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13 街に感じる血の香りの正体
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「その、衝動に呑まれた真祖の居場所っていうのは、すでに把握しているのか?」
小休止を終えて再び次の街への移動を開始する。
その最中、隣を走るシルヴィアに手当たり次第では無いだろうなという意味も込めて聞く。
「把握はできていないけど、どこにいるかは何と無く分かる。こんなでも吸血鬼という種全体で見れば、わたしって実は結構力を持っている方でね。直感でしか無いんだけど、どこに真祖がいるのかっていうのは何となく分かるの」
「便利だな」
「大雑把な方角くらいしか分からないけどね。距離とかは少し掴みづらいけど、近付けば気配で分かるから真祖がいる場所に着いたら、あとは簡単」
「気配で分かるものなんだな」
「ユウナも知っていると思うよ? わたしを反射的に攻撃した時、どう考えても人の気配や存在感の大きさじゃなかったでしょ? それよりももう少し精密に感じ取れる程度」
言われて、昨日のことを思い出す。
反射的に茂みに向かって攻撃したのは、明らかに人間のそれでは無く、ましてや魔物のものでも無かった。
姿が見えていないのに存在感の強大さは息が一瞬詰まりそうになるほどで、ほとんど本能に近い動きをしていた気がする。
「それを感じ取れるだけ近くに行けば、あとは場所を特定するのは簡単なのか?」
「簡単ってほどじゃないけど、誘き出す手段はいくらでもあるのよ。吸血衝動って性欲に近い部分もあるから、軽めに魅了をつかっておけば、勝手に釣れると思うよ」
「魅了? お前の魔術は影によるものじゃ無かったか?」
「影の攻撃だけだよ。これは吸血鬼という種族そのものに宿っている、種族特性みたいな奴。本当は目に集中させることで目を合わせた相手を魅了する魔眼として機能するんだけど、それを全体に薄く引き伸ばすと効果も弱くなるの。衝動の強い吸血鬼は、それでも十分簡単に釣れるわ」
「強制命令もこの魅了の魔眼を応用したものだよ」と追加で補足する。
魅了の魔眼で強制命令とはどういうことかと思ったが、強く魅了された対象は言いなりになりやすいので、それを使ってのものだろうと考える。
しかし、吸血衝動が性欲に近いものと言われて、少しどきりとした。そういうつもりで言った訳ではないのはわかりきっているのに、どうしても吸血鬼という種族全体が性欲の強いものだと考えてしまう。
もし軽いシルヴィアが衝動に駆られているとしたらどんな反応をするのだろうか。なんて本人を目の前にしてしては行けない余計なことを考えてしまう。
♢
更に移動すること四時間。合間に何度か休憩を入れながら移動し、次の目的地となる街が遠目に見えてきた。
数時間前までいた街はアドヴェントという最も冒険者が集まる街で、遠目に見えている街は農業が盛んなアグリカルという場所だ。
活火山が近くにありその火山灰が混じった土は非常に上質で、栄養満点で美味しい野菜や果物などが育つ。
比例して畜産業も同じくらい盛んで、上質な土で育ったいい野菜を食べさせているため、柔らかく味わいのある上質な肉を持った家畜が育てられている。
この国の王都に住まう王族や貴族も、多くがアグリカルから取り寄せた野菜や肉を使った料理を嗜んでいる。
非常に長閑な街で実はデートスポットとしても有名な場所もいくつかあり、野菜以外の植物などが華々しく育っている田園もあり、観光地としても有名だ。
いつもだったら観光客に溢れて活気付いているアグリカルだが、いざ街の中に入ってみると、相変わらず観光客は多いには多いのだが、記憶の中にある人数と比べると随分と少なく感じる。
「いつもはもっと人がいるはずなんだが、なんか少ないな」
「心無しか、ちょっと暗い雰囲気もあるよね。閉まっているお店もいくつかあるみたい」
まだ夕飯時では無いにしろ、軽いお茶休憩や軽食を取る人はいくらでもいる時間帯だ。そんな人たち向けに開けているはずであろう喫茶店や飲食店は、シルヴィアのいう通りいくつか『閉店中』の看板を掲げている。
「……なあ、シルヴィア。もしかして、ここにお前の探している真祖が現れたんじゃ無いのか?」
シルヴィアが殺すために探している呑まれた真祖十二体。そのうちの一体がここに現れたのでは無いかと推測するが、シルヴィアは頭を左右に振って否定する。
「ここに気配は無い。けど、血の匂いはある。誰かがここで殺されていると思うよ」
「誰が誰をどう殺したのか、なんて馬鹿正直に真正面から聞き出すのは気が引けるな」
「あら、ここはわたしの魔眼の出番じゃなくって?」
「情報引き出すには有効かもしれないが、それされた人は嫌な気分だろう」
「そこは安心して。上手くやるから」
ぱちりと左目を閉じてウィンクして言うシルヴィア。その宣言通り、手当たり次第に人から聞くのではなく、街中で見かける警備兵を中心に情報を集めようとしていた。
魅了の魔眼を常に使っているのかどうかは不明だが、使った時は相手の反応が実に分かりやすかった。
魅了の魔眼を使っただろうなと思った時は、ただの観光客には何が起きたのかを言うつもりは無いと言っていたのに、数秒後にはその言葉が嘘のようにするすると情報を教えてくれていた。
解除した後も分かりやすく、全ての情報を話して閉まったことを自覚していないのか、話すことは何も無いから早くどこかへ立ち去れと言っていた。
