異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ

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第二部 一章 この人数でもソロキャンと言いきる勇気編

閑話休題、新たな能力の発露

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「ヤバいだろ……どう考えても!」

 スマホに反射した俺の表情は愕然がくぜんの色に染まり、深淵の底にも等しい絶望感に打ちひしがれていた。

「何の話をしておるのかや? 悩みがあるならば、この『お姉ちゃん』に遠慮なく申してみよ」

 真新しいワンピースに身を包み、ビーチボールと大型水鉄砲を手にした初音が、御立派な胸を張って下僕の苦悩に耳を傾ける。
 それはとても大事な事だ。
 年長者として、くあるべき姿だと思う。
 しかし……。

「お前ら、今のAwazonポイントがどれだけか知ってるか? 一時期は40万近くあったのに、今は14万しかないんだぞ!?」

 こうして見ると、Awazonの買い物で消費されるポイントは本当に、馬鹿にならない。
 どうにかして商売を軌道に乗せないと、そう遠くない内にジリ貧に陥るのは目に見えている。

「それがど~したってンだよ。
 金は天下の回りモンだろ?
 男がケチケチしてンじゃねェよ」

 とある有名メーカーのインフィニティチェアに腰掛け、買ったばかりのサングラスから抗議の視線を送る飯綱いずな

「あ、うん。そういう所を言ってんだよ?
 君ら、誰のスマホから色々購入したのかな?」

 町への出発を翌日に控えているにも関わらず、連日の作業に次ぐ作業によって蓄積したストレスが、遂にブチ切れ不可避の域に到達した結果、緊急の方針会議を開くに至る。

「そういうお主だって、は必要な物じゃたか? 言うてみよ」

 指を差した先にはドッグテントで悠々とくつろぐギンレイの姿が。
 おいおい、たったの7000ポイントであれだけ気に入ってくれたんだぞ?
 我ながらメッチャ良い買い物したと思うわ。

「……あー、言いたい事は双方あるだろう。
 けど、今一度俺の声を真摯しんしに受け止めて欲しい。
 お前ら好き勝手し過ぎ問題!」

 思えば洗濯から日々の食事まで、全部俺一人でやってるとかマジにオカンかよぉおお!
 そろそろガツンと言ってやらねばなるまい。
 だが、鬼と烏天狗からすてんぐは一向に取り合おうとはせず、次に何を買うか二人して相談を始める始末。

「つーか、自分の下着くらい自分で洗え!
 お前ら、女の慎みとかないんか!?」

 待遇改善を求めて熱弁を振るうも、暖簾のれんに腕押しの如く、まるで効果がない。
 こうなったら力ずくでも分からせて――いやいやいや、絶対勝てねぇ――死ぬ!
 ゾッとする未来が目ぶたに浮かび、振り上げた拳をそっと仕舞う。

「なんだか今日は朝から食欲ないな~…。
 たまには水と空気でお腹を満たすのも悪くないよねぇ?」

「お主……男子おのこのぷらいどとかないんか?」

 俺の持ち得る最大限の権力をチラつかせ、薄氷の上を渡る交渉を続ける最中さなか、スマホに表示されていた通知欄に目が止まる。

【好評価ボーナス☆500突破特別イベント】

 この一文は過去に見覚えがあった。
 以前は☆50突破特別イベントとあったが、今回は桁が違う。
 けど、あの時はタッチしても特に変化はなかったように感じたのだが…。
 急に黙ってしまった俺を不審に思ったのか、初音が脇の下から顔を突っ込み、そのまま考えもなしに通知欄をタッチしてしまう。

「うぉおい! 何が起きるのか分からんのに、ヘタに触るんじゃないよ!」

「押せば分かるじゃろ。
 …………な、なんじゃこりゃぁぁああ!?」

 脈絡もなく忽然こつぜんと俺達の前に現れたモノは、乗用車よりもずっと小さい車輪を持ち、バイクよりも車高の低いずんぐりとしたボディの――四輪バギー!
 誰もが知っている乗り物なのに、実際に道路を走っている所は殆ど見た事がなく、道路交通法ではミニカーに分類される。
 今では一部キャンプ場のアクティビティや、マリオカートでしか扱われる機会のない自動車の絶滅危惧種。

「これが…特別イベント?
 だったら、前のイベントって……あ、待て!」

 俺の警戒などお構いなしに、初音はバギーに向かってクラウチングスタートばりのダッシュを決めたかと思うと、怖がりもせずにペタペタと触りまくる。

「うぉお…木葉のように柔らかい部分と……ここは鉄で出来ておるのか!?
 なんと面妖な……これは何かの前兆…?」

 怖いコトを言うのはヤメてもらいたい。
 それにしても、別世界の話や『異世界の歩き方』を読んでいた時も、初音は特別強い関心を示した。
 案外夢見がちというか、オカルト好きな所があるのかもしれん。
 見れば手元のスマホ画面には、新しいアイコン『バギー』が追加されている。
 多分、『異世界の歩き方』と使い方は同じなのだろう。

「だとすりゃ、こうすると消えるはず」

 アイコンをタッチした途端に姿を消すバギー。
 やはり、これも異世界で得た能力のひとつなのだと確信する。

「ふぉぉぉおおお!?
 もう一回! もう一回だしてたもれ!」

「あ、うん。落ち着いて?」

 初音は再び現れた未知の乗り物に、100%のリアクションで応えてくれた。
 まぁ、異世界の住人にとっては無理からぬ反応だと思う。
 しかし、俺にとっても少なからず新鮮な驚きはある。
 新たな能力、新たな移動手段、それは異世界で生き残る為には非常に有効であり、これから八兵衛さんを捜索する上でも大きな力となり得るが…。
 俺は同時に表示されている一文から目を離す事ができず、どうしても素直に喜べない。

【100000PV達成】

 10万……。
 ここに記載されているPVという単位、もしこれがpromotion videoの頭文字だった場合、異世界での俺の生活が誰かに観られているという事を意味する。
 何故なぜ、そう思うのか?

「違和感が消えない……まだ、見られてる…!」

 さっきから黙《だんま》りを決め込む飯綱いずな外方そっぽを向き、会話をする気がない事を無言で示す。
 何かを隠しているのか、あるいは――言えないという意思表示に思えてならない。
 思えば初めて飯綱いずなに会った時、彼女は俺を結構な有名人だと言った。
 テレビやYouTubに出た事もなければ、SNSのインフルエンサーでもない普通の大学生だった俺を……有名人だと?
 見慣れないバギーに乗ってはしゃぐ初音とギンレイのかたわら、固く結んだ唇で無言を貫く飯綱いずな
 対照的とも言える二人の間で、言い知れぬ不安と謎が俺を包み込む。
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