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第二部 一章 この人数でもソロキャンと言いきる勇気編
月虹と星空の祝福
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初音が向かいそうな場所はどこなのか。
走る傍らで思考を巡らせていたのだが、予想に反して簡単に見つかった。
ホームから出て坂道を下った先にある河原。
月明かりに照らされた二つの小さな影が見えた瞬間、思わず息を飲む。
静かな川のほとりで座り込み、憂いを帯びた瞳で遥か頭上を見上げている少女と狼。
どこか幻想的な物語を想起させる後ろ姿に思わず足を止め、声を掛けるべきか迷う。
足音ひとつ立ててしまえば、その瞬間に得難い光景が幻となって消えてしまう――そんな気がしてならない。
しばらく立ち止まって一緒に星空を眺めていると、初音の方から話し掛けてきた。
「お主、覚えておるかや?」
「……ああ、ちょうどココだったな。
空腹でぶっ倒れてたお前を見つけたのは」
視線の先には満天の星々が瞬き、悠久の刻を揺蕩う眼差しで俺達を見下ろしていた。
初音と出会ったあの日、もうずっと前のように感じる一方で、つい昨日の事のようにも思えるのが本当に不思議だ。
「あの時はワシとギンレイと……お主だけじゃったというのに、今では賑やかなものよな」
「出発前、まさか女神と未来人が仲間になるなんて誰が予想できたと思う?
そりゃ賑やかにもなるさ!
……八兵衛さんが居れば…もっとな」
星の狭間に漂う視線が失くした光を求めて彷徨う。
矢旗《やはた》 八兵衛さんは初音の守役(教育係)を務める老侍で、身を挺して俺達を守ってくれた際、行方が分からなくなってしまった恩人だ。
常に主君の娘である初音を気にかけ、時には口煩い忠告が原因で疎まれてしまう事もあった。
けど――こうして居なくなってしまった今、なんだか妙に……寂しい気持ちで一杯になってしまう。
それは20年も一緒にいた初音が一番痛感しているのだろう。
それくらい、俺にだって分かるさ。
「……爺が……そうそう容易く死ぬものか!
あの古強者はどこかで必ずや生きておる。
ワシは……なんの心配もしてはおらぬ…」
「………………そうか」
コイツは嘘が下手すぎるんだよ。
こうして顔を見なくとも、震える肩が声なき声を上げているのは分かっている。
――月を見上げて泣いているのを…。
「あー……俺が誰かと話をしてるのを見るのはイヤ――かな? 普通に接してるつもりなんだけど…」
吹き抜ける夜風が火照った体を冷やしてくれた好機に、機嫌を損ねてしまった理由をそれとなく聞いてみる。
「全然。…全然フツーじゃ。
けど、何故なのか自分でも分からぬが……何か、お主が他の女子と居るのを見ておるとな、胸の内に妙な靄がかかって…思うてもおらぬ事を口走ってしまうのじゃ…」
ギンレイが心配そうな声で鼻を鳴らす。
静寂に包まれた夜は月明かりに照らされ、風になびく黒髪はホームを流れる清流と並ぶ程に美しい。
初音が素直に自身の心情を吐露するのは珍しい。
――いや、こんな夜は誰もが少しだけ…らしくない事を口にしてしまうのかもしれない。
だってなぁ…今夜は綺麗な月虹が空に浮かび、見守ってくれてるんだから…。
「ワシはまた病に罹ってしもうたのやもしれぬ」
「そっか……俺にもあったなぁ。
もう随分と昔だけど、誰にでもある事さ…」
この病だけは、どんな名医にも治す事はできない。
誰もが一度は経験して――それぞれの教訓を得て成長していくんだ。
穏やかな流水が少女の秘めた想いを汲み取り、物静かな夜の虹は幾万もの星々を伴い、初な心の門出を祝う。
本当に静かで…記憶に残る夜――なのになぁ。
「……はよ、はよイケって!
なにやってンだよ種無し!
そこでギュッとブチュとヤッちまえって!」
「…………お前こそ何やってんだよ?」
飯綱のアホが岩影に隠れて、俺達をずっと覗いていやがりました。
ついでに言うと女媧様まで…。
しかも、彼女は妙に嬉しそうというか、珍しく感情を全面に出して口をパクパクとさせている。
声は聞こえてこないが、何かを必死に叫んでいるかのような素振りだ。
「もしかして……応援してるんすか?」
全て見られていたと知った初音は恥ずかしさのあまり逃げ出そうとするが、イヤらしい顔をした修験者サマに速攻で捕まってしまう。
「お~お~ヨチヨチ♪ 可愛いでちゅね~!
ん~? あの後どうするか教えてやろうか?」
「煩ぇぇぇええええ!!
其処に直れ! ワシ自ら手打ちにしてくれる!」
静けさをブチ壊しにする二人の喧騒を優しく見つめる女媧様。
明日から新たな仲間達で始まるんだ。
俺達の新たな旅!
