追放呪術師と吸血鬼の冒険譚

夜桜

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2 呪いたくても呪えない呪術師

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 追放された後、とりあえず適当な安宿を見つけることにした。
 お金には困っていない。だが大富豪というわけでも無いので、少しでもお金を節約できるようにと安いところに部屋を取るのだ。

 ゲオルグは体裁ばかり気にして、やたらと宿賃の高いところに泊まろうとすると、飲食店に入るにも高級店ばかりだった。
 散財癖が凄まじく、酷い時はその日の稼ぎを数時間で使い果たしてしまうほど、金銭感覚が壊れていた。
 それは他のメンバーからかなり咎められていたのだが改善する兆しは無く、ユウナがなんとか言いくるめて最高級では無いが雰囲気はそうと感じるような場所に誘導させていた。

 おかげで節約癖がついたユウナ。あの時はなんとも思わないが、一人になるとその癖をつけてよかったと思う。

「他の奴らに気を回さなくてもよくなると、随分と気が楽になるものだな」

 安宿の部屋を取ってしばらく椅子に腰をかけてぼんやりとこの先のことを考えていたが、だんだん腹が立ってきたので冒険者組合に行って探索許可証を発行してもらって、魔物という化け物がいる森に入った。

 魔物とは大昔のある時期から突如現れた謎に満ち溢れた生命体で、世界最大の敵だ。
 なんでも壊すことと、姿が何かの生物の姿を崩したように歪な化け物であることから、魔物と呼ばれるようになった。あとは、かつては創作物の中にしかいないものだと思われていた怪物もおり、それも魔物と一括りにされている。

 最初は根絶することに世界は重きを置いていたのだが、廃絶が不可能という結論が出てからは如何にして人類を守るかに視点を置き換え、その結果として冒険者という役職が誕生した。
 皮肉な話だ。人類の敵が存在しているからこそ、冒険者という職が成り立って金を稼いで食にありつけているなんて。

 森に入ったユウナは、耳に呪力を集めて聴力を底上げしながら進んでいく。
 呪術は「斬撃」と「炎」の二種類しか使えないが、呪力単体で肉体の強化やその他五感の強化もできるので、持て余してはいない。
 あと、どういうわけか呪力強化無しの状態でもかなり身体能力は高く、よく自分の体はどうなっているのだろうと不思議に思うことがある。

「少しでも調整間違えると『捌解はちかい』に巻き込むし、『炎開えんかい』も火力を間違えると火の海になるから面倒な制御をしていたが、それをしなくていいと思うととてつもなく楽だ」

 『捌解』は斬撃の呪術、『炎開』は炎の呪術だ。どちらも殺傷能力に超特化している呪術で、それなりに応用も効くので使い勝手はいい方だと思っている。
 ただ『捌解』は攻撃そのものが術師以外には見えないので、理解してくれない人が見れば本当に何もしていないと思われるだろう。
 『炎開』も自分から放つ必要は無く、対象に直接炎を点けることも可能だ。

 パーティーで魔物を倒しにいくと、大体ゲオルグや他の戦士系の冒険者が前に出て射線の邪魔になる場所に立つので、下手に呪術を使うことができなかった。
 呪術は己に何かしらの制限をかけることで範囲効果や威力を底上げできるので、ユウナは動かないという制限をかけることで能力を拡張し、精密な操作を行っていた。

 『捌解』と『炎開』も両方とも、自分から放つのでは無く対象に直接術を発動させることで、射線が重ならないようにしていた。
 そしてゲオルグ自身が戦っている魔物にしか意識を向けていなかったこともあり、ユウナだけで無く他のメンバーも揃って苦労していた。

 それでも最上位とまで呼ばれるとことまで上り詰めたのは、ゲオルグ自身の戦闘能力と、他メンバーの能力の高さだろう。
 本当は誰も見えないところまでユウナがカバーし、負担を減らそうと魔物を全員の視界に入る前に倒していたから、割とスムーズに行っていたのだ。

 理解も感謝もされなくてもいいから、とにかく何もしていないわけで無く呪術でそれなりの援護はしていたことだけは認知していて欲しかった。
 そう思うとますます腹が立ってきた。

「あんな奴ら、落ちぶれてしまえばいい。魔物自体、一体一体が割と強力。囲まれて食われて死んでしまえ」

 最下級の魔物を一体、援護無しで一人で倒しきる。それが冒険者になるための試験で、それを突破した人間だけが資格を与えられる。
 ゲオルグ自身はもう、最下級どころで上位の個体と戦っても勝てるだろうが、それは一対一たいまんでの話だ。
 二体三体程度なら遅れは取らないかもしれないが、その場合は一気にケリをつけないと戦闘音や血の匂いにつられて別の個体がやってくる。大抵その時は、十体以上がまとめてやってくることが多いので、そうなったら彼一人ではどうにもならないだろう。

 ユウナは複数の魔物にフクロ叩きにされている姿を想像し、どうかそれが現実になるようにと呪詛を唱える。
 呪術師の真骨頂である呪いをろくに使えないので、呪詛ったところで何もできないので、言った後にため息を吐いててくてくと怒りとイラつきをぶつけるための相手を探す。
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