3 / 13
3 呪術師追放後
しおりを挟む
ユウナを追い出したゲオルグは、これ以上無いほど上機嫌だった。昼間から酒場に行って、度数が弱いとはいえ発泡酒を呷っている。
(やっと邪魔者がいなくなった! あんな二つの術しか使えない出来損ないなんか、元から不必要だったんだ!)
心の中ではそう言っているが、実際はパーティーメンバーの女性三名が、彼ばかりを頼りにしていたことが心底気に食わなかったのだ。
三人いる女性陣は揃って美人、美少女だ。実力のある———隠しているが容姿も飛び抜けていること———女性ばかりを狙ってしつこく勧誘し続けた結果、色々と融通を利かせることを条件に加入してくれた。
元々女性陣は三人で女性だけのパーティーを組んでおり、それだけでそれなりの成績を残していたので勧誘するのにかなり手間取った。
それでその条件とは、三人が過去に面倒を見てもらった男性を一人加入させることだった。
男一人に女性複数人のハーレムを夢見ていたが、その三人の条件を飲むと言ってしまった手前拒否することができず、それで加入したのがユウナだった。
ユウナ自身、実は一人で七年ほど活動をしており、女性陣三名は過去に色々と戦い方などを教えてもらったことがあるらしい。
三人曰く、限定的過ぎる呪術でも努力を重ねて広い範囲での応用を可能にし、更に冷静な状況分析能力のおかげで最初期の頃はかなり助けられたから、恩返し的な意味も兼ねて指定したとのことだ。
ゲオルグがそれが、吐き出してしまいそうなほど気に食わなかった。
(雑魚呪術師なんか必要無い! 術師ならもっと広く術が使えなきゃ役に立たねぇってのに二つしか使えねぇし、そのくせ女に持て囃される顔をしているからって調子に乗りやがって!)
魔術と呪術は、利用する力の源は全く違うが共通点はいくつかある。
それは、適性ある人間には生まれついて最低でも一つの術式、魔術なら生得魔術、呪術なら生得呪術を持っているということ。
そして生まれ持った術式の内容からどの術に向いているかが把握でき、その方面の教育ができる。
生まれ持った術式が攻撃関連であれば、攻撃魔術特化の魔術師に育てられる。回復系だったら回復魔術師、支援形だったら支援魔術師と、一生の術師人生に大きく影響する。
ユウナは稀な二つの術式を持って生まれたらしいが、その二つだけで全ての容量を使い果たしているかのように、他の呪術を覚えることができない。
これはいわゆる欠陥で、見下される傾向にある。ゲオルグもまた、欠陥を抱えるユウナのことを見下していた。
「あれ、ユウナ先生は?」
「いつもここにいるのに、おかしいなー」
「今日はたくさんの魔物に囲まれた時の対処法とか、詳しく教えて欲しかったのに」
三杯目の発泡酒を注文したところで、女性陣三名が酒場にやってくる。
いつ見ても美人、美少女揃いだ。これからは余計な男を視界に収めることなく、白髪高身長スレンダーに黒髪眼鏡っ娘巨乳、金髪清楚系美少女を拝むことができると思い、鼻の下を伸ばす。
「あぁ、あいつなら出て行った」
「はぁ!? 先生が出て行った!? なんで!?」
ユウナのことを先生と呼んで慕う白髪スレンダーの美女アリシアは、ゲオルグの言葉が信じられずに大きな声を出してしまう。
「もう面倒が見きれないんだとさ。お前たち、分からないことがあったらなんでもあいつに頼っていたじゃないか」
「そ、それは先生がなんでも好きな時に好きなだけ聞いてもいいって言っていたから……」
金髪清楚系の美少女リリアは、二つの呪術しか使えないのに幅広い知識を持っているユウナを尊敬し、新しいことを教えてもらうことが嬉しくて仕方が無かった。なので、三人の中で最もユウナに質問を繰り返していた。
「ありえない。ユウ先生は確かに生得呪術しか使えないけど、数が少ない分それだけを極めたすごい人。自分の呪術と似た系統の魔術を広く研究しているし、自分でも超が付くお節介焼きって言ってたから、面倒を見きれなくなって出て行くなんてあるはずがない」
黒髪眼鏡っ娘のリンが、疑わしい目を向けながら言う。リンもまた呪術師だが、遅延・阻害といった弱体化系の呪術専門だ。
あまり戦闘には役に立たないと思っていたが、ユウナと出会い魔術からヒントを得ることで術式の幅が広がり、敏腕弱体特化呪術師となった。
三人が三人、ユウナのことを先生と慕う。恩返しをしたいから呼んだということもあってか、突然抜けたと言われてかなりショックを受けているようだ。
「面倒を見きれないのもそうだが、やはりというか劣等感を感じていたらしいぞ? 同じ術師なのに、生得呪術以外何も使えないのに対して、お前たちはあいつが教えたことをスポンジのように吸収する。自分にできないことを目の前でやられてみろ。普段温厚なあいつでも、劣等感や嫉妬心くらい抱く」