そういったことを何度か繰り返しているうちに分かったのは、化け物のように大きな狼や犬っぽい獣に、街の住人や観光客が襲われて食われたということだった。
小休止を終えて再び次の街への移動を開始する。
その最中、隣を走るシルヴィアに手当たり次第では無いだろうなという意味も込めて聞く。
「把握はできていないけど、どこにいるかは何と無く分かる。こんなでも吸血鬼という種全体で見れば、わたしって実は結構力を持っている方でね。直感でしか無いんだけど、どこに真祖がいるのかっていうのは何となく分かるの」
「便利だな」
「大雑把な方角くらいしか分からないけどね。距離とかは少し掴みづらいけど、近付けば気配で分かるから真祖がいる場所に着いたら、あとは簡単」
「気配で分かるものなんだな」
「ユウナも知っていると思うよ? わたしを反射的に攻撃した時、どう考えても人の気配や存在感の大きさじゃなかったでしょ? それよりももう少し精密に感じ取れる程度」
言われて、昨日のことを思い出す。
反射的に茂みに向かって攻撃したのは、明らかに人間のそれでは無く、ましてや魔物のものでも無かった。
姿が見えていないのに存在感の強大さは息が一瞬詰まりそうになるほどで、ほとんど本能に近い動きをしていた気がする。
「それを感じ取れるだけ近くに行けば、あとは場所を特定するのは簡単なのか?」
「簡単ってほどじゃないけど、誘き出す手段はいくらでもあるのよ。吸血衝動って性欲に近い部分もあるから、軽めに魅了をつかっておけば、勝手に釣れると思うよ」
「魅了? お前の魔術は影によるものじゃ無かったか?」
「影の攻撃だけだよ。これは吸血鬼という種族そのものに宿っている、種族特性みたいな奴。本当は目に集中させることで目を合わせた相手を魅了する魔眼として機能するんだけど、それを全体に薄く引き伸ばすと効果も弱くなるの。衝動の強い吸血鬼は、それでも十分簡単に釣れるわ」
「強制命令もこの魅了の魔眼を応用したものだよ」と追加で補足する。
魅了の魔眼で強制命令とはどういうことかと思ったが、強く魅了された対象は言いなりになりやすいので、それを使ってのものだろうと考える。
しかし、吸血衝動が性欲に近いものと言われて、少しどきりとした。そういうつもりで言った訳ではないのはわかりきっているのに、どうしても吸血鬼という種族全体が性欲の強いものだと考えてしまう。
もし軽いシルヴィアが衝動に駆られているとしたらどんな反応をするのだろうか。なんて本人を目の前にしてしては行けない余計なことを考えてしまう。
♢
更に移動すること四時間。合間に何度か休憩を入れながら移動し、次の目的地となる街が遠目に見えてきた。
数時間前までいた街はアドヴェントという最も冒険者が集まる街で、遠目に見えている街は農業が盛んなアグリカルという場所だ。
活火山が近くにありその火山灰が混じった土は非常に上質で、栄養満点で美味しい野菜や果物などが育つ。
比例して畜産業も同じくらい盛んで、上質な土で育ったいい野菜を食べさせているため、柔らかく味わいのある上質な肉を持った家畜が育てられている。
この国の王都に住まう王族や貴族も、多くがアグリカルから取り寄せた野菜や肉を使った料理を嗜んでいる。
非常に長閑な街で実はデートスポットとしても有名な場所もいくつかあり、野菜以外の植物などが華々しく育っている田園もあり、観光地としても有名だ。
いつもだったら観光客に溢れて活気付いているアグリカルだが、いざ街の中に入ってみると、相変わらず観光客は多いには多いのだが、記憶の中にある人数と比べると随分と少なく感じる。
「いつもはもっと人がいるはずなんだが、なんか少ないな」
「心無しか、ちょっと暗い雰囲気もあるよね。閉まっているお店もいくつかあるみたい」
まだ夕飯時では無いにしろ、軽いお茶休憩や軽食を取る人はいくらでもいる時間帯だ。そんな人たち向けに開けているはずであろう喫茶店や飲食店は、シルヴィアのいう通りいくつか『閉店中』の看板を掲げている。
「……なあ、シルヴィア。もしかして、ここにお前の探している真祖が現れたんじゃ無いのか?」
シルヴィアが殺すために探している呑まれた真祖十二体。そのうちの一体がここに現れたのでは無いかと推測するが、シルヴィアは頭を左右に振って否定する。
「ここに気配は無い。けど、血の匂いはある。誰かがここで殺されていると思うよ」
「誰が誰をどう殺したのか、なんて馬鹿正直に真正面から聞き出すのは気が引けるな」
「あら、ここはわたしの魔眼の出番じゃなくって?」
「情報引き出すには有効かもしれないが、それされた人は嫌な気分だろう」
「そこは安心して。上手くやるから」
ぱちりと左目を閉じてウィンクして言うシルヴィア。その宣言通り、手当たり次第に人から聞くのではなく、街中で見かける警備兵を中心に情報を集めようとしていた。
魅了の魔眼を常に使っているのかどうかは不明だが、使った時は相手の反応が実に分かりやすかった。
魅了の魔眼を使っただろうなと思った時は、ただの観光客には何が起きたのかを言うつもりは無いと言っていたのに、数秒後にはその言葉が嘘のようにするすると情報を教えてくれていた。
解除した後も分かりやすく、全ての情報を話して閉まったことを自覚していないのか、話すことは何も無いから早くどこかへ立ち去れと言っていた。
そういったことを何度か繰り返しているうちに分かったのは、化け物のように大きな狼や犬っぽい獣に、街の住人や観光客が襲われて食われたということだった。
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