燃えよドワーフ!(エンター・ザ・ドワーフ)

チャンスに賭けろ

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第七章

ふたたびの、魔族。

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 馬車はゆれる。5人の男女とひとりの御者を乗せて。
 ベールアシュの門を出て、3日ほどの刻が経過していた。荒涼とした変化のない、退屈な街道沿いの景色はいまや色を変えている。青々とした雑草が街道の両脇を野次馬のように埋めている。
 青空は下草を照らし、水滴をたたえた草々は風景に光をもたらした。
 
「ナハンデルへはあとどのくらいかな?」

 しきりと腰を浮かしたり、下ろしたりと忙しいコニンが、ぐったりした表情でたずねた。旅がはじまった頃の溌剌とした笑みはどこへやらである。
 彼女は道中ずっと振動のはげしい、馬車の座席の硬さに辟易し、しきりと「おしりが痛い」とこぼしていたのだ。
 
「なに、あと一鞭くれればすぐですよ」

 とベクモンドは応えたが、これは単なる気休めにすぎないことは全員が知っている。
 距離を尋ねられたベクモンドは、ずっと同じ応えしか返さないからである。
 つまりまだまだ先なのだな。と一行はうっすら理解するしかない。

「しかし、そろそろ難題が待ち構えておりますぞ」

「うんざりする旅に変化が起こるなら、その方がいいよ」

 コニンのぼやきを、御者台のベクモンドは溜息で否定する。

「ここより先に川があり、そこに橋がかかっています。橋のすぐ近くには――」

「国境の料金所がある、ということですか」

「そういうことです、料金所には警備隊が常駐しております」

 川を渡るには、橋を利用するしかない。ナハンデル領主はすべての川沿いの橋に料金所をもうけ、旅人から通行税を徴収している。
 これは難題だった。追われる身の彼らがナハンデルに到達するための、最大の関門といってよかった。もし国王からすでに通達が来ていれば、彼らの旅はここで終幕となる。あとは追っ手のまちかまえるベールアシュへ舞い戻るより他に道はない。

「チェックメイトか否か、か。さすがに緊張してきたよ」

「ここまでの苦労が水泡に帰することのないよう、ひたすら大地母神センテスさまに祈りを捧げるしかありません」
 
 ルカはひたすら唄うような声で何かを詠唱している。
 ダーはなるようにしかならぬ、と考えることを拒否している。戦斧をふるって解決することでもないので、すべては弁舌のたくみなエクセとベクモンドに任せるしかない。
 
 やがて街道沿いに建てられた、小型の城のような堅牢な建物が視界に入ってきた。あれが料金所だろう。
 おずおずと馬車が建物へと近寄る。
 橋へといたる街道は、巨大な門で遮断されて――いなかった。
 不審であった。門は豪快に開け放たれ、いるべき門番の姿もない。
  
「こんにちは、旅の冒険者一行です、ナハンデルへと入りたいのですが。どなたかいらっしゃいませんかな?」

 ベクモンドが建物へ向かい、大音声で呼ばわった。

「残念だが、君たちの旅はここが終着点だよ」

 澄んだ女性の声が、嘲弄のひびきをおびて返ってきた。
 料金所の扉がひらき、黒衣の人物が馬車の前に姿をあらわした。
 小柄であった。あきらかにラートーニではない。

「おぬし、魔族かよ」

「そう見えない?」

「そう見えるな。というか、その黒衣は着用を義務付けられておるのか?」

「そうだよ。魔王様はけっこう戒律に厳しいんだ。これが一番隠密活動に適しているってさ。こんな晴れた青空の日に黒衣って、誰がどう見たって怪しいじゃん。魔王様はすごいお方なんだけど、わりと融通利かないんだよね」
 
「よくしゃべるのう、おぬし」

 ダーが感心したようにつぶやくと、

「だって退屈だったんだもん。なかなかあんたたちが来ないもんだからさ」

「それは申し訳ない。で、ワシらに何用じゃな」

「決まってるじゃない。さっさと四獣神の珠を置いていけってね」

「前門の虎、後門の狼ってところじゃな」

 背後からは国王軍に追われ、目の前には魔王軍の使徒が立ちふさがっている。まったくもって苦しい状況である。ダーはずるりと戦斧を抜いて片手に持った。
 だからといって、すべてを投げ出すつもりは毛頭ないのである。

「ひとつ、疑問があるのですが」

 ふたりの会話に割って入ったのは、エルフの魔法使いである。
 少女らしき黒衣の人物は、「いいよ」とあっさり応えた。

「なにが聞きたいのさ? 面倒なことじゃなけりゃ、暇つぶしに答えてあげるよ」

「あなた方の目的についてです」

「目的?」

「そうです。あなた方魔王軍は、侵掠すること火の如く、北の強国フシャスークを攻め、またたくまにこれを攻略しました。その後、息をつぐ暇もなく、南のガイアザ国へと攻め入りました」

「うん」

「解せないのはその後です。魔王軍とガイアザ国は、現在も交戦状態の只中にあります。にも関らず、その軍1万を割いて、わがヴァルシパルへと侵略してきました。戦力の小出しなど愚の骨頂です。なにが狙いなのか、私には理解できません」

「まあ、普通はそうなるよね。それにこうして、幹部の私があなたたちみたいなチンピラ相手に姿を現してるわけだし」

「どういう意図があるのです?」

「まあ第一は、私たちの暇つぶし」

 思わずエクセとダーは眼をまるくした。
 黒衣の少女は堪えきれなくなったか、けたけたと哄笑した。

「それは半分、諧謔ジョークだけどさ。ガイアザ残存兵力はほぼ1万ていど。それを魔王軍20万で取り囲んでいる状況なの。だけど問題なのが、彼らが拠っているのが難攻不落で知られる名城ブルーサンシャインって点ね。
 これを陥とすのがチト厄介でね。なっがーい膠着状態になってるという有様」

「それで、余った兵力で、ザラマにちょっかいをかけてきたというわけですか」

「そういうこと。私たちにとっては威力偵察以上のものではないから。そんなに痛痒を感じてるわけじゃないよ」

「で、もうひとつ聞きたいのは、ワシらにしつこくつきまとう意図なんじゃが」

「そりゃ200年前に魔王様が痛手を被った、四獣神の珠を集めようとする連中がいたら、止めるでしょ常考――それと」
 
「それと?」

「霍乱目的もあるね。私たちがこうして遊軍として、あちこちでちょっかいかけてるだけで、ヴァルシパル国王は対応にてんてこ舞い。本来ならガイアザと手を合わせて、われわれ魔王軍を撃退するのが先でしょうに。扱いやすくて助かるよ」
 
「それは困るな。なんとしても、止めずばなるまい」

「あなたたち程度が? 私を?」

 黒衣の少女は目を見開いた。
 金色に輝く、魔族特有のきらめきを発しながら。
 空気が凍りついたかのように、場は静まりかえった。
 そうしていたのも束の間、魔族の少女はいたずらっぽく笑い、

「そんなに緊張しないで。諧謔ジョーク諧謔ジョーク。そんなことより、あなた方に会わせたい連中がいるのよ」

「ほう、誰かな」

 料金所からふたり。開け放たれた門の死角からひとり。計3人の男が、馬車の行く手に立ちふさがった。
 いずれも巨漢であり、ダーたちに面識はない。

「――何者じゃ?」

 ダーが短く問うと、三人は胸をそらした。

「我は鋼魔将、ンドゥン」

「我は鋼魔将、ンリッグ」

「同じく鋼魔将、ンテカトル」

「以前、クロノが一騎打ちした奴と、同じ階級か」

 ダーの言葉に、すこし悔しげな表情を浮かべた鋼魔将のひとりは、

「ンシモナは仲間だった。残念であった」

「その仇討ちの意味もこめて――」

 3人の鋼魔将は、それぞれの得物を抜くと、宣言するように叫んだ。

「――ここで貴様らの命を絶ち、亡き戦友の無念を晴らす!」 
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