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7 呪術師と吸血鬼が冒険者をするワケ
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シルヴィアに手を引かれ、彼女自身があれこれ目を引かれて寄り道をしながら組合に向かう。
早く早くと無邪気に笑うシルヴィアは魅力的で、行き交う人が目を奪われる。同時に、ユウナに対して恐ろしい殺気が向けられる。
そんな居心地の悪さを感じながら進み、シルヴィアがどこに組合があるのか分からないのでユウナが先を歩くことになり、やっぱり途中でシルヴィアが変なものに気を引かれてしまうので、すぐに着くはずの組合に到着するまでに三十分はかかった。
そしてようやく到着して、受付に向かってシルヴィアが明るい声で登録をしたいと申し出る。
「申し訳ありません。新規登録は週始めからとなりますので、書類の記入は本日できますが試験は明日ですので、待っていただくことになります」
「そんなっ!?」
うきうきと登録をしにやってきたのに、今日は登録ができないと言われてあからさまに凹む。
「だから言っただろ、登録は今日中には終わらないって」
「い、言ってないじゃんそんなこと!」
「言った。けどそればかりが頭の中にあったから、それを話し出した瞬間に俺を宿から引っ張り出した」
「なら移動中に言ってくれればよかったのにぃ!」
肩を掴んで若干涙目になりながら激しく前後に揺らす。正真正銘の化け物なだけあって、そのシェイクは凄まじい。
「あのー、書類の記入だけはやっておきますか?」
「やっとく!」
受付の人に声をかけられて手を離すシルヴィア。ユウナは激しく揺らされて、世界が回って見えてカウンターに突っ伏す。
その間にシルヴィアがペンを受け取ってその場で差し出された書類に色々と記入し、種族欄のところに馬鹿正直に吸血鬼と記入して少しごたごたがあったりしたが、それ以外の問題は無かった。
♢
「それで、お前はどうして冒険者に登録したいなんて言い出したんだ」
ユウナ自身が個人依頼達成率が高く、特別に森の奥の方に行かなければ練習として魔物を倒してもいいと許可証を発行してもらった。
その時にもそれが気にくわないらしい自称ベテラン冒険者に絡まれたが、シルヴィアが視線を合わせて跪けと言っただけでその内容を実行させ、無駄に注目を浴びながら組合を後にした。
「んー、冒険者ってようは魔物を殺す専門家みたいなものでしょ?」
「最低でも最下級は殺せる必要があるから、一概にそうとは言えないが、そうだな」
「吸血鬼は人口の管理。増え過ぎると自分から数を減らしに行くけど、減り過ぎるのもよくない。魔物は人口を減らす一因だからね。だったらその役割をこなしつつ、お金を稼げれば一石二鳥じゃない」
大抵の冒険者も一攫千金を狙って冒険者になるが、多くが中堅止まり。最上位とまで呼ばれるようになるのは、ほんの一握りだ。
お金が稼げれば重畳なんて言っているが、シルヴィアがそう言っても全く心配にならない。なにせ最下級を倒すことを、石ころを蹴飛ばすくらい簡単だと言ってのけていたし、実際この会話の最中一回すでに襲われているが文字通り一蹴している。
「わたしばかり答えるのはなんだか不公平だから、次はわたしが質問する番ね。ユウナはどうして冒険者をやっているの?」
一蹴した魔物の死体を、どうやっているのか影の中に収納しながら質問する。
「……生きて行くためっていうのと、見返してやるって思ったからだな」
「見返す? 誰を?」
影に収納し終えたシルヴィアが近くに戻ってくる。
「端的に言えば、俺を見下し馬鹿にした連中全てだ。生得呪術しか使えないからと見下し続け、俺のことを人間扱いしてこなかった両親に、奴隷か何かだと勘違いしていたクソ姉貴。いない者のように無視した使用人ども。出来損ないだを嘲ったロクでなしども全てにだ」
次々と憎たらしい顔を思い浮かべて、苦虫を噛み潰したような顔をする。
「随分馬鹿にされてきたんだ」
「こんなでも貴族では無いが、それなりにいいところの家の人間だからな。いわゆる良家ってところに生まれて、そこは才能が全て。才能持たざる者は家の者に在らず。家の者ならざるものは人間に在らず。そんなクソッタレな家訓で当主から使用人に至るまで洗脳された、掃き溜めだったがな」