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
走る傍らで思考を巡らせていたのだが、予想に反して簡単に見つかった。
ホームから出て坂道を下った先にある河原。
月明かりに照らされた二つの小さな影が見えた瞬間、思わず息を飲む。
静かな川のほとりで座り込み、憂いを帯びた瞳で遥か頭上を見上げている少女と狼。
どこか幻想的な物語を想起させる後ろ姿に思わず足を止め、声を掛けるべきか迷う。
足音ひとつ立ててしまえば、その瞬間に得難い光景が幻となって消えてしまう――そんな気がしてならない。
しばらく立ち止まって一緒に星空を眺めていると、初音の方から話し掛けてきた。
「お主、覚えておるかや?」
「……ああ、ちょうどココだったな。
空腹でぶっ倒れてたお前を見つけたのは」
視線の先には満天の星々が瞬き、悠久の刻を揺蕩う眼差しで俺達を見下ろしていた。
初音と出会ったあの日、もうずっと前のように感じる一方で、つい昨日の事のようにも思えるのが本当に不思議だ。
「あの時はワシとギンレイと……お主だけじゃったというのに、今では賑やかなものよな」
「出発前、まさか女神と未来人が仲間になるなんて誰が予想できたと思う?
そりゃ賑やかにもなるさ!
……八兵衛さんが居れば…もっとな」
星の狭間に漂う視線が失くした光を求めて彷徨う。
矢旗《やはた》 八兵衛さんは初音の守役(教育係)を務める老侍で、身を挺して俺達を守ってくれた際、行方が分からなくなってしまった恩人だ。
常に主君の娘である初音を気にかけ、時には口煩い忠告が原因で疎まれてしまう事もあった。
けど――こうして居なくなってしまった今、なんだか妙に……寂しい気持ちで一杯になってしまう。
それは20年も一緒にいた初音が一番痛感しているのだろう。
それくらい、俺にだって分かるさ。
「……爺が……そうそう容易く死ぬものか!
あの古強者はどこかで必ずや生きておる。
ワシは……なんの心配もしてはおらぬ…」
「………………そうか」
コイツは嘘が下手すぎるんだよ。
こうして顔を見なくとも、震える肩が声なき声を上げているのは分かっている。
――月を見上げて泣いているのを…。
「あー……俺が誰かと話をしてるのを見るのはイヤ――かな? 普通に接してるつもりなんだけど…」
吹き抜ける夜風が火照った体を冷やしてくれた好機に、機嫌を損ねてしまった理由をそれとなく聞いてみる。
「全然。…全然フツーじゃ。
けど、何故なのか自分でも分からぬが……何か、お主が他の女子と居るのを見ておるとな、胸の内に妙な靄がかかって…思うてもおらぬ事を口走ってしまうのじゃ…」
ギンレイが心配そうな声で鼻を鳴らす。
静寂に包まれた夜は月明かりに照らされ、風になびく黒髪はホームを流れる清流と並ぶ程に美しい。
初音が素直に自身の心情を吐露するのは珍しい。
――いや、こんな夜は誰もが少しだけ…らしくない事を口にしてしまうのかもしれない。
だってなぁ…今夜は綺麗な月虹が空に浮かび、見守ってくれてるんだから…。
「ワシはまた病に罹ってしもうたのやもしれぬ」
「そっか……俺にもあったなぁ。
もう随分と昔だけど、誰にでもある事さ…」
この病だけは、どんな名医にも治す事はできない。
誰もが一度は経験して――それぞれの教訓を得て成長していくんだ。
穏やかな流水が少女の秘めた想いを汲み取り、物静かな夜の虹は幾万もの星々を伴い、初な心の門出を祝う。
本当に静かで…記憶に残る夜――なのになぁ。
「……はよ、はよイケって!
なにやってンだよ種無し!
そこでギュッとブチュとヤッちまえって!」
「…………お前こそ何やってんだよ?」
飯綱のアホが岩影に隠れて、俺達をずっと覗いていやがりました。
ついでに言うと女媧様まで…。
しかも、彼女は妙に嬉しそうというか、珍しく感情を全面に出して口をパクパクとさせている。
声は聞こえてこないが、何かを必死に叫んでいるかのような素振りだ。
「もしかして……応援してるんすか?」
全て見られていたと知った初音は恥ずかしさのあまり逃げ出そうとするが、イヤらしい顔をした修験者サマに速攻で捕まってしまう。
「お~お~ヨチヨチ♪ 可愛いでちゅね~!
ん~? あの後どうするか教えてやろうか?」
「煩ぇぇぇええええ!!
其処に直れ! ワシ自ら手打ちにしてくれる!」
静けさをブチ壊しにする二人の喧騒を優しく見つめる女媧様。
明日から新たな仲間達で始まるんだ。
俺達の新たな旅!
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