと聞いていました。』
『そうですか。小川さんの現在の職業はわかりますか』
『小さな出版社に勤務していると、娘から聞いていました。確か、この近くにある中野出版社だと言っていました。』それから数分ほど尋問が続いたが、一旦自宅に帰すことにした。斎藤伸一の乗る車を見送った後に、入れ違いで田中刑事が戻ってきた。『だいぶ憔悴していましたね。大丈夫ですかね。』『旦那さんも帰したことだし、心配することはないだろう。』その時、松前のスマホが鳴った。『松前主任。被害者の斎藤茜の恋人と名乗る男性から、被害者のスマホに連絡がありました。今、彼は大学病院に向かっています。』
『わかった。病院で彼を待つことにするよ。』夕日が沈みかけている午後6時頃のことであった。

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