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9 試験を瞬殺する吸血鬼
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「はー、なんだか楽しみ! どんな人が試験受けるんだろう」
書類に記入するだけしておいて、あとは森で魔物を手当たり次第倒して少し荒稼ぎさせてもらい、いい具合に収入が入ったのでその日の食事は少しいいものにして、適当なことをして時間を潰して次の日。
シルヴィアにとって待ち望んでいた冒険者登録の試験が、これから行われようとしている。
現在シルヴィアとユウナは、試験場の受験者控え室にいる。他にも受験者が待っていて、軽装どころかもはやただの私服のシルヴィアを、物珍しそうに見ている。
試験は単に、最下級の魔物を単独で倒すことだけ。制限時間は設けられていて、十分は戦っていられる。だが十分以内に倒せたからといって合格がもらえるわけではない。
むしろ時間いっぱい使って倒したら、不合格をもらう。少なくとも五分以内に倒せていないと、合格をもらえる可能性が低くなる。
「ユウナの時は、どんな魔物と戦ったの?」
「雑魚中の雑魚だよ。ゴブリンって、名前くらいは聞いたことあるだろ」
「うん。繁殖力だけ半端じゃない、オークと同じようにメスが存在しないから他種族の女性を使って繁殖する魔物でしょ?」
「あぁ。どんだけ成長しても身長は百二十センチがせいぜいで、力はそれなりにあるが知能も子供並み。ただ弱い故に生存本能が非常に高くて攻撃避けまくるし、とにかくすばしこくて面倒なやつ」
ゴブリンは最下級の中でも特に弱いとされている魔物だ。
シルヴィアの言う通りメスはおらず、他の動物のメスやや人間の女性を襲って繁殖すると言う、特異な繁殖能力を持つ。
しかも孕んでから生まれるまで一週間と短く、生まれたゴブリンが繁殖能力を持つまでは僅か三日なので、一度でも捕まったら一生ゴブリンを増やすための生きた道具にされてしまう。
ただ力は強くても頭が悪いので、捕まりさえしなければ結構簡単に倒せる。動きが割と速いので、意外と攻撃が当たらないこともある。
「そんな雑魚なんだ」
「人によって変わるらしい。時にはコボルトの時もあれば、突進だけが能のチャージボアなこともある」
「じゃあ、ユウナの時は運がよかったんだ」
「あんな雑魚でもいいのかと、罪悪感すら覚えたよ」
そんな話を聞いて、シルヴィアはきっとつまらない試験になるだろうから、過度な期待を抱くのは止めようと認識を改める。
周囲にいる受験者たちは、ユウナの言葉をしっかりと聞いていた。人によって魔物が変わり、それでも戦うのは雑魚だけ。無名の冒険者でさえも罪悪感を覚えるほど弱いものなのかと、その場にいる受験者たちは安堵する。
しばらくして放送が流れ、会場に向かう。安全面を考慮して一角に結界が貼られた安全地帯があり、そこに受験者たちが待機する。
ユウナはとっくに資格を持っている冒険者なので、結界の外に出て見物人としてベンチに腰をかけている。
「ねぇねぇ、よかったら試験の後、俺とパーティーを組まない? 君みたいな綺麗な女の子は、大歓迎だよ」
試験が始まり最初の一人がドーグという犬に似た魔物を戦っている時、隣に立っている爽やか風の青年が声をかけてくる。
魔物と戦う冒険者になるとは思えないほど小綺麗な服装で、香水を付けているのか清涼感のある香りが鼻を刺激する。
「んー、別にいいかな。わたし、もう組む人決めているし」
「それって、あそこに座っている無名冒険者のことかい? あんな奴より、将来世界に名を轟かせるであろうこの俺と組んだ方が、君もいい思いできると思うよ」
「別に富や名声が欲しいわけじゃないし、組みたい人は自分で決めるから勧誘はいらない。それに、確かにあまり名前は知られていないっぽいけど、ユウナは少なくとも個人で一級の魔物を倒せるだけの強さはあるよ」
一級は事実上最上位の魔物。それを一人で倒すことは至難そのもので、それができる冒険者は全ての冒険者の憧れの対象となる。
ユウナがそんな能力を持っているとは思えないのか、声をかけてきた青年を含め他の受験者たちもユウナの方を見る。
それから順調に進んでいき、受験者総数十七人のうち、六名だけが合格している。シルヴィアに声をかけた青年も受かっている。
