追放呪術師と吸血鬼の冒険譚

夜桜

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12 吸血鬼の目的

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 全力で移動すること二時間。かつていた街はすでに遥か後方へと過ぎ去り、街を守るように囲う巨大な外壁すら見えなくなった。
 ユウナとシルヴィアがいる場所はまさに魔境。危険な魔物が跋扈し、常に死と隣り合わせとなる一級指定の危険区域だ。
 多くの冒険者が一攫千金を夢見て挑み、多くの冒険者が敗れて魔物の栄養か大地の肥やしとなった。

「それで、目的っていうのは何なんだ? これだけ離れて魔物だらけな場所にいれば、いい加減話しても大丈夫だろう」

 ユウナは人間なので長時間の移動は難しく、それでも二時間ぶっ通しで移動し続けたと思うと、いかに人間離れしているかが分かる。
 少し休憩を取ることにして、ついでにそろそろ話してもいいだろうと目的を話すことを促す。

「そうね、ここまで来れば平気かな。……わたしの目的っていうのはね、他の真祖を殺すことなの」

 明るいお気楽な雰囲気が一転して、真剣そのものに成り代わる。その声音と目付きで、茶々を入れると殺されかねないと錯覚する。

「真祖を殺すって、仲間割れでもしているのか?」
「ううん、違う。言ったと思うけど、真祖っていう存在は動物や人間から血を吸う必要が無い。吸血衝動が無いからね。けど、あることが原因でその衝動を発症してしまう真祖が現れるの。いわば、生まれる時にできてしまった欠陥、障害というべきかしら」

 真祖に血を吸われた人間は眷属になり、決して抗うことのできない吸血衝動を持つ。しかし真祖はその衝動が無く、役割を果たす時のみに人間の血を吸う。
 だが結局は吸血鬼。血の匂いや味というのはこれ以上ないほど甘美なものらしく、稀に趣味嗜好として動物や魔物の血を吸ったり、どこからか輸血用の血液を取り寄せて飲むことがあるらしい。

 この場合はあくまで、人間と同じように一風変わっているが実は美味しい料理を味わう程度だが、その真祖がいるよりもなお少ない確率で、とある原因で眷属同様強い衝動を持って生まれてしまう真祖もいる。
 真祖は眷属と比べ物にならない力を持ち、その力の強さはまさに大災害。たった一体だけで小国くらいなら墜とすだけの力を持っている。
 衝動を抑えるために無差別に人を襲う、不死身同然の真祖。想像するだけで恐ろしい。

「衝動は苦痛そのもので、一度でもそれを和らげるために人間の血を吸うと強い依存性を得てしまう。そうなったらもう止められない。吸血鬼にとって最高級食材となる人間の生き血を、衝動を抑えようとして現れる禁断症状という苦痛を無くすために吸い続ける獣に成り下がる。そんな真祖が十二体、野に放たれたの」
「なあ、それって結構ヤバいやつなのではないか?」

 眷属とかだったら、まだなんとかなるかもしれない。だがシルヴィアがやろうとしているのは、その衝動に呑まれて無差別に人を襲う獣に成り下がった真祖だ。
 ユウナは一度シルヴィアを殺してしまっているが、吸血鬼は世界の守護種族として生まれた存在。簡単に殺すことはできず、肉体が殺されても殺される前の情報が世界に保存されている以上、殺すことは実質的に不可能だ。

 シルヴィア曰く、吸血鬼は魂が本体だがそれ単体では世界に存在できないため、留めておく器が必要となる。本体を守る器となる肉体は簡単に壊されてしまうわけにはいかないため、役割を果たすためという意味以外にも、本体を守るために強い力が与えられている。
 故に同族同士以外では傷付けることも殺すことも難しい。そして真祖同士でも、殺し合うのは至難だという。

「結構どころじゃないわ。早めに見つけて衝動を生まれ持ってそれに呑まれた真祖を殺さないと、とんでもない被害が出てしまう。一度でも血の味を覚えた吸血鬼は、この先永遠に歯止めが効かなくなる」
「だから、人の身でありながら真祖を殺せる俺の力を借りたいってことか」
「そういうことになるわね。人間を増やし過ぎず減らし過ぎない。それが吸血鬼の役割。四百年前に一度大幅に数を減らしているから、あと向こう数百年はその必要は無い。今血を吸って眷属を増やすと、人口が減り過ぎてしまう」

 自然の観点から見れば、環境を破壊して数種類もの動物などを絶滅に追い込んだ人間は、いないほうがいいのかもしれない。破壊する存在がいないのであれば、自然は伸び伸びと成長することができる。
 だが、世界の調停者と万生の支配者を生み出した世界は、人間が滅ぶのを望まなかった。だから滅ぼすためでなく、数を減らして自然を残すために真祖にのみ眷属増殖能力を与えた。

「真祖は同じ真祖でも殺すのに苦労する。身体能力はわたしたち程で無いにしろ、並の人間よりはかなり高いし、何より真祖を即死させるだけの何かがある。わたしが興味持っているのはその部分で、それが判明すれば上手く使いこなす方法を編み出せるかもしれないし」
「生得呪術以外に何かあればの話だがな」

 今分かっていることは、人間では傷付けることが容易では無い真祖を殺すことができ、攻撃した対象は概念的に殺されていること。
 概念的に殺されるということは、存在の意味自体が完全に死滅するため、意味が無くなったものは元通りにはならないということ。例外的に真祖の吸血鬼は意味が無くなる前の体を保管しているが、ユウナの場合はその保管されている情報すらも破壊するらしい。
 壊れていた情報はそこまで酷くなかったので、世界からのバックアップもあって修復できたが、もし概念を殺して意味を破壊できるそれを掌握できるのであれば、世界のバックアップがあっても二度と再生できないようにすることができるのでは無いだろうか。

 もしそうなればユウナという存在はかなり大きなものとなる。暴走した真祖殺しも比較的楽になるかもしれないし、楽になるということは人口の急激な減少という不安材料も、比較的簡単に取り除くことができる。
 もっとしっかりと観察してその能力を見極め、真祖殺しを手伝わせよう。シルヴィアは胸中でどのように利用するかを考えながら、木の幹に寄りかかって休憩しているユウナのことをじっと見つめる。
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