あいつが俺の番なわけない

第二十九話

圭太との電話を終えると、出産を終えたΩの男性が話しかけてきた。

　「君もΩでしょ？今の電話の人は番かい？」

　「え・・っと・・・」

　「運命の番らしいね。けど俺的には難しいと思うよ」

ギクリとなる。それもそうだ、知っているのだからとため息を吐くと男性が更に追い打ちをかける。

　「何？暴力的なのそれとも女癖が悪いの？」

　「いえ。違いますよ！？というより俺からの質問として二人は、どうやって番になったんですか？」

　「た・・・田中君？」

職員の男性が声が裏返っているような声を出して動揺している。それを見てΩの男性はニヤリと笑った。

　「僕とコイツの出会いは交差点だよ。お互いの匂いに気づいて辺りを見渡してさ。同じようにキョロキョロしていたもんだから見つけられたんだけどね？それでも他の人から見たら面白かったかもしれないね」

交差点で二人で探し合ったのか・・・。
　その点、自分たちは運が良いのかもしれない、もし地域が違えば会えてないかもしれなかったのだから。そういえば他の二人も近くの人だったはずだけど・・・。

　



圭太は隆が出産に立ち会って弱っているのにつけこんで、優しい言葉でもかければ株が上がるかと思ったが辞めた。そんな事で株が上がっていたなら、幼馴染としての称号が意味がない。
　今日も今日とて武と雷の面会に立ち会う圭太は、頬にボールペンを押し上げながら内心では、どの答えが良いのかと考えていた。

　「おい、オカマ、聞こえてるのか？」

　「へ？ぁ、ごめんなさ～い、ボーっとしてたわ、うふふ」

　「隆君との電話でしょ？なんか言ってた？」

　「出産に立ち会って泣いてたんですって」

　「出産に？」

　「もぉ声が感動してたわね。ぐずぐず言ってたわ」

隆が自分の子供を出産してくれたなら、どんなに幸せだろうか？なんて思いながら隆が自分に振り向いてくれることをユックリ待つことにする。
　いつまで経っても良い、どんなに待っても良い、隆が本当に愛を持って自分に振り返ってくれれば問題はない。

　「さて、今日はどんな話でもするのかしら？」

　「雷に加納さんへの暴力を謝ってほしい！じゃないと俺も先に進めない！」

　「加納って、あの時の女か？武と付き合ってると思って・・」

　「加納さんは・・・、誰とも番に慣れないんだよ・・・？俺と同じ番が居ないんだ。俺より最悪なのは元々の性別がないんだよ」

　「そんなことあるのか？」

　「えぇ、彼女には番も出来ないし、かといって妊娠も出来ない体質なのよ。悲しい事に家からも追い出されたようよ・・」

二人が寂し気に話すと雷は居心地が悪くなったらしく頷いた。

　「実際会って謝りたいけど、今はまだ俺の拘束はとけないんだろ？電話か何か出来ないか？その後で拘束が解けた時にキチンと謝罪したい」

　「あら、良い心がけね」

　「本当か？」

　「武には嫌われたくないし、問題があったのは俺だ。なんなら土下座でも何でもしよう」

土下座と聞いて、そうとう反省していると武は思ったらしく圭太をチラリと見上げた。
　圭太は優しくニッコリ笑うと、懐から携帯電話を取り出した。

　「これは施設専用。もちろん加納さんにもつながるわ。スピーカーにするから話をするかしら？」