生得呪術は術師の才能を持って生まれた人間なら、誰でも持つもの。ユウナの実家は何百年も前から呪術一家として名を馳せているため、持って生まれるのは当然のことだった。
生得呪術を持って生まれてもそれは才能と認識されず、その後の成長で習得できる術とその難易度の高さが才能として認められる。
「大体そういう風に差別されている人ほど、すごい力を秘めていることが多いんだけどね」
「どうだろうな。少なくとも俺には、特別な才能は無いらしい。事実、俺は生得呪術以外何も使えない」
「真祖を殺せるだけの力はあるけどね」
「正体が不明なものは無いものと同じだろう。お前でも分からないんだったら、それこそ賢者とか呼ばれる化け物級魔術師と会って、俺の体を解析させるしか無い」
賢者という存在はあくまで都市伝説で、存在していると考えている人間は幼い子供や成長してもその考えを捨てられない大人程度だろう。
何しろ、ありえないのだ。生得魔術、生得呪術はその人間の最適性を示すもので、攻撃であればそれだけしか極めることができない。
都市伝説の賢者という存在は、攻撃、防御、回復、支援、弱体、等々の複数のジャンルの魔術が扱える存在として語られている。
そんな人間は存在しない。いたとしたら国が放っておく訳が無い。そんな化け物がいるという話を聞いたことも無いので、存在しないと結論付けている。
「賢者、ねぇ。そんな奴いないのにね」
「吸血鬼でも、複数は無いか」
「無い無い。真祖特有の能力ってのはあるけど、わたし個人が生まれて持ったのは影の魔術だもん。しかも攻撃特化の」
「真祖特有ってのはあるのか。で、攻撃特化なのにどうやって魔物の死体を影にしまい込んだ」
少なくとも別の場所に保管するというのは、支援系に分類されるもののはずだ。
攻撃特化の術しか使えないはずなのにそれは何なのかと問う。
「攻撃魔術の応用。影に飲み込んでその中でずたずたにするって魔術があるんだけど、飲む込むところでそれ以上術式が進まないようにロックをかけるの。そうすると保管にも使えるようになるのよ」
「……才能があるって便利でいいな」
切ると燃やす以外何もできないので、そんな器用な応用ができるシルヴィアが心底羨ましい。
そのあと、歩きながら一問一答形式で互いに質問して答え合い、片手間で魔物を倒しながら適当に森の中を散策———探索していた。
早く早くと無邪気に笑うシルヴィアは魅力的で、行き交う人が目を奪われる。同時に、ユウナに対して恐ろしい殺気が向けられる。
そんな居心地の悪さを感じながら進み、シルヴィアがどこに組合があるのか分からないのでユウナが先を歩くことになり、やっぱり途中でシルヴィアが変なものに気を引かれてしまうので、すぐに着くはずの組合に到着するまでに三十分はかかった。
そしてようやく到着して、受付に向かってシルヴィアが明るい声で登録をしたいと申し出る。
「申し訳ありません。新規登録は週始めからとなりますので、書類の記入は本日できますが試験は明日ですので、待っていただくことになります」
「そんなっ!?」
うきうきと登録をしにやってきたのに、今日は登録ができないと言われてあからさまに凹む。
「だから言っただろ、登録は今日中には終わらないって」
「い、言ってないじゃんそんなこと!」
「言った。けどそればかりが頭の中にあったから、それを話し出した瞬間に俺を宿から引っ張り出した」
「なら移動中に言ってくれればよかったのにぃ!」
肩を掴んで若干涙目になりながら激しく前後に揺らす。正真正銘の化け物なだけあって、そのシェイクは凄まじい。
「あのー、書類の記入だけはやっておきますか?」
「やっとく!」
受付の人に声をかけられて手を離すシルヴィア。ユウナは激しく揺らされて、世界が回って見えてカウンターに突っ伏す。
その間にシルヴィアがペンを受け取ってその場で差し出された書類に色々と記入し、種族欄のところに馬鹿正直に吸血鬼と記入して少しごたごたがあったりしたが、それ以外の問題は無かった。
♢
「それで、お前はどうして冒険者に登録したいなんて言い出したんだ」
ユウナ自身が個人依頼達成率が高く、特別に森の奥の方に行かなければ練習として魔物を倒してもいいと許可証を発行してもらった。
その時にもそれが気にくわないらしい自称ベテラン冒険者に絡まれたが、シルヴィアが視線を合わせて跪けと言っただけでその内容を実行させ、無駄に注目を浴びながら組合を後にした。
