あいつが俺の番なわけない

嵯乃恭介

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第二十八話

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隆は電話より圭太の顔を見たいと思って施設に向かうと、妊夫の男性が道で蹲っていたので声を掛けると妊夫は、どうやら陣痛だということが判ったので、慌ててタクシーを拾って一緒についっていった。
 そして病院につくと、すぐに出産準備に入り何故か隆も中に入り妊夫の男の手を握ることを言われて握りながら出産に立ち合うことになっていることになってしまった。
 
 そして数時間後、声を掛けていた隆も疲れ切っていたが命の誕生に感動して涙が零れた。抱きかかえられているのは女の子だが、元気な泣き声で部屋の外まで聞こえているんじゃないだろうか?

 「ありがとう、君がいなかったら・・・この子は死んでいたよ。僕もね」

 「いえ、でも俺が立ち合ってしまって、旦那さんに悪い事をしましたね」

 「あはは。そうでもないさ、まぁけど絶対立ち合うんだーと言っていたけどね。居ないんだから仕方ないよ」

と、そこに慌てた様子で着替えて入ってくる男が入って来た。

 「あ、遅いよバーカ」

 「これ・・でも・・・はぁはぁ・・・いそいだほうだ」

どうやら旦那さんの登場のようだ。

 「君が助けてくれたのか?ありがとう、・・・ん?」

生まれてきた赤子を抱きかかえながら旦那は隆の方をジッと見てきた。

 「田中隆君じゃないか?」

 「え?なんで俺の名前・・・」

 「知ってるの?」

 「ほら君の番が窓ガラス割った施設の職員だよ。今は陣さんの代わりに働いてくれているけど」

 「不思議な縁ですね。けれどあの施設で匂いとか判りませんけど・・・」

 「防護服や薬もあるけどね、番以外には滅多にヒートにはならないようになってるはずだが?」

 「確かに防護服を着てましたね。けど陣さんは?」

 「あの人か、あの人は常に薬で制御してたけれど恐らく反動があって番のΩには見ただけでも発情するんじゃないかな?」

ふと、太田の顔が浮かんだ。保健室で倒れている時に襲われていたのを思い出すと太田が巣作りに入ったらすごいことになるのではないだろうか?と思ってしまい、何も聞けないが・・・

 「えっと田中君だっけ?本当にありがとう。君がいなかったら僕もこの子も死んでいたよ。情けない番の所為で」

 「うーわー、遠回しの言い回しは酷くないか?」

 「田中君、どこかに行く途中だったんじゃない?ごめんね、僕の所為で」

 「いえいえ、今からでも間に合いますよ」

と話をしていると携帯が鳴り隆は慌てて病室を出て電話を確認せずに出ると声を聞いただけで心臓が跳ね上がった。

 『たかちゃん?ひさしぶりー、最近どう?元気にしてる?かまってあげられなくてごめんねぇ?』

声を聞いてこみ上げてきたのは涙だった。何か分からないが出産での興奮が治まらないのもあるかもしれない。けれど圭太の声を聞き、よくわからない感情がこみ上げ、涙が零れ心臓が苦しく感じた。

 『たかちゃん?どうしたの?泣いてる・・・?』

 「・・・ぃ・・いや、違う・・・久々に・・・お前の声聞いたなって」

 『うふふ、たかちゃんったら、今日は甘えん坊ね?』

 「うっせー!つか陣さんはいつ戻るんだよ!」

 『兄さん?そうねまだ発情期期間があるし、いつも通りならまだ続くわね』

 「そうか・・・、まだまだ忙しそうだな」

 『あら?本当にどうしたの?』

 「誠也からの話は聞いてる。あと今日、妊夫の出産に立ち会った」

それを聞いて圭太が何を思ったのかは分からないが、隆自身も何が言いたいのか分からなかった。
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