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第75話 渚に浮かぶ二見興玉神社

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「冷たくて気持ち良いのう!
ハハハ、これ!待たんかギンレイ」

純白の砂浜、豊かな青い海。
まるで海外ビーチのように透き通った水が、異世界とはいえ同じ日本だとは思えない印象を与えていた。

そして、初めての海水浴でテンションが振り切れてしまった鬼娘を尻目に、怪訝そうな表情の禊を行う人達に必死で頭を下げる俺。

周りの女性参拝者は白の着流しで肌の露出を控える中、ウチの初音さんはダイナマイトを炸裂させるが如く、惜しみ無く体型を披露していく。

やんちゃな子供を持った親の心情を、これでもかと痛感させられる。
ここに来たのは御参りの為なんだが…。

「あの…初音さん?そろそろ……」

まるで苦手な上司と話すみたいに、酷く遠慮がちに声を掛けたのだが見事な無視を食らう。
俺は休日のお父さんか?

放っておくと一人で深い所まで行きそう、っていうかこいつは絶対行く。
そんな確信めいた不安を抱え、容赦なく照りつける太陽に晒されているとギンレイが心配してくれたのか、甲斐甲斐しくも俺の所まで駆け寄って来てくれた。

「えぇ子や…お前は本当にえぇ子やでぇ……」

波打ち際でギンレイと駆け回る一時は充実すると共に、心の平穏とは何なのかを改めて考えさせてくれる貴重な時間であった。

正午を過ぎた頃にようやく、よう~やく初音は満足したのか砂浜から上がってきた。
良かった…このまま日没まで粘るのかと覚悟していた所だ。
浜辺から続く参道を進むと、次第に今日の目的であった場所が見えてくる。

二見興玉神社
海を望む雄大な景色と、縁結びや夫婦円満を象徴する二見岩を象徴とした神社だ。

縁結びと聞いて初音は何故か胸を張ったり、顔を押さえたりと挙動不審な動きを繰り返しているが…急にどうした?

「う、うむ。その…素晴らしい神社であるな!」

「お…?……おぅ…」

次に言う事は『腹が減った』だろうか?
ここでも二拝二拍手一拝を行い、お藍さんの回復を祈願する。
参拝後に波間から顔を出す二見岩を眺めていると、初音が何かを見つけたようだ。

「このカエル面白いのう、ピッカピカじゃ~」

カエル――転じて帰る・返る等と同じ意味を持つとして、縁起の良い生き物として祭られているが、猿田彦大神の神使とも言われている。
その御利益を得ようと参拝者が撫でていくので、金属製のカエルは少しずつ表面が擦れていった結果、鈍い金色の光を放つまでになっていた。

「お前も大変だなぁ…」

カエルを労うように頭を撫でていた所で初音が口を開く。

「よし!そろそろ昼餉の時間じゃな」

…こいつと関わっていたら俺はエスパー能力に目覚めるかもしれん。
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