燃えよドワーフ!(エンター・ザ・ドワーフ)

チャンスに賭けろ

文字の大きさ
40 / 146
第四章

ダーの帰還

しおりを挟む
 ザラマの町の市壁からおよそ200メートルほど離れた位置で、死闘が続いている。
 いや、死闘と表現するには、あまりに一方的すぎる展開がくりかえされていた。
 黒い杖がふりあげられると、その後に黒い颶風が吹き荒れた。
 3人の男たちが、小枝のように弾き飛ばされる。
 杖を頭上高く掲げた黒装備の男が、その様を見てにやりと笑った。

「そろそろ死んでくれませんか。僕に勝てないということは分かったでしょう」

 その男――ヤマダは堂々たるたたずまいで、そう言い放った。ときおり眉間に指をあてがうのは、かつて眼鏡をかけていた頃の癖が抜けていないのだろう。
 
「あら、それはどうかしら。アタクシそう思わなくてよ」

「同感ですね。勝利宣言はまだ早いですね」

「そうだ、まだ始まってもいねえぜ!」

 弾き飛ばされ、大地に叩きつけられた3人の男たちは、口々に異を唱え、立ち上がった。
 もう何度くりかえし見せられた光景だろう。もはや戦力差は明白であった。
 その折れない心意気は立派だが、現状を打開する手段はなにひとつないのだ。
 
 ヤマダの力の前に、3人の勇者の力は無力であった。
 これまであらゆる強敵をなぎ倒し、苦戦など強いられたことのない勇者。
 それは、彼らがこの地で創意工夫し、克己して得られた力ではない。
 最初から持たされていたギフトであった。与えられた勇者の武器による加護。
 その攻撃力と防御力のみに頼りきりで、連戦連勝してきた彼らにとって、この状況を打開する知恵がないのも当然といえた。

 勇者たちは、ときおり必殺技をくりだす。
 しかしヤマダが展開する暗黒障壁ハーデラ・シールドを破ることはできない。
 その力を弾いたヤマダが、軽やかに次の攻撃を無詠唱で叩きこむ。
 3人の勇者は抵抗するすべはない。ただひたすら攻撃呪文を受けるのみのサンドバッグと化していた。

 それをザラマの兵士たちはただ傍観していた。
 あるものは座り込み、あるものは立ちつくして。
 もはや、彼らの手に負える範疇の攻防ではなかった。
 この永遠に続くと思われる戦いの結末はふたとおり考えられた。
 3勇者が立ち上がれなくなるか、逃亡するか。
 そのいずれかである。勝利というものは決して訪れることはないと、誰もがそう考えて戦況を見つめている。
 
 その状況を打破したのは、魔族の女、ラートーニである。
 興奮状態のヤマダの傍らに静かに歩み寄ると、

「あんまりもったいぶらず、そろそろ止めをを刺してあげるべきでしょう。ブシノナサケ。貴方の世界ではそう言うのでしょお?」

「うん、ラートーニは優しいね。もうちょっと遊んでいたかったけど、君がそういうならば仕方がないな」

 ヤマダは大いに頷くと、無詠唱で杖を一振りした。
 その瞬間、天地が鳴動した。
 なにかが落下してくる。それはあたかも、エクセのファイヤー・カセウェアリーを髣髴とさせ、傍観していた兵士達はあわてて後方へと退避しだした。

「チキュウでは、大抵隕石の名前というのは、落下した地名にちなむことが多い……」

 ヤマダはぶつぶつと何かつぶやいている。

「君達の墓標となるこの呪文を、僕はザラマ・メテオライトと名づけるよ」

 兵士達は退避をやめ、それを呆然と眺めやっていた。
 運命を悟ったのだ。隕石の落下は、とてつもない衝撃波をともなう。
 それがこの近距離に墜ちてくるのだ。生存可能な生物など、存在しないだろう。ザラマの町も崩壊するのではないか。
 ヤマダたちだけは余裕である。異空間に転移するのか、はたまた暗黒障壁で防げるのだろう。
 その死神の鎌が落下するのを、勇者を含め、地表にいる者どもはひたすら呆然と眺めやるしかなかった。
 
「――そうはいかん!!」

 さらなる奇怪な現象が起こった。
 空のいずこかから声が発せられたのだ。
 青空の一角が硝子のように砕けた。
 そこから砲丸のような何かが、すさまじい勢いで放たれた。それは迷うことなく落下しつつある隕石に空中で衝突した。
 すさまじい衝撃波が見えざる掌のように地表を叩く。兵士達は風圧に吹き飛ばされそうになり、あわてて地を這った。

