162 / 255
第二部 二章 新たな仲間、新たな岐路
ゴえもんからの挑戦状
しおりを挟む
「な、なんだよアイツ!?
お尋ね者の癖に昼間っから堂々と町を練り歩いてるぞ!」
犯罪者という概念を根底から覆す男の行動に、俺達は度肝を抜かれて面食らってしまう。
普通は捕まらないように隠れたり、なるべく遠くの方へ逃げるものじゃないのか?
常軌を逸した男は人相書の通り、顔に歌舞伎役者みたいな白の地色に雄壮な紅隈を施しており、目元まで黒い縁取りがされた素顔は表情すら伺い知れない。
「盗人の分際で大勢の女子を侍らせ、往来を我が物顔で往くなどという行い、断じて見過ごす訳にはいかん!」
「ちょ、待て!」
九鬼家の一人娘として義憤に駆られた初音は、止めるのも聞かず男の方へ猛然と走りだす!
10m程しか離れていない距離を鬼のフィジカルで強引に突破しようとするが、狭い通りにギュウギュウ詰めになった人だかりを押し退けるのは容易ではない。
多分、町人達に怪我をさせないように力をセーブしているのだろうけど、手加減した状態では突破は望めず、あっと言う間に人混みに飲まれてしまった。
「初音! クソッ…すぐそこに居るのに手が出せないなんて…!」
俺の焦りを嘲笑うかのように男は余裕の表情で女達を抱え、バカ笑いをあげて周囲から喝采を浴びている。
「…おかしい。周りの町人達はどうしてゴえもんを捕まえないんだ? 相手は商家に忍び込んで物を盗む犯罪者なんだろ?」
遠巻きから男と周囲の状況を俯瞰した事で生まれた疑問。
人相書には極悪人とまで記載されていたのに、町人から浴びる喝采が意味するものは、全く別の側面があるとでもいうのか?
しばし呆然としていると、お鈴ちゃんが理由を教えてくれた。
「ゴえもんさんはね、お金がない人からお金を盗らないんだって仲居さん達が言ってたよ」
「金持ちしか狙わないってこと?
だとしてもだよ、人の物を盗むのは悪いことじゃないか」
普通に疑問を口にしたつもりだったが、8歳の子供は答えに窮した結果、涙を浮かべて泣き出す一歩手前にまで追い込んでしまう。
「す、スンマセンでしたー!
俺が全面的に間違ってますです、ハイ!」
捕まえるべき泥棒を前にして、幼女に全力で土下座をかます俺。
こんな事してる場合じゃないのに…。
「あーしーなー!
帰ったら反省会じゃー!」
人混みの遥か下、雑踏鳴り止まない足元から怒りに満ちた声が響く。
背筋に冷たい物が流れ落ち、初音が未だに泥棒退治を諦めていない事を示す。
「アイツ…あのままゴえもんに近づくつもりか?」
かなり不格好だが案外悪くない手かもしれない。
事実、ゴえもん本人も人混みに囲まれて一歩たりとも動けないのだ。
初音が小さな体を利用して近づけば、あとは鬼の力で無理矢理にでも捕縛すれば良い。
お鈴ちゃんは地面にしゃがみ、初音がどの辺りにいるのか教えてくれた。
「あしなさん、初音ちゃんはゴえもんさんの目の前だよ!」
ここから視認する事はできないが、もう数歩の所まで迫っているらしい。
捕縛は目前!
しかし、ゴえもんは初音の接近に気づいていたのか、懐から小判を取り出すとソレを地面に向かって無造作に投げ捨てた!
「う…そだろ……は、初音!」
陽光で煌めく黄金の貨幣。
大挙として小判に群がる町民達。
ゴえもんは初音が居るであろう場所を狙って次々と小判をバラ撒き、一瞬にして人々の関心を自分から逸らした。
「なぁ…! この…退かぬか無礼者…め!」
誰も彼もが地面に屈んだ事で視界が開け、俺は噂の大泥棒と人混みを挟んで向かい合う。
「あっしを捕まえたいんでやしょう?
旦那の事はよぉ~く存じてますぜ。
コソコソされんなぁ趣味じゃねぇんでね、ここいらで退場して欲しいんでさぁ。つーワケで今夜、森田屋にお邪魔して評判の馬戯異を盗むとしやしょうか」
「お藍さんの宿にお前が!?
それに…今夜だと!? ま、待て!」
ゴえもんが言い終わると同時に、人々から散々に踏まれた初音が遂にブチ切れ、覆い被さる町人達を一纏めに持ち上げた!
「ここまでワシを虚仮にしよって……許さん、絶対に許さんぞ!」
「ハハハッ、元気元気!
子供はそうでなきゃあなぁ!」
ゴえもんは投げつけられた町人達を華麗かわすと、驚くべき身のこなしで民家の屋根へと跳躍し、そのまま煙の如く消えてしまった。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
お尋ね者の癖に昼間っから堂々と町を練り歩いてるぞ!」
犯罪者という概念を根底から覆す男の行動に、俺達は度肝を抜かれて面食らってしまう。
普通は捕まらないように隠れたり、なるべく遠くの方へ逃げるものじゃないのか?
常軌を逸した男は人相書の通り、顔に歌舞伎役者みたいな白の地色に雄壮な紅隈を施しており、目元まで黒い縁取りがされた素顔は表情すら伺い知れない。
「盗人の分際で大勢の女子を侍らせ、往来を我が物顔で往くなどという行い、断じて見過ごす訳にはいかん!」
「ちょ、待て!」
九鬼家の一人娘として義憤に駆られた初音は、止めるのも聞かず男の方へ猛然と走りだす!
10m程しか離れていない距離を鬼のフィジカルで強引に突破しようとするが、狭い通りにギュウギュウ詰めになった人だかりを押し退けるのは容易ではない。
多分、町人達に怪我をさせないように力をセーブしているのだろうけど、手加減した状態では突破は望めず、あっと言う間に人混みに飲まれてしまった。
「初音! クソッ…すぐそこに居るのに手が出せないなんて…!」
俺の焦りを嘲笑うかのように男は余裕の表情で女達を抱え、バカ笑いをあげて周囲から喝采を浴びている。
「…おかしい。周りの町人達はどうしてゴえもんを捕まえないんだ? 相手は商家に忍び込んで物を盗む犯罪者なんだろ?」
遠巻きから男と周囲の状況を俯瞰した事で生まれた疑問。
人相書には極悪人とまで記載されていたのに、町人から浴びる喝采が意味するものは、全く別の側面があるとでもいうのか?
しばし呆然としていると、お鈴ちゃんが理由を教えてくれた。
「ゴえもんさんはね、お金がない人からお金を盗らないんだって仲居さん達が言ってたよ」
「金持ちしか狙わないってこと?
だとしてもだよ、人の物を盗むのは悪いことじゃないか」
普通に疑問を口にしたつもりだったが、8歳の子供は答えに窮した結果、涙を浮かべて泣き出す一歩手前にまで追い込んでしまう。
「す、スンマセンでしたー!
俺が全面的に間違ってますです、ハイ!」
捕まえるべき泥棒を前にして、幼女に全力で土下座をかます俺。
こんな事してる場合じゃないのに…。
「あーしーなー!
帰ったら反省会じゃー!」
人混みの遥か下、雑踏鳴り止まない足元から怒りに満ちた声が響く。
背筋に冷たい物が流れ落ち、初音が未だに泥棒退治を諦めていない事を示す。
「アイツ…あのままゴえもんに近づくつもりか?」
かなり不格好だが案外悪くない手かもしれない。
事実、ゴえもん本人も人混みに囲まれて一歩たりとも動けないのだ。
初音が小さな体を利用して近づけば、あとは鬼の力で無理矢理にでも捕縛すれば良い。
お鈴ちゃんは地面にしゃがみ、初音がどの辺りにいるのか教えてくれた。
「あしなさん、初音ちゃんはゴえもんさんの目の前だよ!」
ここから視認する事はできないが、もう数歩の所まで迫っているらしい。
捕縛は目前!
しかし、ゴえもんは初音の接近に気づいていたのか、懐から小判を取り出すとソレを地面に向かって無造作に投げ捨てた!
「う…そだろ……は、初音!」
陽光で煌めく黄金の貨幣。
大挙として小判に群がる町民達。
ゴえもんは初音が居るであろう場所を狙って次々と小判をバラ撒き、一瞬にして人々の関心を自分から逸らした。
「なぁ…! この…退かぬか無礼者…め!」
誰も彼もが地面に屈んだ事で視界が開け、俺は噂の大泥棒と人混みを挟んで向かい合う。
「あっしを捕まえたいんでやしょう?
旦那の事はよぉ~く存じてますぜ。
コソコソされんなぁ趣味じゃねぇんでね、ここいらで退場して欲しいんでさぁ。つーワケで今夜、森田屋にお邪魔して評判の馬戯異を盗むとしやしょうか」
「お藍さんの宿にお前が!?
それに…今夜だと!? ま、待て!」
ゴえもんが言い終わると同時に、人々から散々に踏まれた初音が遂にブチ切れ、覆い被さる町人達を一纏めに持ち上げた!
「ここまでワシを虚仮にしよって……許さん、絶対に許さんぞ!」
「ハハハッ、元気元気!
子供はそうでなきゃあなぁ!」
ゴえもんは投げつけられた町人達を華麗かわすと、驚くべき身のこなしで民家の屋根へと跳躍し、そのまま煙の如く消えてしまった。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
11
あなたにおすすめの小説
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
『ひまりのスローライフ便り 〜異世界でもふもふに囲まれて〜』
チャチャ
ファンタジー
孤児院育ちの23歳女子・葛西ひまりは、ある日、不思議な本に導かれて異世界へ。
そこでは、アレルギー体質がウソのように治り、もふもふたちとふれあえる夢の生活が待っていた!
畑と料理、ちょっと不思議な魔法とあったかい人々——のんびりスローな新しい毎日が、今始まる。
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる