追放呪術師と吸血鬼の冒険譚

夜桜

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10 激しい口論

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 とんでもない新人冒険者が現れたと騒ぎになっている組合。その一角にある酒場で、ゲオルグはユウナの教え子的存在の女性陣三名と新しく加えた呪術師一名と、壮絶な口論をしていた。

「何度言えば分かるの! あんな戦い方、死に急いでいるようなものよ! あんたの今の戦い方に合わせていると、私たちまで無駄死にしかねないわ!」
「冒険者をしている以上死ぬ覚悟はできています。ですが、意味無く死ぬのは嫌です」
「うちらはあんたの道具じゃない。命を懸けてもいいと思えるほど魅力的なリーダーでも無い。あなたに死地に赴けと言われるより、先生の頼みで死地に行くほうがずっといい」

 三人の言葉に、新入り呪術師の少女がこくこくと頷く。

 ゲオルグは気に食わなかった。自分は将来性一番の冒険者だ。一級の魔物だって今まで簡単に倒せてきた。
 一級の魔物に囲まれたことくらい何度もあったのに、今日はそこから切り抜けるのにかなり苦労した。体力も使い果たしてしまい、強化魔術を使うための魔力も使い果たした。

「今回私たちがあんなに苦戦したのは、あんたがまともな戦い方ができていないからよ! あんたの一対一を何度も繰り返すなんて戦い方が上手く行っていたのは、ユウナ先生が寄ってくる魔物を広い起動領域で倒していたからよ!」
「違う! 今まで上手く行っていたのは、この俺の実力故だ! あんな何もしない呪術師がいたところで、何も変わらない!」
「じゃあなんで今日いきなりあんなに苦戦したのか、猿でも分かるくらい簡単に説明してくださるかしら!?」

 大きな声で怒鳴り合うように口論をする一行は、非常に悪目立ちしている。周囲の客も鬱陶しそうな顔をしており、離れた場所にいる金髪に鮮血のような瞳をした美少女は、呆れ返ったような顔をしている。

「そんなの、あいつが俺に何か呪いをかけたのだろう」
「無理に決まっているでしょ! 先生の分野は攻撃! 他人を弱体化させる呪術なんて、今のところリンしかできないけど!」
「なら、あの場の魔物の脅威レベルが上昇していたに違いない! でないと、この俺が苦戦するなんてありえない!」
「あぁあああああああああああもぉおおおおおおおおおおおおおおおお!! いつになったら、このパーティーはユウナ先生抜きじゃ成り立たなくなった歪で不安定なものだって気付くのよ、このポンコツ!?」

 冒険者を始めたはいいが上手く体に魔術を纏わせることができず、伸び悩んでいた時期があったアリシア。この時すでにリリアとリンと組んでおり、二人もどうすればいいのか分かっていなかった。
 そんな時に複数の一級の魔物に囲まれたことがあり、その場からユウナに助けてもらい、以降アリシアは魔術の纏わせ方を教えられてその通りにした途端上手く戦えるようになり、リリアの魔術も効率がよくなり、リンの呪術の幅が広がった。

 ユウナに様々なことを教えてもらった大恩があり、そのおかげで生き残り続けてきた。いわば命の恩人で、恩師だ。
 自分たちがどう言われようと構わないが、恩人恩師を酷く言われるのは不愉快この上ない。
 短い間一緒に組み、目的地が違うからと別れた後に、迎え入れる形でもう一度組んだ。

 ユウナの戦い方をよく理解しているからこそ、一見すれば本当に何もしていないように見えるが、動いてはいけないという強い縛りを己に課して死の矢面に立つこと効果で範囲を大幅に拡張し、陰ながらサポートしてくれたユウナがどれだけこのパーティーの生命線になっていたのかが分かる。

「ぽ、ポンコツ!? この俺がポンコツだというのか!? たかがメンバーのくせに生意気だぞ!」
「あんたは貴族でもなんでもない、リーダーを気取っている底抜けのポンコツよ! 何度同じことを注意しても全く改善しないし、これをそう呼ばずしてなんと呼べばいいわけ!?」

 自分が他人を悪く言うのは構わないと思っているようで、逆に悪く言われることへの耐性が皆無なゲオルグは、よりにもよって一番顔が好みなアリシアからポンコツ呼ばわりされて、ムキになる。
 ぎゃーすぎゃーすと罵り合うように口論を続け、あまりにも埒が明かないので酒場のマスターがきつく叱るまで口論は続いた。

 一旦口論は治るが、組合の外に出て少ししてからまた激しく言い合いになる。

「ともかく、今の戦い方は不安定過ぎるから改善すべきよ!」
「シアちゃんの言う通りです! 一人で広い範囲をカバーできる先生はもういないので、私たちができる範囲で似たようなことをできるようにするか、ゲオルグさん自身の戦い方を見直さないといけません!」
「うちの弱体呪術は下げられる幅にも限度があるから、期待され過ぎても無理。一昨日までみたいに上手くいくとは思わない方が身のため」
「全体を俯瞰できる戦術師の人を一人雇って、その人に指揮してもらいながら戦った方が安全だと思うんですけど……」

 口々に今までのやり方を改善すべきだと提言され、女は男に黙って付き従うものだというカビが生えるほど古臭い考えを持つゲオルグはかなり腹が立ち、顔を真っ赤にする。

「うるさい、黙れぇ! 女は黙って俺の言うことを聞いていりゃいいんだよ!」
「よりにもよって男女差別的な発言なんて、本当ロクでもない男ね!? 先生がどれだけ紳士だったか、魂の底からありがたいと思うわ!」

 結局アリシアたちはゲオルグにユウナがどれだけ陰で支えてきたのかを理解させることはできず、話は平行線なまま終わった。
 あんまりにも腹が立ったのでアリシアがきっついビンタを一発ぶちこんでから、仕事の時以外で話したくもないと吐き捨てるように言い放ってから、頬を貼られて放心したゲオルグを放置して女性陣全員で雑踏の中に消えた。

 その後、全員でヤケ酒をしに酒場に戻りやや度数の強いお酒を注文して愚痴大会を開催している時に、ユウナのことをよく知っている三人は疑問に思った。
 あんなにも気が回って、自分でお節介焼きだと公言したユウナが、面倒を見きれなくなったからと言って何の前触れも無しに脱退するのだろうか、と。

 ユウナに色々と質問した時なんて、教えたくて仕方無かったのか聞いてくれてありがとうと言わんばかりに嬉しそうな顔をしていたし、教えている時も楽しそうで仕方無さそうな様子だった。
 表情が豊かな方では無いが出る時ははっきりと出るので、分かりやすい。嬉しそうだと言った時なんて、本人は全く自覚していなかった様子だ。
 そんなユウナが面倒を見きれないからと出ていったなんて、到底思えない。もしかしたら実はゲオルグが勝手に追い出したのでは無いか。
 そういえば、最初からあまりユウナのことをよく思っていなかったなどと話し合い、顔を見ることができるくらい機嫌が良くなったら直接聞き出そうと新入りを除いた三人で強く決め、確定したら女性全員で一斉に脱退してユウナを探しに行こうとも決めた。
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