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8 呪術師追放後の危険区域探索
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ユウナを追い出した次の日。ゲオルグは、アリシア、リリア、リンと新しく入れた呪術師の少女の四人を連れて一級危険区域に指定されている森の中を探索していた。
魔物にはそれぞれ四級、三級、二級、一級と分類分けされており、一級が一般的に言われている最上位だ。
その上に準特級、特級の二つの階級があるが、このレベルの強さを持つ魔物は十年に一度出るか出ないかの特別な強さを持った魔物なので、あまり機能していない。
一級危険区域は、その名前の通り一級の魔物が多く揃っている非常に危険な場所。そこに生息している魔物を倒せば、回収できる素材が希少なのでかなりの額稼ぐこともできるし、数が増えて他の人に被害が出ることも少なくなる。
一級の魔物を倒すとまさに最上位冒険者として下位の冒険者に崇められ、煽てられる。もう何度も一級を倒してそれを経験しているゲオルグは、人からちやほやされて金や名声目的でも女が寄ってくるその快感を、何度でも味わいたい。なので一級危険区域に足を運んだのだ。
とはいえ、リンという敵対者を弱体化させる呪術師がいてもそこまで広い範囲をカバーできないという弱点もあるので、もう一人だけ特別に攻撃特化の女性呪術師をパーティーに加入させた。
そんなことならユウナを引き止めていればよかったではないか、今からでも呼び戻すのも遅くないと反発されたが、もう過去のことでどこに行ったかも分からない人間を探すより、新しい術師を呼んだ方が早いと言いくるめられた。
そして現在、五人とも三十体ほどの魔物に囲まれてしまっていた。
「くそっ! どうしてこんなに魔物が集まってくるんだ!」
「当然でしょ! あれだけ大きな戦闘音とこれだけ血の匂いが充満していれば、音と匂いにつられた魔物が寄ってくるに決まっているじゃないの! あとあんたのバカみたいに大きな声も一因よ!」
魔術を拳に乗せて魔物を殴り飛ばすアリシア。彼女は魔術を放つのではなく、体に攻撃魔術を付与して纏うことで、拳術の威力を大幅に強化するという戦い方を取っている。
王国の拳術というのも存在するが、アリシアが取っている構えは王国拳術ではなく、ユウナから教えてもらった千変万化の剛拳と柔拳両方を扱う異色の武術だ。
上半身より下半身、特に足さばきを重視したもので、風に吹かれる木の葉のように攻撃を躱してカウンターを叩き込み、時には暴風のように鋭く重い一撃を叩き込む。
「ま、魔術の呪文詠唱が追いつかないです! 一旦撤退した方が、身のためだと思います!」
「撤退なんてできるか! 一級程度、今まで何度も相手してたやすく倒してきただろう!」
「それはユウ先生がいてくれたから! 自分にかけた縛りのおかげで、かなり広い範囲の魔物を一人で倒してくれていたから、あんたの無茶な戦い方が成立していた!」
「何だと!?」
リリアは一生懸命魔術の呪文を最大限切り詰めて攻撃を魔術を連発するが、倒しても倒しても音と血の匂いに釣られてきた魔物が補充されてしまい、キリがない。
なので撤退を提言するがゲオルグは速攻で却下し、それに対してリンが反論の声をあげる。
「あんな何もしていない奴がいても、この状況は変わらないだろう!」
「変わっている! 確実に! あの人の呪術起動領域は、自分を中心に最大で半径二百五十メートル! この範囲内であればどこでも斬撃の呪術が使える! 今までの余裕は、その恩恵を授かっていただけに過ぎない!」
リンの言った起動領域は、本来術は術者の体から放たれるが、その領域内であればどこからでも術が使えるというものであり、如実に術師としての実力を示している。
一流と言われる魔術師、呪術師の範囲は、広く見積もっても百メートルそこそこだ。その倍以上の範囲を持つユウナがどれだけ優れた呪術師か、リンはよく知っている。
今日初めてパーティーに加入した新入りの呪術師の少女は、自分の五倍以上の広さを持つと言ったユウナに対し、会ってもいないのにもはや尊敬の念を抱き始めた。
「ふざけるな! 生得呪術以外何も使えない奴が、そんな広い範囲をカバーできるわけ無いだろうが!」
「先生のことを何も知らないバカが、知った風な口を聞かないで! それと散々言われていたけど、目の前だけじゃなくてその先のことも考えて戦えって指摘されているのに、何でそれを直さない!?」
「一対一を何度も繰り返せばいいだけの話だろうが!」
追放時にユウナに向かって言った言葉と同じ言葉を、リンに向かって叫ぶ。
そんなバカみたいな戦い方を耳にして、あまりのアホさ加減に呆れかえって一瞬だけ放心してしまった。
「そんな無茶な戦い方は成立しない! あんたの無茶が成立していたのは、全部ユウ先生のおかげなのがまだ分からない!?」
「こんなに苦戦しているのは、お前がロクに弱体呪術を使っていないからだろうが!」
「どんだけ呪力をゴリゴリ削っていると思っているの!?」
倒しても倒しても、一級魔物が次々とやってくる。一度にこの場にいる魔物を殲滅しない限り、撤退すら容易では無い。
「おい、新入り! ぼさっとしていないでさっさと魔物を蹴散らせ!」
「む、無理です! ゲオルグさんが下がってくれないと、私の呪術で一掃できないんです!」
「ピンポイントで攻撃すればいいだろう!」
「五十メートルしか無い範囲でどうしろというのですか!?」
呪文を唱えて魔物を呪い殺し、怒鳴り散らすゲオルグに反発する。
少女は、話の中で出たユウナのことは知らない。ゲオルグやアリシア、リリア、リンの名前は派手に広まっているが、元メンバーだというユウナという呪術師の名前は全く聞かない。
生得呪術しか使えないと聞いてよほど才能が無いと一瞬だけ哀れんだが、呪術の起動領域の広さと女性三名が先生と呼んで慕い、ゲオルグの無茶な戦術が通用してきたのは彼のおかげだと聞き、どうしてそんな優れた人を追い出したのだろうかと、早くも不信感を抱き始めていた。
あまりにも次から次へと魔物がやってくるので、アリシアの頼んで強引にゲオルグを後方に引きずり下ろしてもらい、リンが全ての呪力を振り絞って半ば暴走状態にしてから広範囲の魔物に阻害呪術を施し、リリアと呪術師の少女が全ての魔力、呪力を使い果たす勢いで現在使える最強の術を使うことでなんとか殲滅。
特大の重りを着けられたように重くなった体を引きずりながらその場から撤退し、安全地点に到着してからリリアが持っている隠蔽の効果のある結界を張る魔術道具を使い、しばらくその結界内で休息を取ってから街に戻ることにした。
その際ゲオルグが大声で猛抗議していたが、アリシアが手加減無しのボディーブローを叩き込んで強制的に黙らせた。鎧を着ていてもその威力が浸透する特殊な打撃のおかげで、威張り怒鳴り散らしていたゲオルグはあっさり意識を手放した。
魔物にはそれぞれ四級、三級、二級、一級と分類分けされており、一級が一般的に言われている最上位だ。
その上に準特級、特級の二つの階級があるが、このレベルの強さを持つ魔物は十年に一度出るか出ないかの特別な強さを持った魔物なので、あまり機能していない。
一級危険区域は、その名前の通り一級の魔物が多く揃っている非常に危険な場所。そこに生息している魔物を倒せば、回収できる素材が希少なのでかなりの額稼ぐこともできるし、数が増えて他の人に被害が出ることも少なくなる。
一級の魔物を倒すとまさに最上位冒険者として下位の冒険者に崇められ、煽てられる。もう何度も一級を倒してそれを経験しているゲオルグは、人からちやほやされて金や名声目的でも女が寄ってくるその快感を、何度でも味わいたい。なので一級危険区域に足を運んだのだ。
とはいえ、リンという敵対者を弱体化させる呪術師がいてもそこまで広い範囲をカバーできないという弱点もあるので、もう一人だけ特別に攻撃特化の女性呪術師をパーティーに加入させた。
そんなことならユウナを引き止めていればよかったではないか、今からでも呼び戻すのも遅くないと反発されたが、もう過去のことでどこに行ったかも分からない人間を探すより、新しい術師を呼んだ方が早いと言いくるめられた。
そして現在、五人とも三十体ほどの魔物に囲まれてしまっていた。
「くそっ! どうしてこんなに魔物が集まってくるんだ!」
「当然でしょ! あれだけ大きな戦闘音とこれだけ血の匂いが充満していれば、音と匂いにつられた魔物が寄ってくるに決まっているじゃないの! あとあんたのバカみたいに大きな声も一因よ!」
魔術を拳に乗せて魔物を殴り飛ばすアリシア。彼女は魔術を放つのではなく、体に攻撃魔術を付与して纏うことで、拳術の威力を大幅に強化するという戦い方を取っている。
王国の拳術というのも存在するが、アリシアが取っている構えは王国拳術ではなく、ユウナから教えてもらった千変万化の剛拳と柔拳両方を扱う異色の武術だ。
上半身より下半身、特に足さばきを重視したもので、風に吹かれる木の葉のように攻撃を躱してカウンターを叩き込み、時には暴風のように鋭く重い一撃を叩き込む。
「ま、魔術の呪文詠唱が追いつかないです! 一旦撤退した方が、身のためだと思います!」
「撤退なんてできるか! 一級程度、今まで何度も相手してたやすく倒してきただろう!」
「それはユウ先生がいてくれたから! 自分にかけた縛りのおかげで、かなり広い範囲の魔物を一人で倒してくれていたから、あんたの無茶な戦い方が成立していた!」
「何だと!?」
リリアは一生懸命魔術の呪文を最大限切り詰めて攻撃を魔術を連発するが、倒しても倒しても音と血の匂いに釣られてきた魔物が補充されてしまい、キリがない。
なので撤退を提言するがゲオルグは速攻で却下し、それに対してリンが反論の声をあげる。
「あんな何もしていない奴がいても、この状況は変わらないだろう!」
「変わっている! 確実に! あの人の呪術起動領域は、自分を中心に最大で半径二百五十メートル! この範囲内であればどこでも斬撃の呪術が使える! 今までの余裕は、その恩恵を授かっていただけに過ぎない!」
リンの言った起動領域は、本来術は術者の体から放たれるが、その領域内であればどこからでも術が使えるというものであり、如実に術師としての実力を示している。
一流と言われる魔術師、呪術師の範囲は、広く見積もっても百メートルそこそこだ。その倍以上の範囲を持つユウナがどれだけ優れた呪術師か、リンはよく知っている。
今日初めてパーティーに加入した新入りの呪術師の少女は、自分の五倍以上の広さを持つと言ったユウナに対し、会ってもいないのにもはや尊敬の念を抱き始めた。
「ふざけるな! 生得呪術以外何も使えない奴が、そんな広い範囲をカバーできるわけ無いだろうが!」
「先生のことを何も知らないバカが、知った風な口を聞かないで! それと散々言われていたけど、目の前だけじゃなくてその先のことも考えて戦えって指摘されているのに、何でそれを直さない!?」
「一対一を何度も繰り返せばいいだけの話だろうが!」
追放時にユウナに向かって言った言葉と同じ言葉を、リンに向かって叫ぶ。
そんなバカみたいな戦い方を耳にして、あまりのアホさ加減に呆れかえって一瞬だけ放心してしまった。
「そんな無茶な戦い方は成立しない! あんたの無茶が成立していたのは、全部ユウ先生のおかげなのがまだ分からない!?」
「こんなに苦戦しているのは、お前がロクに弱体呪術を使っていないからだろうが!」
「どんだけ呪力をゴリゴリ削っていると思っているの!?」
倒しても倒しても、一級魔物が次々とやってくる。一度にこの場にいる魔物を殲滅しない限り、撤退すら容易では無い。
「おい、新入り! ぼさっとしていないでさっさと魔物を蹴散らせ!」
「む、無理です! ゲオルグさんが下がってくれないと、私の呪術で一掃できないんです!」
「ピンポイントで攻撃すればいいだろう!」
「五十メートルしか無い範囲でどうしろというのですか!?」
呪文を唱えて魔物を呪い殺し、怒鳴り散らすゲオルグに反発する。
少女は、話の中で出たユウナのことは知らない。ゲオルグやアリシア、リリア、リンの名前は派手に広まっているが、元メンバーだというユウナという呪術師の名前は全く聞かない。
生得呪術しか使えないと聞いてよほど才能が無いと一瞬だけ哀れんだが、呪術の起動領域の広さと女性三名が先生と呼んで慕い、ゲオルグの無茶な戦術が通用してきたのは彼のおかげだと聞き、どうしてそんな優れた人を追い出したのだろうかと、早くも不信感を抱き始めていた。
あまりにも次から次へと魔物がやってくるので、アリシアの頼んで強引にゲオルグを後方に引きずり下ろしてもらい、リンが全ての呪力を振り絞って半ば暴走状態にしてから広範囲の魔物に阻害呪術を施し、リリアと呪術師の少女が全ての魔力、呪力を使い果たす勢いで現在使える最強の術を使うことでなんとか殲滅。
特大の重りを着けられたように重くなった体を引きずりながらその場から撤退し、安全地点に到着してからリリアが持っている隠蔽の効果のある結界を張る魔術道具を使い、しばらくその結界内で休息を取ってから街に戻ることにした。
その際ゲオルグが大声で猛抗議していたが、アリシアが手加減無しのボディーブローを叩き込んで強制的に黙らせた。鎧を着ていてもその威力が浸透する特殊な打撃のおかげで、威張り怒鳴り散らしていたゲオルグはあっさり意識を手放した。
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