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第41話 巨大猪襲来

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「ウチの犬から離れろ!」

 今までの俺なら絶対にこんな無茶はしなかっただろう。
 だが、聞いた事もない大きさの猪が、幼いギンレイを散々に追い散らしている様を目撃して頭に血が上ったのか、追い払おうと手にした竹を槍のように突き出す。

「ギンレイ!こっちに来るのじゃ!」

 遠い間合いから迫る竹に気が逸れたのか猪は俺の方に向き直ると、その隙を逃さず初音がギンレイを保護してくれた。

 だけど、問題はここからだ。
 猪は前足で頻りに地面を掻き鳴らすと……一直線に突っ込んできた!

「うわぁあ!」

 転がるように横方向へ飛び退くと、突進に伴う重量感のある音から、改めて猪の体格がどれだけ大きいのかが分かる。
 これは…まともに当たれば怪我じゃ済まないぞ!

 砂埃を上げて草むらへと消えていく猪を見送った時に、自分の手がどうしようもなく震えている事に気付く。
 クソッ、怯えるのは後にしてくれ!

「初音!ギンレイを連れてここを離れろ!」

 驚いた表情を見せた初音だったが、どうにか納得したようだ。
 ギンレイを脇に抱えると、『すぐに戻る』とだけ言い残して走り去っていった。

 草むらから猪の荒い息遣いが聞こえ、周囲の枝を片っ端から折っていく様子を見るに、どうやら相当機嫌を悪くしたらしい。

 その間に2度、3度深呼吸をして気持ちを落ち着けておく。
 初音が戻ってくるまで時間を稼がなくてはならない、あれは俺がどうにかできる相手ではない。
 初音の、鬼属の力でなければ追い払う事すら難しいだろう。

 猪の興奮は既に最高潮なのか、俺の胴体ほどの太い幹を持つ樹木を簡単に凪ぎ払い、森の奥から再び姿を現す。
 その異様な光景は脳裏に嫌な予感を植え付け、今度は足まで震えてくる始末だ。

 俺は辺りに素早く視線を送り、何か利用できる物はないかと思考を巡らせたが、有効な手段は全く思い付かない。

「思考を…考えるのを止めるな……何か、何か手があるはずだ」

 そんな思惑などお構い無しに猪は突進を再開するが、奴が蹴散らしたバッグの中身を見て一つのアイディアをひらめく。
 もうこれしかない、俺は猪に対してゆっくり弧を描くように移動を始めると、奴も同じように鼻先の向きを変えてくる。

 まだ距離がある内にポケットからスマホを取り出して操作を行い、それを指先にひっかけると覚悟を決めた。

 なるべく挑発するつもりで竹を投げつける素振りや、大声を挙げてボルテージを刺激してやると、予想通り野生の本能に火がついたのか一層鼻息を荒げて地面を掻き鳴らす。
 ジリジリと両者が間合いを測り、次第に緊張が高まると遂に猪が動いた!

「ギリギリを狙え…!もっと、もっと…もう少し……今だッ!」

 本当にギリの所まで引き付け、寸でのタイミングで身を翻すと手にした防犯ブザーのピンを引き抜く!
 途端に体がすくみ上がる程の爆音が鳴り響き、驚いた猪はパニックを起こして俺を見失った。

 その目の前にはそびえ立つ岩壁!
 自慢の巨体は猛烈な勢いを乗せて硬い岩肌に激突すると、耳を塞ぎたくなるような嫌な音を立てた後にぐったりと横たわった。

「………ハハッ、やった…やったぞ!
嘘みたいだ!!咄嗟に買ったAwazonの防犯ブザーが役に立ってくれた……。
 た、助かったあ………」

 情けない話だが安心すると同時に腰が抜けてしまったようだ。
 そのまま立ち上がる事もできず念の為にと、倒れた猪を竹で突いて生死を確認するが全然反応がない。
 どうやら完全に気を失ったようで、安堵の溜め息を吐き出し座り込んでいると初音が戻ってきた。

「あしな!無事……おぉ、すごいぞ!
 よくぞ一人で戦い抜いたのう。
 それでこそ男子!天晴れじゃ!」

 初音の高笑いが響く中、俺はいつ腰が抜けて立てないのを伝えればいいのか迷っていた。
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