悪びれも無く嘘を伝えるゲオルグ。ここで素直に追い出したなんて言ってしまえば、この三人は速攻でこのパーティーを抜けてゆうなを追いかけて行くだろう。それだけは避けたい。
ゲオルグの目的は一つ。アリシアたち三名の尊敬の眼差しを自分に向けさせて従順な女にして、好きなようにして最高のハーレムライフを送ること。
どんな強い女でも、危機一髪のところで助けられればその時の動悸を恋のものと勘違いする。
それを何度も重ねていけば、いずれピンチの時に助けてくれるのはゲオルグだと認識して、頼るようになる。そんなお粗末な計画を、頭の中で思い浮かべている。
「所詮あいつは、才能のない凡人だ。比べてお前たちは、次々と後得こうとく魔術、後得呪術を習得している。世の中生きていけるのは、優れた才能を生まれ持った人間だけなのだろうな」
意気消沈といった様子の女性三人に言うが、それは届かなかった。
アリシアとリリアはただ、なんでも知っているユウナから様々なことを教えてもらうことが楽しくて嬉しくて仕方がなかっただけだったのに、教えてもらって次々と習得していったことが彼を傷付けていたのかと思い、目尻に涙を浮かべる。
唯一リンは、ゲオルグの言葉に疑問を強く抱いていたが、今この場に当の本人がいないので真偽の確かめようも無く、ゲオルグの完全独断で勝手に追い出したのか、もしかしたら本当に自分たちに嫌気がさして出ていったのではないかと考えを巡らす。
結局アリシアたちはその場のゲオルグの言葉を一旦信じるしかなく、落ち込んだ気分のままその場を後にした。
(やっと邪魔者がいなくなった! あんな二つの術しか使えない出来損ないなんか、元から不必要だったんだ!)
心の中ではそう言っているが、実際はパーティーメンバーの女性三名が、彼ばかりを頼りにしていたことが心底気に食わなかったのだ。
三人いる女性陣は揃って美人、美少女だ。実力のある———隠しているが容姿も飛び抜けていること———女性ばかりを狙ってしつこく勧誘し続けた結果、色々と融通を利かせることを条件に加入してくれた。
元々女性陣は三人で女性だけのパーティーを組んでおり、それだけでそれなりの成績を残していたので勧誘するのにかなり手間取った。
それでその条件とは、三人が過去に面倒を見てもらった男性を一人加入させることだった。
男一人に女性複数人のハーレムを夢見ていたが、その三人の条件を飲むと言ってしまった手前拒否することができず、それで加入したのがユウナだった。
ユウナ自身、実は一人で七年ほど活動をしており、女性陣三名は過去に色々と戦い方などを教えてもらったことがあるらしい。
三人曰く、限定的過ぎる呪術でも努力を重ねて広い範囲での応用を可能にし、更に冷静な状況分析能力のおかげで最初期の頃はかなり助けられたから、恩返し的な意味も兼ねて指定したとのことだ。
ゲオルグがそれが、吐き出してしまいそうなほど気に食わなかった。
(雑魚呪術師なんか必要無い! 術師ならもっと広く術が使えなきゃ役に立たねぇってのに二つしか使えねぇし、そのくせ女に持て囃される顔をしているからって調子に乗りやがって!)
魔術と呪術は、利用する力の源は全く違うが共通点はいくつかある。
それは、適性ある人間には生まれついて最低でも一つの術式、魔術なら生得魔術、呪術なら生得呪術を持っているということ。
そして生まれ持った術式の内容からどの術に向いているかが把握でき、その方面の教育ができる。
生まれ持った術式が攻撃関連であれば、攻撃魔術特化の魔術師に育てられる。回復系だったら回復魔術師、支援形だったら支援魔術師と、一生の術師人生に大きく影響する。
ユウナは稀な二つの術式を持って生まれたらしいが、その二つだけで全ての容量を使い果たしているかのように、他の呪術を覚えることができない。
これはいわゆる欠陥で、見下される傾向にある。ゲオルグもまた、欠陥を抱えるユウナのことを見下していた。
「あれ、ユウナ先生は?」
「いつもここにいるのに、おかしいなー」
「今日はたくさんの魔物に囲まれた時の対処法とか、詳しく教えて欲しかったのに」
三杯目の発泡酒を注文したところで、女性陣三名が酒場にやってくる。
いつ見ても美人、美少女揃いだ。これからは余計な男を視界に収めることなく、白髪高身長スレンダーに黒髪眼鏡っ娘巨乳、金髪清楚系美少女を拝むことができると思い、鼻の下を伸ばす。
「あぁ、あいつなら出て行った」
「はぁ!? 先生が出て行った!? なんで!?」
ユウナのことを先生と呼んで慕う白髪スレンダーの美女アリシアは、ゲオルグの言葉が信じられずに大きな声を出してしまう。
「もう面倒が見きれないんだとさ。お前たち、分からないことがあったらなんでもあいつに頼っていたじゃないか」
「そ、それは先生がなんでも好きな時に好きなだけ聞いてもいいって言っていたから……」
金髪清楚系の美少女リリアは、二つの呪術しか使えないのに幅広い知識を持っているユウナを尊敬し、新しいことを教えてもらうことが嬉しくて仕方が無かった。なので、三人の中で最もユウナに質問を繰り返していた。
「ありえない。ユウ先生は確かに生得呪術しか使えないけど、数が少ない分それだけを極めたすごい人。自分の呪術と似た系統の魔術を広く研究しているし、自分でも超が付くお節介焼きって言ってたから、面倒を見きれなくなって出て行くなんてあるはずがない」
黒髪眼鏡っ娘のリンが、疑わしい目を向けながら言う。リンもまた呪術師だが、遅延・阻害といった弱体化系の呪術専門だ。
あまり戦闘には役に立たないと思っていたが、ユウナと出会い魔術からヒントを得ることで術式の幅が広がり、敏腕弱体特化呪術師となった。
三人が三人、ユウナのことを先生と慕う。恩返しをしたいから呼んだということもあってか、突然抜けたと言われてかなりショックを受けているようだ。
「面倒を見きれないのもそうだが、やはりというか劣等感を感じていたらしいぞ? 同じ術師なのに、生得呪術以外何も使えないのに対して、お前たちはあいつが教えたことをスポンジのように吸収する。自分にできないことを目の前でやられてみろ。普段温厚なあいつでも、劣等感や嫉妬心くらい抱く」
悪びれも無く嘘を伝えるゲオルグ。ここで素直に追い出したなんて言ってしまえば、この三人は速攻でこのパーティーを抜けてゆうなを追いかけて行くだろう。それだけは避けたい。
ゲオルグの目的は一つ。アリシアたち三名の尊敬の眼差しを自分に向けさせて従順な女にして、好きなようにして最高のハーレムライフを送ること。
どんな強い女でも、危機一髪のところで助けられればその時の動悸を恋のものと勘違いする。
それを何度も重ねていけば、いずれピンチの時に助けてくれるのはゲオルグだと認識して、頼るようになる。そんなお粗末な計画を、頭の中で思い浮かべている。
「所詮あいつは、才能のない凡人だ。比べてお前たちは、次々と後得こうとく魔術、後得呪術を習得している。世の中生きていけるのは、優れた才能を生まれ持った人間だけなのだろうな」
意気消沈といった様子の女性三人に言うが、それは届かなかった。
アリシアとリリアはただ、なんでも知っているユウナから様々なことを教えてもらうことが楽しくて嬉しくて仕方がなかっただけだったのに、教えてもらって次々と習得していったことが彼を傷付けていたのかと思い、目尻に涙を浮かべる。
唯一リンは、ゲオルグの言葉に疑問を強く抱いていたが、今この場に当の本人がいないので真偽の確かめようも無く、ゲオルグの完全独断で勝手に追い出したのか、もしかしたら本当に自分たちに嫌気がさして出ていったのではないかと考えを巡らす。
結局アリシアたちはその場のゲオルグの言葉を一旦信じるしかなく、落ち込んだ気分のままその場を後にした。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【状態異常無効】の俺、呪われた秘境に捨てられたけど、毒沼はただの温泉だし、呪いの果実は極上の美味でした
夏見ナイ
ファンタジー
支援術師ルインは【状態異常無効】という地味なスキルしか持たないことから、パーティを追放され、生きては帰れない『魔瘴の森』に捨てられてしまう。
しかし、彼にとってそこは楽園だった!致死性の毒沼は極上の温泉に、呪いの果実は栄養満点の美味に。唯一無二のスキルで死の土地を快適な拠点に変え、自由気ままなスローライフを満喫する。
やがて呪いで石化したエルフの少女を救い、もふもふの神獣を仲間に加え、彼の楽園はさらに賑やかになっていく。
一方、ルインを捨てた元パーティは崩壊寸前で……。
これは、追放された青年が、意図せず世界を救う拠点を作り上げてしまう、勘違い無自覚スローライフ・ファンタジー!
追放悪役令嬢、辺境の荒れ地を楽園に!元夫の求婚?ざまぁ、今更遅いです!
黒崎隼人
ファンタジー
皇太子カイルから「政治的理由」で離婚を宣告され、辺境へ追放された悪役令嬢レイナ。しかし彼女は、前世の農業知識と、偶然出会った神獣フェンリルの力を得て、荒れ地を豊かな楽園へと変えていく。
そんな彼女の元に現れたのは、離婚したはずの元夫。「離婚は君を守るためだった」と告白し、復縁を迫るカイルだが、レイナの答えは「ノー」。
「離婚したからこそ、本当の幸せが見つかった」
これは、悪女のレッテルを貼られた令嬢が、自らの手で未来を切り拓き、元夫と「夫婦ではない」最高のパートナーシップを築く、成り上がりと新しい絆の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる