不死の王様は一人ぼっち

嵯乃恭介

文字の大きさ
19 / 52
三章

加賀見と言う青年の話3

しおりを挟む
ふむ、とりあえず追い付けなかったようだ。
気配は消えている。
私は逆に妖魔を見つけた。
言葉が通じるかは判らないが、出来れば撤退してほしいものだ。

誰にも見られてないと確信して森の木の上に飛び乗る。
勢いよく森の木々が揺れながら、キャンプ場を目指しているのを見つけた。

「元気だねぇ。って感心してる場合じゃないな」

私は急いで、回り込もうとして木の上を移動しながら追いかけた。
おっと、向こうも気づいたのか、こちらに視線を送っているじゃないか、案外話せばわかるのではないのか?
勢いよく走っていたスピードが下がり、やがて止まった。

こちらとしても、ありがたいが何かありそうで少々警戒するべきか。
木の上から降りると、ボロボロの布切れを被った子供だった。
久しぶりに驚いたが、同じ姿の妖魔なら話が通じるだろう。

「君、この先に何か用事あるのかい?」

「おまえ・・おな・・じ・・・な・ぜくわ・・ない」

言葉は通じるが、赤子の覚えたてのように喋っている。
生まれたばかりなのかと考えるが、どういう事か判らないが、子供は私と【同類】の気がしてきた。
近くに来てから匂いで確信した。
土や血の匂いが入り混じっているが、ほのかに自分と似た匂いが感じられた。

「うーん、どうやら出てきたばかりのようだね。ちょっと失礼」

子供は抵抗するが、力では負けないので余裕で口を開かせることが出来た。
鋭い犬歯、赤い瞳。
うん、間違いない、腹減りモードで私と同じだ。
初めて【同族】に会ったな。

「ちょっと待ってね。これで我慢してくれるかな?」

ポケットから出したのは、非常用の輸血パック。
子供は、首を傾げて匂いを確認している。

「これ・・なに?」

私は輸血パックを開けて、子供の前で見本を見せるように一口飲んだ。
子供はビックリして目がキョトンとなっていた。
興味を持ったのか、グイグイと私の袖を引っ張ってきた。
私は子供に手渡した。

子供は同じようにしようと頑張るが、力加減が判らないのかパックから血が飛び散ってしまった。
本当に生まれたばかりのようだ。
これはこれで面白いことになりそうだ。


「見つけたぞ!!!妖魔!!!」

加賀見が息を切らして現れた。
汗だくで今にも死にそうなくらい呼吸をしている。

私の前に居る子供の姿を見て、加賀見は怒り狂うように叫んだ。

「子供から離れろ!!!!」

「たべもの・・・きた」

「あ」

止める前に、子供が跳躍し加賀見に伸し掛かろうとしたので、寸でのところで首根っこを掴んだ。
一瞬の出来事に加賀見は、呆然としていた。

またこのパターンか・・・。

「お互いに待ちなさい。加賀見君、とりあえず、追い付けたことは褒めてあげる。ちょっと説明だけさせて?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...