「やっとわたしの番? 退屈だったなー」
やっと自分の番が回ってきて、軽く伸びをしながら結界の外に出る。
どんな魔物が出てくるのかとぼんやり考えていると、姿を見せたのは特殊な拘束具をつけられた、最下級にしては体が大き過ぎる魔物だった。
「あれ? これって三級の魔物じゃなかったっけ?」
出てきたのは四級の一つ上の三級の魔物、モルモドル。四足歩行で堅い殻に身を守られて、背中に三枚の鋭いブレードのようなものが備え付けられている、やや危険な魔物だ。
後ろを振り向いてユウナを見ると、本人も予想外だったのか驚いた表情をしている。
「あー、そういえば昨日種族名明しちゃってたっけ。四級の最下級魔物じゃ試験にならないって思ったのかな」
だったら事前に教えてくれてもいいではないかと、安全地帯で見守っている試験官を見ながら思う。
「ま、特級じゃなければ雑魚であることに変わりは無いんだけどね」
両手の指を組んでぐーっと前に伸ばす。まるでこれから軽い運動をしにいきそうな雰囲気の軽さだ。
体に巻かれている束縛の魔術道具が外されると、一目散にシルヴィアに向かって行くというその場にいる全員の予想を裏切る。
なんと、モルモドルはシルヴィアを見るなり背を向けて逃げ出そうとしたのだ。
無理もない。何しろ、シルヴィアは吸血鬼の真祖で生物としてのレベルが圧倒的に違うのだから。
「逃げるのは仕方無いけど、試験にならないからさせないよ」
そう言って前に倒れるようにして踏み出し、地面を踏み砕いて一歩で肉薄し、鋭利化させた爪で切り裂いて瞬く間に六つの肉塊に変貌させられてしまう。
「こんなんで資格貰えるなんて、簡単過ぎないかな」
爪を元に戻して、六つの肉塊になってしまったモルモドルを見下ろしながら、ため息混じりに呟いた。
シルヴィアが使った時間は僅か五秒。これは当然最速記録で、この日とんでもない逸材を見つけたと組合内では大騒ぎになった。
もちろんシルヴィアも文句無しの合格をもらい、他六名の合格者はシルヴィアとパーティーを組もうと勧誘してきたが、それらをサクッと無視してユウナと登録を済ませた。
シルヴィアほどの美少女と組んだユウナに対して、呪いが込められていそうなほど怨みがましい目で睨みつけ、その後は渋々と引き下がって妙な友情が芽生えた六名でパーティーを組むことになった。
書類に記入するだけしておいて、あとは森で魔物を手当たり次第倒して少し荒稼ぎさせてもらい、いい具合に収入が入ったのでその日の食事は少しいいものにして、適当なことをして時間を潰して次の日。
シルヴィアにとって待ち望んでいた冒険者登録の試験が、これから行われようとしている。
現在シルヴィアとユウナは、試験場の受験者控え室にいる。他にも受験者が待っていて、軽装どころかもはやただの私服のシルヴィアを、物珍しそうに見ている。
試験は単に、最下級の魔物を単独で倒すことだけ。制限時間は設けられていて、十分は戦っていられる。だが十分以内に倒せたからといって合格がもらえるわけではない。
むしろ時間いっぱい使って倒したら、不合格をもらう。少なくとも五分以内に倒せていないと、合格をもらえる可能性が低くなる。
「ユウナの時は、どんな魔物と戦ったの?」
「雑魚中の雑魚だよ。ゴブリンって、名前くらいは聞いたことあるだろ」
「うん。繁殖力だけ半端じゃない、オークと同じようにメスが存在しないから他種族の女性を使って繁殖する魔物でしょ?」
「あぁ。どんだけ成長しても身長は百二十センチがせいぜいで、力はそれなりにあるが知能も子供並み。ただ弱い故に生存本能が非常に高くて攻撃避けまくるし、とにかくすばしこくて面倒なやつ」
ゴブリンは最下級の中でも特に弱いとされている魔物だ。
シルヴィアの言う通りメスはおらず、他の動物のメスやや人間の女性を襲って繁殖すると言う、特異な繁殖能力を持つ。
しかも孕んでから生まれるまで一週間と短く、生まれたゴブリンが繁殖能力を持つまでは僅か三日なので、一度でも捕まったら一生ゴブリンを増やすための生きた道具にされてしまう。
ただ力は強くても頭が悪いので、捕まりさえしなければ結構簡単に倒せる。動きが割と速いので、意外と攻撃が当たらないこともある。
「そんな雑魚なんだ」
「人によって変わるらしい。時にはコボルトの時もあれば、突進だけが能のチャージボアなこともある」
「じゃあ、ユウナの時は運がよかったんだ」
「あんな雑魚でもいいのかと、罪悪感すら覚えたよ」