「んー、冒険者ってようは魔物を殺す専門家みたいなものでしょ?」
「最低でも最下級は殺せる必要があるから、一概にそうとは言えないが、そうだな」
「吸血鬼は人口の管理。増え過ぎると自分から数を減らしに行くけど、減り過ぎるのもよくない。魔物は人口を減らす一因だからね。だったらその役割をこなしつつ、お金を稼げれば一石二鳥じゃない」
大抵の冒険者も一攫千金を狙って冒険者になるが、多くが中堅止まり。最上位とまで呼ばれるようになるのは、ほんの一握りだ。
お金が稼げれば重畳なんて言っているが、シルヴィアがそう言っても全く心配にならない。なにせ最下級を倒すことを、石ころを蹴飛ばすくらい簡単だと言ってのけていたし、実際この会話の最中一回すでに襲われているが文字通り一蹴している。
「わたしばかり答えるのはなんだか不公平だから、次はわたしが質問する番ね。ユウナはどうして冒険者をやっているの?」
一蹴した魔物の死体を、どうやっているのか影の中に収納しながら質問する。
「……生きて行くためっていうのと、見返してやるって思ったからだな」
「見返す? 誰を?」
影に収納し終えたシルヴィアが近くに戻ってくる。
「端的に言えば、俺を見下し馬鹿にした連中全てだ。生得呪術しか使えないからと見下し続け、俺のことを人間扱いしてこなかった両親に、奴隷か何かだと勘違いしていたクソ姉貴。いない者のように無視した使用人ども。出来損ないだを嘲ったロクでなしども全てにだ」
次々と憎たらしい顔を思い浮かべて、苦虫を噛み潰したような顔をする。
「随分馬鹿にされてきたんだ」
「こんなでも貴族では無いが、それなりにいいところの家の人間だからな。いわゆる良家ってところに生まれて、そこは才能が全て。才能持たざる者は家の者に在らず。家の者ならざるものは人間に在らず。そんなクソッタレな家訓で当主から使用人に至るまで洗脳された、掃き溜めだったがな」
生得呪術は術師の才能を持って生まれた人間なら、誰でも持つもの。ユウナの実家は何百年も前から呪術一家として名を馳せているため、持って生まれるのは当然のことだった。
生得呪術を持って生まれてもそれは才能と認識されず、その後の成長で習得できる術とその難易度の高さが才能として認められる。
「大体そういう風に差別されている人ほど、すごい力を秘めていることが多いんだけどね」
「どうだろうな。少なくとも俺には、特別な才能は無いらしい。事実、俺は生得呪術以外何も使えない」
「真祖を殺せるだけの力はあるけどね」
「正体が不明なものは無いものと同じだろう。お前でも分からないんだったら、それこそ賢者とか呼ばれる化け物級魔術師と会って、俺の体を解析させるしか無い」
賢者という存在はあくまで都市伝説で、存在していると考えている人間は幼い子供や成長してもその考えを捨てられない大人程度だろう。
何しろ、ありえないのだ。生得魔術、生得呪術はその人間の最適性を示すもので、攻撃であればそれだけしか極めることができない。
都市伝説の賢者という存在は、攻撃、防御、回復、支援、弱体、等々の複数のジャンルの魔術が扱える存在として語られている。
そんな人間は存在しない。いたとしたら国が放っておく訳が無い。そんな化け物がいるという話を聞いたことも無いので、存在しないと結論付けている。
「賢者、ねぇ。そんな奴いないのにね」
「吸血鬼でも、複数は無いか」
「無い無い。真祖特有の能力ってのはあるけど、わたし個人が生まれて持ったのは影の魔術だもん。しかも攻撃特化の」
「真祖特有ってのはあるのか。で、攻撃特化なのにどうやって魔物の死体を影にしまい込んだ」
少なくとも別の場所に保管するというのは、支援系に分類されるもののはずだ。
攻撃特化の術しか使えないはずなのにそれは何なのかと問う。
「攻撃魔術の応用。影に飲み込んでその中でずたずたにするって魔術があるんだけど、飲む込むところでそれ以上術式が進まないようにロックをかけるの。そうすると保管にも使えるようになるのよ」
「……才能があるって便利でいいな」
切ると燃やす以外何もできないので、そんな器用な応用ができるシルヴィアが心底羨ましい。
そのあと、歩きながら一問一答形式で互いに質問して答え合い、片手間で魔物を倒しながら適当に森の中を散策———探索していた。
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