――こうしてザラマ・メテオライトは、ザラマに落下することなく消滅した。

 代わりに地表へ降り立ったのは、光輝に包まれた一体の人物であった。
 それは人によって青くも見え、あるいは紅にも緑にも白にも見えた。
 
「ば、ばかな……僕の最大級の攻撃呪文を……」

 終始余裕の態度を貫いていた、ヤマダがはじめて狼狽をみせた。
 それをラートーニがたしなめる。

「あれが何か知らないけど、敵よ。息の根を止めないといけないわ」

 その声にハッとしたヤマダは、機敏な動きで杖を振り、亜空間を開いた。またしても、その場から大量のクラスタボーンが吐き出される。その数10体。 
 
 それは謎の光を放つ敵へ向かいすさまじい俊敏さで殺到する。
 だが、光よりも速く動ける生物が、この世に存在するだろうか。
 光る人は、手の形を変えた。
 巨大な斧の形に。
 彼は一瞬でクラスタボーンの大群とすれちがった。
 どれだけクラスタボーンが快足を飛ばそうが、彼を捉えることはできない。
 クラスタボーンの大群は、目標物を見失った。つかのま、その場で逡巡している。
 
 ずるり。
 クラスタボーンの白い巨体は胴から半分に割かれ、地に転がった。連鎖するように、10体のクラスタボーンが次々とまっぷたつに裂かれて地表に滑り落ちる。
 切断面がどろどろと溶け出している。おそるべき破壊力である。
 すれちがいざま、光の男に斬られたに違いなかった。

「な、なんだ、おまえ、何なんだよお!」

 ヤマダが深遠の業火インフェルノ・ファイヤ を光の人にぶつける。
 だが、止まらない。
 彼は漆黒の炎を踏み越えて、ずんずんとヤマダとラートーニへ接近してくる。
 
「く、来るな、来るなあ!!」

 ヤマダは暗黒の結界を張った。二重三重に結界を重ね、光の人の進撃を阻んだ。
 すると光の人はいささか妙な仕草をした。
 姿勢を低くし、斧を構える。
 それは――

「あれは、あの技は――」

地摺り旋風斧ローリングアックス!!」

 光の人は、大音声で言い捨てた。 
 どこかで聞いた声だ。
 はて、とヒュベルガーが首をひねると、ふらふらと傍らを通り過ぎようとする人影がある。

「おい、あぶないぞ、側に寄らない方がいい」

 彼が肩をつかんで引き止めた人物は、さっきまで生きる屍のようになっていた、エクセ=リアンだった。

「ダー……?」

 その声が、彼の耳に届いたかどうか。
 光の人は連続攻撃に入っている。
 暗黒の結界は彼のひとふりごとに打ち砕かれ、まるでものの役に立っていない。
 
「く、くそくそくそおっ!!」

 必死に結界を張り続けるヤマダだが、その防御力は彼の前では紙切れにひとしかった。
 すべての結界が破れ、光る人物がヤマダに肉薄する。

「お前は何だ! 何者なんだ!!」

 問いに対し、光の男は答える。

「ワシはドワーフ。旧き民と呼ぶものもおる。偉大なる父ニーダが息子、ダー・ヤーケンウッフ!!」

「ド、ドワーフ? たかだかドワーフだと!?」

 その言葉にヤマダは衝撃を受けたようだ。

「認めない……暗黒神より力を借り受けた僕が、異世界勇者たる僕が、ドワーフなんて雑魚なんかに負けるわけがないんだ!!」

「いいや、ワシが勝つ!!」

 光人は、旋回した。

 光の地摺り旋風斧が、ヤマダを結界ごと叩き斬った。

 悲鳴をあげて、ヤマダとラートーニは弾き飛ばされ、ヤマダはそのまま意識を失った。

「くっ、おぼえてらっしゃあい、このままではすまさないわ」

 ラートーニは、全裸に近い格好で大地に倒れている。
 そこから地平すれすれに亜空間への入り口を描くと、そのまま黒いボロ布のようになったヤマダを引きずり込み、姿を消した。 

「――お疲れ様です。ダー」

 エクセが光る男に歩み寄る。彼はゆっくりとふりかえった。
 その身から中空へ染み出すように、光が解けていく。
 バチッバチッと火花が散り、身体がしぼみ、その正体が現われた。

「恥ずかしながら、帰ってきたわい」

 破顔一笑。ダーがいつもの笑顔を浮かべて、そこにいた。
 だが、そこまでが限界だったのだろう。
 ダーは文字通り、電気が切れるように、ばたりと倒れた。
 エクセ=リアンは、その頭部が大地に倒れこむ前に、すべりこむようにして抱えこんだ。
 かれは、ほっと溜息をひとつ吐いた。
 そして、つぶやいた。

「お帰りなさい。きっと、戻ってくると信じてましたよ」 
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

処理中です...