そんな話を聞いて、シルヴィアはきっとつまらない試験になるだろうから、過度な期待を抱くのは止めようと認識を改める。
周囲にいる受験者たちは、ユウナの言葉をしっかりと聞いていた。人によって魔物が変わり、それでも戦うのは雑魚だけ。無名の冒険者でさえも罪悪感を覚えるほど弱いものなのかと、その場にいる受験者たちは安堵する。
しばらくして放送が流れ、会場に向かう。安全面を考慮して一角に結界が貼られた安全地帯があり、そこに受験者たちが待機する。
ユウナはとっくに資格を持っている冒険者なので、結界の外に出て見物人としてベンチに腰をかけている。
「ねぇねぇ、よかったら試験の後、俺とパーティーを組まない? 君みたいな綺麗な女の子は、大歓迎だよ」
試験が始まり最初の一人がドーグという犬に似た魔物を戦っている時、隣に立っている爽やか風の青年が声をかけてくる。
魔物と戦う冒険者になるとは思えないほど小綺麗な服装で、香水を付けているのか清涼感のある香りが鼻を刺激する。
「んー、別にいいかな。わたし、もう組む人決めているし」
「それって、あそこに座っている無名冒険者のことかい? あんな奴より、将来世界に名を轟かせるであろうこの俺と組んだ方が、君もいい思いできると思うよ」
「別に富や名声が欲しいわけじゃないし、組みたい人は自分で決めるから勧誘はいらない。それに、確かにあまり名前は知られていないっぽいけど、ユウナは少なくとも個人で一級の魔物を倒せるだけの強さはあるよ」
一級は事実上最上位の魔物。それを一人で倒すことは至難そのもので、それができる冒険者は全ての冒険者の憧れの対象となる。
ユウナがそんな能力を持っているとは思えないのか、声をかけてきた青年を含め他の受験者たちもユウナの方を見る。
それから順調に進んでいき、受験者総数十七人のうち、六名だけが合格している。シルヴィアに声をかけた青年も受かっている。
「やっとわたしの番? 退屈だったなー」
やっと自分の番が回ってきて、軽く伸びをしながら結界の外に出る。
どんな魔物が出てくるのかとぼんやり考えていると、姿を見せたのは特殊な拘束具をつけられた、最下級にしては体が大き過ぎる魔物だった。
「あれ? これって三級の魔物じゃなかったっけ?」
出てきたのは四級の一つ上の三級の魔物、モルモドル。四足歩行で堅い殻に身を守られて、背中に三枚の鋭いブレードのようなものが備え付けられている、やや危険な魔物だ。
後ろを振り向いてユウナを見ると、本人も予想外だったのか驚いた表情をしている。
「あー、そういえば昨日種族名明しちゃってたっけ。四級の最下級魔物じゃ試験にならないって思ったのかな」
だったら事前に教えてくれてもいいではないかと、安全地帯で見守っている試験官を見ながら思う。
「ま、特級じゃなければ雑魚であることに変わりは無いんだけどね」
両手の指を組んでぐーっと前に伸ばす。まるでこれから軽い運動をしにいきそうな雰囲気の軽さだ。
体に巻かれている束縛の魔術道具が外されると、一目散にシルヴィアに向かって行くというその場にいる全員の予想を裏切る。
なんと、モルモドルはシルヴィアを見るなり背を向けて逃げ出そうとしたのだ。
無理もない。何しろ、シルヴィアは吸血鬼の真祖で生物としてのレベルが圧倒的に違うのだから。
「逃げるのは仕方無いけど、試験にならないからさせないよ」
そう言って前に倒れるようにして踏み出し、地面を踏み砕いて一歩で肉薄し、鋭利化させた爪で切り裂いて瞬く間に六つの肉塊に変貌させられてしまう。
「こんなんで資格貰えるなんて、簡単過ぎないかな」
爪を元に戻して、六つの肉塊になってしまったモルモドルを見下ろしながら、ため息混じりに呟いた。
シルヴィアが使った時間は僅か五秒。これは当然最速記録で、この日とんでもない逸材を見つけたと組合内では大騒ぎになった。
もちろんシルヴィアも文句無しの合格をもらい、他六名の合格者はシルヴィアとパーティーを組もうと勧誘してきたが、それらをサクッと無視してユウナと登録を済ませた。
シルヴィアほどの美少女と組んだユウナに対して、呪いが込められていそうなほど怨みがましい目で睨みつけ、その後は渋々と引き下がって妙な友情が芽生えた六名でパーティーを組むことになった。
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