不死の王様は一人ぼっち

嵯乃恭介

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最終章

生きているのが幸福

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「父は事故にあって、視力、足を失いました」

「ドジ踏んだのか」

そんな年になってしまったのかと思うと、終わりが近く感じて、余計に会いたくない。
しかし、彼の眼差しは真剣で、父親に会わせたいと願っているのが判る。

「んで、私の場所をどうやって調べたんだい?」

「貴方の情報をまとめあげて、行くであろう場所をピックアップしてました」

驚いた。
昔の情報までも調べ上げたのか。

「山から下りて、父に会ってもらいます」

ガッシリと腕を掴まれると、なんだか悟に引っ張られたことを思い出す。
あの頃が今までで一番楽しかったかもしれない。

「とりあえず子供ではないので、手は放してくれないかい?」

「下りる気になりましたか?」

「降参だ。君のように昔のことまで調べ上げて、ここまで来たのは初めてだよ」

そしてすんなり山から下りると一台の車が止まっていた。
外には初老の女性がキョロキョロしながら見回している。
息子の安否が心配だったのだろう。

「母さん、車の中で待っててて言ったじゃないか」

「だって、いくら特殊部隊に入っても、貴方のことが心配なのよ」

「真由美さん。久しぶりだね」

真由美はニコリと笑い、抱きしめてきた。
温かいぬくもりが、体を包んでくれる。
まるで、冷たくなった心まで溶かしてくれているようだ。

「ようやく見つけたわね」

「鬼さんに見つかりましたよ」

「見つけたのか?」

車の中から初老の声だが、懐かしい声が聞こえる。
確か視力を失ったんだったな。

「よぉ悟、災難だったな」

車を覗き込むと、驚いた。
悟の顔は呼吸器につながれ、顔の原型がとどめているのが奇跡なくらい崩れていたのだ。

「お?ちょっと驚かしたか?この通り、顔がぐしゃぐしゃになっちまった上に目が見えない。参ったよ」

「だが、それこそが人間だ。お前は誇り高い人間だ」

「くすぐってぇよ。お前の声は変わらないな?息子もお前の話をしたら、最初は信じてくれなかったよ」

だろうなと思いながら圭太の顔を見ると横に視線を避けた。
だが、問題なのは、悟の命がもぉ尽きようとしているのがみえた。

「悟、約束守ってくれてありがとうな・・・。本当に私の正体を知って、ここまで来てくれたのは・・お前が始めてた。だから病院に戻れ」

「なんでもお見通しか?」

「交通事故だけじゃないだろ?」

悟は笑った。
その笑顔は昔のように楽しそうに笑っていた。

「だが、顔が見えないことが残念だ。娘は生まれなかったが、とても賢い息子に恵まれて、俺は幸せだったぜ?」

「そのようだな。でも、長生きしてくれ。病院に戻れ・・・。目の前で失うのは怖い」

「ははは、えらく弱気じゃないか。でもまぁ、お前が言うなら仕方ないか」

補助付きで悟は車内から出てきた。
風が気持ちいいのか笑顔だ。

「会えたと思ったら、お前の顔が見れないな・・」

「昔と変わってないよ。記憶のままだよ」

丘のようなところで車椅子に乗った悟と、私は夜空の下で、昔話をする。
悟は昔のように変わらない。
変わってしまったのは私だ。
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