39 / 146
第四章
心の命じるままに
しおりを挟む
「なぜその亜人は、事実を語り、英雄となる道を選ばなかったのじゃ」
ダーは抱いた疑問を、そのまま口に乗せた。
青龍は複雑そうな顔つきをして応える。
「それは四勇者のひとりが、当時、世継が不在であったヴァルシパル王家の長女を娶り、この国の跡継ぎとなったからだ。以来、この国は二百年前の屈辱を味わった勇者の血筋を引くものが代々、王を務めているというわけよ。さぞかし亜人に対して心中穏やかならぬものがあっただろう」
「なるほどのう……」
ダーは大いに頷いた。王家のものを敵に回しては勝ち目がない。下手にその亜人が真実を告げようものなら、一方的に嘘つきとして断罪され、処刑されてしまうかもしれぬ。
黙るしかないではないか。
「それでつながったわい。国王がワシらを目の仇にするわけが」
現ヴァルシパル国王としては、魔王討伐チームに亜人を加えたくないのが本音だろう。しかし、それでは世界を救う可能性を狭めてしまう事にも繋がる。
そこで、せめてもの腹いせが、あの差別待遇ではないか。
「……思えば、あれからワシの戦いがはじまったといっていい……謁見の間の屈辱……エクセの勧誘……オークとの戦い……」
そこまで小声でつぶやいていたダーはハッと我に返り、
「そうじゃ、エクセ=リアン、そしてワシの仲間は無事かのう?」
「いまのところはな……だが、じきに」
「じきにもニキビもあるか! すぐにワシを地上に戻すんじゃ!」
「やっぱり騒ぎ出したの。仕方ない。地上のようすを見せてやろうか」
青龍はとん、と足踏みひとつした。
やがて、足許の雲が晴れていき、地上の様子が映し出される。
足許が雲であるのだから、かなりの高度からの景色が見えるのかと思いきや、視点はかなり近かった。異世界勇者が現われ、化物どもを一掃していく様子が克明に見える。
やはり異世界勇者の力は圧倒的じゃな、とダーが思っていると、状況が一変した。
魔族の女がそそのかしたのだろうか。異世界勇者同士が殺しあっているではないか。
しかも情勢は、かなり3勇者の方が不利だ。
「あの男は……謁見の間におった、あのビクビクした若者か?」
青龍と朱雀は静かに頷いた。
ダーはヤマダのあまりな変貌振りに言葉もない。
ハーデラの魔石の力と、勇者の装備の組み合わせは圧倒的な破壊力をもたらした。
次々とヤマダがくりだす黒魔法に、3勇者はなすすべもなく蹂躙されている。
他の冒険者は、とても割ってはいる余地もない。
いや、このまま勇者達が敗れれば、ザラマや彼の仲間が危険に晒されるのだ。
「このままではいかん、ワシを早く地上へ降ろすんじゃ!!」
ダーは焦りの色を浮かべて叫んだ。
「ダーよ、おぬしが向ったところで何になる。おぬしより圧倒的な力を持っている異世界勇者すらかなわぬ相手だぞ。むざと死ににいくようなものだ」
「ワシらドワーフは短躯じゃ。そして異世界勇者のごとき力もない。だが、この世界を救いたいという、誰にも負けぬ思いがある。」
「あの場でヤマダに討ち取られ、朽ち果てて、その意思が貫けるのか」
ダーは沈黙した。腕組みをして、なんと返答をすべきか迷っていた。
世界を救いたい。その気持ちにうそはない。
だが、危機的状況にある仲間を救わずして、何を救えるのか。
ダーは口を開いた。
「ワシはダー・ヤーケンウッフ。父からは誇りを忘れるなと教えを受けて育った。その教えに背くような生き方はできぬ。仲間を見殺しにするという選択肢はない」
青龍は破顔した。朱雀も口許を押さえて笑う。
「ダーよ。われらも、世界を救済したにも関らず、不遇な生活を余儀なくされる亜人を見て、罪悪感を抱かなかったわけではない。せめて一つなりと何か見返りを与えておきたくてな。なにか望みはないかと尋ねた」
「して、その亜人の返答は?」
「もし、再び世界の危機が迫った時、自分のように力なく、しかし誰よりもこの世界を救いたいという熱き思いを抱く者が現われたなら、その者に力を貸してやって欲しい。それが望みだと」
「立派な人物じゃな……」
「我等はその言に従う。ダーよ。おぬしの気迫は伝わった。強き意思を持たぬものに、力を貸す必要性がないからな。――この青龍、おぬしに力を貸そう」
「――この朱雀も同様ですわ」
「その盟約が果たされるときがきたのならば――」
「――我らも静観してはいられんな」
ダーの背後から声がした。ふりむくと、姿形の明瞭としない何かがそこにあった。
徐々に、おぼろげだった姿ははっきりとした輪郭をなしていく。
ダーがひとつ瞬きする間に、白い着流し姿に、岩のようにごつい筋肉を有した男が立っていた。
精悍というより、むしろ獰猛そうな笑みを浮かべたその着流しの男は、ダーへ向かって拳を突きつけて見せる。
「俺は四神が一、白虎。お前に力を貸そう」
さらにもうひとり、緑の漢服を着た長身の男が中空より出現する。
しゃんと背筋を伸ばし、誠実そうな顔をしたその男は、静かなる泉を思わせる瞳をダーへ向け、
「私は四神が一、玄武。貴殿に力を貸そう」と言った。
「さあ、ダーよ、おぬしはいま四神の加護を手にした。命ずるがいい、己の心のおもむくがままに」
――ダーは、念じた。
ダーは抱いた疑問を、そのまま口に乗せた。
青龍は複雑そうな顔つきをして応える。
「それは四勇者のひとりが、当時、世継が不在であったヴァルシパル王家の長女を娶り、この国の跡継ぎとなったからだ。以来、この国は二百年前の屈辱を味わった勇者の血筋を引くものが代々、王を務めているというわけよ。さぞかし亜人に対して心中穏やかならぬものがあっただろう」
「なるほどのう……」
ダーは大いに頷いた。王家のものを敵に回しては勝ち目がない。下手にその亜人が真実を告げようものなら、一方的に嘘つきとして断罪され、処刑されてしまうかもしれぬ。
黙るしかないではないか。
「それでつながったわい。国王がワシらを目の仇にするわけが」
現ヴァルシパル国王としては、魔王討伐チームに亜人を加えたくないのが本音だろう。しかし、それでは世界を救う可能性を狭めてしまう事にも繋がる。
そこで、せめてもの腹いせが、あの差別待遇ではないか。
