不死の王様は一人ぼっち

嵯乃恭介

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最終章

生き抜いて苦しんで

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十数年が経つが、特に〈食事〉をすることはなかった。
〈食事〉をする気にはなれなかったと言えば、そこまでだが、これでは生きているのか死んでいるのか判らないなと思いながら、夜空に浮かぶ満月を眺めている。

人間と共に生きるのは、やめようと思っていたが一人で生きていくのが、これほど寂しいものだと思ったのは初めてかもしれない。
しかし繰り返すことを考えると、一人の方が良い・・。
影と呼ばれた者たちが繰り返してきた悲劇を垣間見た私は思った。

きっと彼女も繰り返しているかもしれない。
けれど私が存在しなければ、問題なく人間として生きていけるし、死んでいくことも出来るだろう。
お互いに因縁はあるだろうが、こればかりは繰り返されるものだ。

きっと消えない傷が残るだろう。
もしも生まれ変わって私のもとに戻って来た時は、知らぬふりをしよう・・・。
琴だった時のように、人間として傍に居て、死んでいくのを看取ることも出来る。
儀式さえしなければ、彼女は人間のままだ。

崩れそうな山小屋の屋根の上でボーっと月を眺めていた。
月と太陽は交互に現れる。
もしかしたら、次の彼女は・・
なんて甘い考えをしているが、もぉ二度と人間とは関わらないと決めた。

しかしだ。
こんな山奥に居る目の前の男性はなんだろうか?
ついに幻覚を見始めたか?

「和田一さん?加藤悟の息子です」

その名前を使っていたときの記憶を辿ると、目の前の男性の存在にピンとした。

「知らないね。人違いでないか?」

もちろん約束はしたが、もぉ人間に関わるのもしばらく良いかなと思ってたが、その男性が紙を出し私と交互に見ている。
何か描かれているんだろうか?

「間違いありません。少しだけ山から下りてくれるだけでかまいませんから」

山から下りるだけ?
目の前の男は、数十年前に約束した加藤悟の息子とは思うが、似ていないし・・・

「その紙に描かれているのはなんだい?」

「母が描いた似顔絵です」

ぱっと見せてくれると、自分の顔と言うべきか、しばらく笑っていなかった私の笑顔だった。
こういう顔をしている時もあったが、今は昔の話だ。

「悪いが、私は人間とは関わないことにしたんだよ」

「数年前の事件ですか?」

ドキリと胸が鳴った気がする。
数年前と言えば、彼女を屠った頃と同じだ。
何故目の前の彼が知っているのだろうか?

「俺は特殊部隊の班長の加藤圭太。この顔も作りものです」

ペリペリとはがして出てきた顔は若い頃の悟の顔だった。
確かに悟の息子だと確信した。

「話だけ聞こうか」
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