異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ

文字の大きさ
158 / 255
第二部 二章 新たな仲間、新たな岐路

主人公、パンダになるってよ

しおりを挟む
 翌日、顔中にまとわりつくザラザラとした感触で目を覚ますと、視界を占領したギンレイが嬉しそうに鼻先を擦り付けてきた。
 絶好調のテンションで繰り出されるペロペロ攻撃を放っておけば、短時間の内に目鼻が無くなるまでナメ尽くされてしまうだろう。

「わぁっ…た。わか……から…おぁ……よ…!?」

 起きると布団ふとんの周りがエライ事になっていて驚く。

「ようやく起きたか。
 朝餉あさげの用意はとっくに出来ておるぞ。
 はよう顔を洗ってこい」
「おはようございます、若旦那さん。
 昨日はその……久しぶりに熱い走りを魅せて頂き、ありがとうございました」
「あしなさん、あしなさん!
 爆走劇れぇすとってもすごかったよ! 
 私もね、馬戯異バギイに乗ってみたいの!」
「聞いてくれよ! アニキの為に金箔貼りの特攻服トッコーを注文しといたぜ!」

 ずらりと勢揃いした面々は甲斐甲斐かいがいしくも朝の用意を整え、俺が起きるまで待っていたようだ。
 僅か一日で一変した状況に驚くが、それよりも遥かに違和感を抱いたのは、満面の笑みで一団に加わる万治郎の存在であった。
 コイツ、どさくさにまぎれて何て言った?
 金箔のアニキ?
 いや、そうじゃない!
 俺が金ピカの特攻服を着て歩くの?
 ……絶ッッ対、無理!

「ちょい待てや。
 いま、すぐ! キャンセルしてこい。
 つーか、なんでお前がここに居る?」

 左右を見渡して、誰に対して言われたのか懸命に探るヤンキー男。
 ガチにやってるっぽいのが逆に怖い。

「そういうボケは要らねーんだよ!
 お前に言ってんだよ万治郎!」

「まさか……当方に?」

 疑問符をつけたいのは俺の方だよ!
『ウソやん…』みたいな表情は心臓に悪いから本当にやめてくれる?
 心外とでも言いたげな表情を浮かべ、お鈴ちゃんになぐさめられるヤンキーの姿は漫才にしか見えない。

「そう邪険じゃけんにするモンじゃねェさ。
 コイツなりに考えた結果、アタシらに協力してくれるってンだからよ」

「男 万治郎、爆走劇レースに負けたからには潔く葦拿あしなアニキの舎弟として、粉骨砕身の覚悟で働く所存だぜ!」

「粉骨砕身の仕事が特攻服のオーダーなの?
 君、社会人向いてないって言われた事ない?」

 またしてもお鈴ちゃんになぐさめられる万治郎。
 既に持ちネタ化してんじゃねーか!
 未だかつてない頭痛を抱え、フラつく足取りで窓枠に手を添えると、外がいやに騒がしい事に気づく。

「なんだよ朝っぱらか……らぁ!?
 な、なんじゃこりゃー!!」

「おお! すげぇ…本当に生きてるぞ!」
「ヤッシャセッ! ヤッシャセッ!
 お次の宿はウチにヤッシャセッ!」
「きゃー♪ あしな様と万治郎さんが二人で同じ部屋にお泊まりしてるわ~!」

 ――ここは上野の動物園か?
 宿に面した通りには許容値をとっくに超えた人混みが押し寄せ、俺の姿を見るや大歓声が巻き起こる。
 さしずめ、俺は客寄せパンダといったところだろう。
 一瞬で表情が凍りつき、集まった町民達を刺激しないように、極めて慎重に窓を閉める。

「お、おお……お、おいぃぃいい!
 こ、この世のおわ…終わりだああああ!!」

「それ、めっちゃウケるわい!」

 膝を抱えた俺がそんなにも面白いか?
 ケラケラと笑う初音を見て、本気で殺意が湧《わ》いたのはここだけの話だ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

商人でいこう!

八神
ファンタジー
「ようこそ。異世界『バルガルド』へ」

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

『ひまりのスローライフ便り 〜異世界でもふもふに囲まれて〜』

チャチャ
ファンタジー
孤児院育ちの23歳女子・葛西ひまりは、ある日、不思議な本に導かれて異世界へ。 そこでは、アレルギー体質がウソのように治り、もふもふたちとふれあえる夢の生活が待っていた! 畑と料理、ちょっと不思議な魔法とあったかい人々——のんびりスローな新しい毎日が、今始まる。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

処理中です...