「……思えば、あれからワシの戦いがはじまったといっていい……謁見の間の屈辱……エクセの勧誘……オークとの戦い……」
そこまで小声でつぶやいていたダーはハッと我に返り、
「そうじゃ、エクセ=リアン、そしてワシの仲間は無事かのう?」
「いまのところはな……だが、じきに」
「じきにもニキビもあるか! すぐにワシを地上に戻すんじゃ!」
「やっぱり騒ぎ出したの。仕方ない。地上のようすを見せてやろうか」
青龍はとん、と足踏みひとつした。
やがて、足許の雲が晴れていき、地上の様子が映し出される。
足許が雲であるのだから、かなりの高度からの景色が見えるのかと思いきや、視点はかなり近かった。異世界勇者が現われ、化物どもを一掃していく様子が克明に見える。
やはり異世界勇者の力は圧倒的じゃな、とダーが思っていると、状況が一変した。
魔族の女がそそのかしたのだろうか。異世界勇者同士が殺しあっているではないか。
しかも情勢は、かなり3勇者の方が不利だ。
「あの男は……謁見の間におった、あのビクビクした若者か?」
青龍と朱雀は静かに頷いた。
ダーはヤマダのあまりな変貌振りに言葉もない。
ハーデラの魔石の力と、勇者の装備の組み合わせは圧倒的な破壊力をもたらした。
次々とヤマダがくりだす黒魔法に、3勇者はなすすべもなく蹂躙されている。
他の冒険者は、とても割ってはいる余地もない。
いや、このまま勇者達が敗れれば、ザラマや彼の仲間が危険に晒されるのだ。
「このままではいかん、ワシを早く地上へ降ろすんじゃ!!」
ダーは焦りの色を浮かべて叫んだ。
「ダーよ、おぬしが向ったところで何になる。おぬしより圧倒的な力を持っている異世界勇者すらかなわぬ相手だぞ。むざと死ににいくようなものだ」
「ワシらドワーフは短躯じゃ。そして異世界勇者のごとき力もない。だが、この世界を救いたいという、誰にも負けぬ思いがある。」
「あの場でヤマダに討ち取られ、朽ち果てて、その意思が貫けるのか」
ダーは沈黙した。腕組みをして、なんと返答をすべきか迷っていた。
世界を救いたい。その気持ちにうそはない。
だが、危機的状況にある仲間を救わずして、何を救えるのか。
ダーは口を開いた。
「ワシはダー・ヤーケンウッフ。父からは誇りを忘れるなと教えを受けて育った。その教えに背くような生き方はできぬ。仲間を見殺しにするという選択肢はない」
青龍は破顔した。朱雀も口許を押さえて笑う。
「ダーよ。われらも、世界を救済したにも関らず、不遇な生活を余儀なくされる亜人を見て、罪悪感を抱かなかったわけではない。せめて一つなりと何か見返りを与えておきたくてな。なにか望みはないかと尋ねた」
「して、その亜人の返答は?」
「もし、再び世界の危機が迫った時、自分のように力なく、しかし誰よりもこの世界を救いたいという熱き思いを抱く者が現われたなら、その者に力を貸してやって欲しい。それが望みだと」
「立派な人物じゃな……」
「我等はその言に従う。ダーよ。おぬしの気迫は伝わった。強き意思を持たぬものに、力を貸す必要性がないからな。――この青龍、おぬしに力を貸そう」
「――この朱雀も同様ですわ」
「その盟約が果たされるときがきたのならば――」
「――我らも静観してはいられんな」
ダーの背後から声がした。ふりむくと、姿形の明瞭としない何かがそこにあった。
徐々に、おぼろげだった姿ははっきりとした輪郭をなしていく。
ダーがひとつ瞬きする間に、白い着流し姿に、岩のようにごつい筋肉を有した男が立っていた。
精悍というより、むしろ獰猛そうな笑みを浮かべたその着流しの男は、ダーへ向かって拳を突きつけて見せる。
「俺は四神が一、白虎。お前に力を貸そう」
さらにもうひとり、緑の漢服を着た長身の男が中空より出現する。
しゃんと背筋を伸ばし、誠実そうな顔をしたその男は、静かなる泉を思わせる瞳をダーへ向け、
「私は四神が一、玄武。貴殿に力を貸そう」と言った。
「さあ、ダーよ、おぬしはいま四神の加護を手にした。命ずるがいい、己の心のおもむくがままに」
――ダーは、念じた。
0
あなたにおすすめの小説
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~
金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。
そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。
カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。
やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。
魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。
これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。
エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。
第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。
旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。
ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載
【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!
HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。
跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。
「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」
最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる