追放呪術師と吸血鬼の冒険譚

夜桜

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1 何もしていないと勘違いされた呪術師、パーティーを追われる

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「ユウナ、栄えある我がパーティーで何もしていないお前は不必要だ。戦う気も無いお前は、追放処分とする」

 鈍色の髪に紫紺の瞳をした青年ユウナは、パーティーをまとめているリーダーのゲオルグに話があると部屋に呼ばれて、中に入って椅子に座っている彼の姿を見た直後にそう宣言される。

「……まず、なんで何もしていないと判断した」

 もちろん何もしていないわけでは無いので、追放される理由が分からずに訪ねる。

「何を以ってしてだと? そんなもの、戦闘中に腕や指を振るったり両手でよく分からん印を結ぶだけで、その場から一歩も動こうとしないからだ!」

 ゲオルグは不快感を露わにして、怒鳴るように言う。

「待て。何もしていないわけじゃ無い。呪術を使っている間はその場所から動き回ることができないという縛りがあるんだ」
「言い訳は無用だ! そんな苦しい言い訳が通用するとでも思っているのか」

 誤解をしていると察してそれを解こうとするが、ゲオルグは聞く耳を持たず唾を飛ばしながら叫ぶように言う。

「言い訳じゃ無い、これは本当の話だ。魔術とは違って、呪術は何かしらの縛りを自分に課しておかないと、最大限の力を発揮できないんだ」
「それを言い訳というんだ! そんな見苦しいものを並べる暇があるんだったら、さっさとこの場から出ていけ! お前が視界に入っているだけで不愉快だ!」

 呪術とは名前の通り呪いの術だが、本質は他者では無く自分を呪って何かしらの制限しばりをかけておくことでその能力を大幅に上昇させることだ。
 ユウナが自分に課している縛りは、術の行使中は自分を中心に半径二メートル以上動いてはいけない、両足の裏を片方でも地面から離してはいけないというものだ。
 移動するとしたら、足が地面から離れないようにくっつけたまますり足で移動するしかない。

 広い範囲を素早く移動できないため、常にその場から極力動かないようにしている。ゲオルグはそれを戦う意思が無いものと思い込んでいるらしい。
 確かに術を使っている間は片方の足すら動かすこともできない。そう思われてしまうのも仕方の無い話だが、納得がいかない。

「不可視の斬撃と炎の呪術しか使えないが、両の術式の殺傷能力だけは無駄に高い。だから雇ってやったというのに、パーティーに入ってからはその場から動かないで意味不明な印を両手で結んでいるだけか、腕を無意味に振っているだけ。これだったら、斥候役でも雇うべきだったな」

 その言い方に、普段温厚なユウナも流石にカチンときた。

「炎はともかく、もう片方は見えないんだから理解しろと最初に言ったはずだ」
「うるさい、黙れ! 何もできやしない落ちこぼれの分際で、この俺に意見するな!」

 苛立ちが頂点を迎えたゲオルグがより大きな声で怒鳴ると、近くにあるテーブルを掴んでユウナに向かって投げ付ける。
 ユウナはそれを右手を指を少し動かすだけで呪術を起動させて両断し、衝突を防ぐ。

「物理的攻撃力はもう足りているし、魔術的攻撃力も足りている。その場から動こうともせず、ロクな攻撃も仕掛けていないお前は、最早お荷物だ。分かったならさっさと出ていけ!」

 一度部屋に通ずる扉の方をちらりと見てから、温厚だから気弱だと思っているユウナを威圧するように睨み付けながら早く立ち去るように促す。
 この時少しだけ違和感を感じる。
 なんだか妙に、ここから立ち去ることを急かしているように感じるのだ。

「最後に一つだけ聞く。俺の追放はお前の独断か、それとも他のメンバーと話し合っての結果か?」

 そうゲオルグに訊ねると、痛いところを突かれたかのような表情をして体をびくりと震わせる。

「……お前の追放は、他のメンバーと話し合っての結果だ。これ以上話すことは何も無い。五秒以内に出て行かないなら、ここでお前を斬って捨てるぞ!」

 一瞬言葉に詰まって言い淀むゲオルグ。それから、早く出て行かないユウナがうざったいのか、激しく貧乏揺すりをしながら腰にかけている剣の柄を握る。

「……分かった。特別このパーティーに拘りなんて無いからな。大人しく退散させてもらうことにする」
「おーう、すぐに出て行け、さっさと出て行け、そして二度と俺たちの前に姿を表すな!」

 ユウナ自ら出て行くと宣言すると、とても嬉しそうな顔をするゲオルグ。そして右手をしっしっと払う。

「最後に一つだけ言っておく。正面にいる敵だけじゃなくて、広く全体を見て状況を把握しながら戦った方が身のためだ」
「はっ! お前ごときに心配される必要も無い! 百体に襲われたら、一対一を百回行えばいいだけの話だろう!」

 そんなバカみたいな芸当ができるのは、おとぎ話や伝説に登場する英雄くらいだ。
 自分がそんなことをできると信じてやまないらしいゲオルグを呆れたような目で見ながら、ユウナは部屋を退散する。
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