145 / 255
第二部 一章 この人数でもソロキャンと言いきる勇気編
冴えない俺が和服未亡人と異世界デート!?
しおりを挟む
翌日、聞いた話では薬を服用したお藍さんは久しぶりにぐっすりと眠れたらしく、朝には見違えるように顔色が良くなっていたそうだ。
元の世界ではそこまで脅威ではなかった病も、ここでは多くの人の命を奪う致命的な物なのだろう。
その証拠にお江さんの夫や子供まで……。
自分が生まれた時代の科学進歩に感謝すると共に、改めて帰還の方法を考えなければならない。
両方の世界に共通する場所、伊勢神宮では何かの手掛かりが見つかるかと密かに期待したのだが…結果はゼロ。
帰還の目処は振り出しに戻った訳だ。
「そうそう上手くいくわきゃない…か。
予定通り、八兵衛さんの情報を集めよう。
初音、今から町に行く――あれ?
おーい、どこ行ったんだ?」
宿の仲居さんに初音を見掛けなかったか尋ねると、初音は一人で朝食を済ませた後、随分と慌てた様子でお鈴ちゃんと出掛けたらしく、それっきり姿を見ていないらしい。
「仕方ない奴だな!
まぁ、お鈴ちゃんがいるなら安心か」
いきなり予定が変わったけど、本来の目的を忘れたワケではないだろう。
俺も町で情報を集めようと思っていた所で、お江さんが声を掛けてくれた。
「若旦那さん、昨日はご無理を言ってしまい申し訳ありませんでした」
そう言うとこっちが恐縮してしまう位、改まった態度でお礼を述べられたので驚いてしまう。
「いやいや、そんな……。
困っている人は見過ごせませんよ。
お願いですから頭を上げてください」
懇願に近い形でやっと顔を上げてもらうと、お江さんが恥ずかしそうに目を伏せている事にようやく気付く。
「すいません、なんだか…ちょっと…」
「え、あ……あぁ…いや、俺の方こそ…」
2人の間に微妙な空気が流れ込み、じわじわと浸透するように包んでいく。
今日はまた一段と暑いな……。
こんなにも汗をかいたのは久しぶりな気がする。
お江さんは何かを言おうと口を動かすが、うまく言葉に出来ず下を向いてしまった。
不意に宿の奥から中居さん達の声が届く。
「ちょいと姐《ねえ》さん!
そんな所で油売ってないで、暇なら買い物でもしてきておくれよ! 丁度、塩と味噌と醤油と味醂と酒を切らしちゃってねぇ」
「え……あ、あいよ!」
反射的に返事をしてしまったのだろう。
お江さんはそのまま玄関を出ていってしまい、手持ち無沙汰になった俺はどうしようかと考えていたら、背後から刺すような視線を察知して思わず身がすくむ。
恐る恐る振り返ると、宿中の仲居さんが目で訴え掛けてきたのだ、『早く後を追え』と……。
「は…はいぃ! 喜んでッ!!」
玄関を出る時には笑顔で『ゆっくりしてきな』とか『男を魅せろ』などと言われ、最後に思い切り背中を張り手される始末。
…肩パンめっちゃ痛いです…。
宿から少し離れた所でお江さんに追いつき、荷物持ちを買って出るが『お客にそんな事はさせられない』と言って断られてしまった。
「お願いします。このままだと帰れないので荷物を持たせてください…」
もし一人で帰ってしまえば、仲居さん達から何を言われるか分かったものではない。
俺の熱意が伝わったのか、渋々といった感じで了承を取り付ける事に成功する。
「じゃあ…その、お願いしても?」
「任せてくださいよ!
ガンガン運ばせて頂きます!」
オイオイ…また予定が変わってきたぞ!
八兵衛さんの捜索をするつもりだったのに、どういうワケか異世界デートが始まってしまうのだった。
元の世界ではそこまで脅威ではなかった病も、ここでは多くの人の命を奪う致命的な物なのだろう。
その証拠にお江さんの夫や子供まで……。
自分が生まれた時代の科学進歩に感謝すると共に、改めて帰還の方法を考えなければならない。
両方の世界に共通する場所、伊勢神宮では何かの手掛かりが見つかるかと密かに期待したのだが…結果はゼロ。
帰還の目処は振り出しに戻った訳だ。
「そうそう上手くいくわきゃない…か。
予定通り、八兵衛さんの情報を集めよう。
初音、今から町に行く――あれ?
おーい、どこ行ったんだ?」
宿の仲居さんに初音を見掛けなかったか尋ねると、初音は一人で朝食を済ませた後、随分と慌てた様子でお鈴ちゃんと出掛けたらしく、それっきり姿を見ていないらしい。
「仕方ない奴だな!
まぁ、お鈴ちゃんがいるなら安心か」
いきなり予定が変わったけど、本来の目的を忘れたワケではないだろう。
俺も町で情報を集めようと思っていた所で、お江さんが声を掛けてくれた。
「若旦那さん、昨日はご無理を言ってしまい申し訳ありませんでした」
そう言うとこっちが恐縮してしまう位、改まった態度でお礼を述べられたので驚いてしまう。
「いやいや、そんな……。
困っている人は見過ごせませんよ。
お願いですから頭を上げてください」
懇願に近い形でやっと顔を上げてもらうと、お江さんが恥ずかしそうに目を伏せている事にようやく気付く。
「すいません、なんだか…ちょっと…」
「え、あ……あぁ…いや、俺の方こそ…」
2人の間に微妙な空気が流れ込み、じわじわと浸透するように包んでいく。
今日はまた一段と暑いな……。
こんなにも汗をかいたのは久しぶりな気がする。
お江さんは何かを言おうと口を動かすが、うまく言葉に出来ず下を向いてしまった。
不意に宿の奥から中居さん達の声が届く。
「ちょいと姐《ねえ》さん!
そんな所で油売ってないで、暇なら買い物でもしてきておくれよ! 丁度、塩と味噌と醤油と味醂と酒を切らしちゃってねぇ」
「え……あ、あいよ!」
反射的に返事をしてしまったのだろう。
お江さんはそのまま玄関を出ていってしまい、手持ち無沙汰になった俺はどうしようかと考えていたら、背後から刺すような視線を察知して思わず身がすくむ。
恐る恐る振り返ると、宿中の仲居さんが目で訴え掛けてきたのだ、『早く後を追え』と……。
「は…はいぃ! 喜んでッ!!」
玄関を出る時には笑顔で『ゆっくりしてきな』とか『男を魅せろ』などと言われ、最後に思い切り背中を張り手される始末。
…肩パンめっちゃ痛いです…。
宿から少し離れた所でお江さんに追いつき、荷物持ちを買って出るが『お客にそんな事はさせられない』と言って断られてしまった。
「お願いします。このままだと帰れないので荷物を持たせてください…」
もし一人で帰ってしまえば、仲居さん達から何を言われるか分かったものではない。
俺の熱意が伝わったのか、渋々といった感じで了承を取り付ける事に成功する。
「じゃあ…その、お願いしても?」
「任せてくださいよ!
ガンガン運ばせて頂きます!」
オイオイ…また予定が変わってきたぞ!
八兵衛さんの捜索をするつもりだったのに、どういうワケか異世界デートが始まってしまうのだった。
11
あなたにおすすめの小説
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
『ひまりのスローライフ便り 〜異世界でもふもふに囲まれて〜』
チャチャ
ファンタジー
孤児院育ちの23歳女子・葛西ひまりは、ある日、不思議な本に導かれて異世界へ。
そこでは、アレルギー体質がウソのように治り、もふもふたちとふれあえる夢の生活が待っていた!
畑と料理、ちょっと不思議な魔法とあったかい人々——のんびりスローな新しい毎日が、今始まる。
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる