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第2話 状況整理と持ち物の確認

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 2度、3度、深呼吸をする度に脳へと新鮮な酸素が送られていき、少しずつだが自分の置かれた状況を理解しつつあった。
 体はどこも痛みはない、視覚や聴覚を始めとした感覚にも異常はみられない。
 だけど……。

 当たり前だが今まで冬山のテントにいたのだ、数々のキャンプギアはどこにも見当たらず、辛うじて持っていたのは財布やスマホだけ。
 祈るような気持ちで真っ暗な液晶を覗くと、不安に満ちた自分の顔が写っていた。
 電波は――駄目か…。
 そりゃそうだろう、未だにここが何処なのか分からないが視界には人工物が皆無という事実から、相当な辺境である事は疑う余地がない。

 兎に角だ、こんな場所で寝ていた件については一旦保留としよう。
 考えても答えなんて出そうになかったから、というのは建前で本当は理屈を超えた事態に立たされているという現実から目を背けたかったのだ。

 本来ならば遭難時には風雨や滑落、野生動物との遭遇など差し迫った危険を避けて極力その場から離れずに救助を待つのだが、食料どころか水や雨具、更には頼みのスマホも使えないとなれば持久戦によるで助かるかどうかも怪しい。
 そもそも、どうやってこんな場所まで移動したのかすら記憶がなく、周囲には足跡もないのだ。
 それでも救助が来るのを信じて待ち続けるにしても、最低限の水だけでは確保しなければならない。

 水なしで生きていられる期間は一週間に満たないそうだ。
 ここの判断は賭けだが貴重な体力を消費してでも、水を確保しなければならないだろう。
 幸いにして太陽は丁度、真上に差し掛かろうとしており行動する為の時間的余裕は残されていた。

 まずは持ち物の再確認だ、ポケットを総ざらいするつもりで紙切れから外れたボタンまで全部の物品を確認する。
 ……おお!ファイヤースターターが上着のポケットに入っているのを見つけた。
 これは生き残る上で大きなプラスだぞ!
 こいつで焚き火ができれば夜風や雨で冷えた体を暖めたり、調理もできる上に火を恐れる野生動物まで寄り付かせない。

 以前、木の棒を掌で回転させて発火させる『きりもみ式』を試したのだが、煙は出せても中々発火点まで到達せずに苦労した記憶がある。
 ファイヤースターターがあれば多少、濡れていても水分を拭き取る事で簡単に火をおこせる優れ物。
 今回は雪山に持っていくか迷ったのだが、10cm程の小振りなサイズをポケットに入れていたのを思い出した。

 他には…もっと何かないのか?
 指先の空虚な手応えが焦る気持ちを助長する。
 暫くすると何かが指先に触れ、期待を込めてゆっくりと摘まみ出すと、板チョコを見つけた。
 俺は嬉しさのあまり叫びそうになったが、昂る気持ちと一緒にどうにか抑える事に成功する。

 本当に良かった。
 補給食としてポケットに入れていた食べかけだ。
 この陽気と体温によって溶けていたが全く問題ない。
 チョコレートは炭水化物と脂肪を多く含み、高カロリーで味も良い。
 更に甘味は体の疲れとストレスの軽減にも効果がある。
 50g程だが200kcalにはなるだろう。
 大事な食料として取っておく。

 しかし、ポケットの中はこれだけだった。
 やはりというか、水は持ち合わせておらず気温の上昇は肌の焼ける感覚からひしひしと伝わっている。
 そろそろ行動しなければならない。

 俺はスマホに内臓されている電子コンパスを頼りに、道らしき物が続いている南へ向けて歩きだした。
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