燃えよドワーフ!(エンター・ザ・ドワーフ)

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第七章

三魔将との激突 その1

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 料金所の門はその役目を忘却してしまったかのように、ぽっかりとその口を大きく開いている。
 その前で、魔族と5人の冒険者たちが対峙していた。ベクモンドは非戦闘員であるため、馬車の御者台に座ったまま、街道脇に身を寄せている。
 
「さあ、どこでもいいから、ちゃっちゃと闘いなよ。あ、でもこっちから、橋の向こう側へ行くのは禁止ね!」

 黒衣の少女は、門の前でひらひらと手を振った。 
 開け放たれたままの料金所の扉の内部から、かすかに血の臭気が漂ってきている。これだけの騒ぎで誰も出てこないというのは、そういうことなのだろう。
 殺戮を実行したであろう3人の魔将の貌には、何の感情も刻まれてはいない。ただひとりの人物に視線を向けている。
 すなわちンシモナを斃した、クロノトールへ向けて。

 クロノトールは黒い甲冑姿で、泰然とたたずんでいる。
 3人の巨漢の魔族を前にして、まるで動じていない。その表情には風格すら感じさせる。人間の成長の速さは大したものじゃと、ダーはひそかに感心した。

「おぬしか。わが仲間、ンシモナを討ち果たした戦士は」

 魔将のひとりが、クロノトールを指差した。
 中肉中背、青い顔に暗褐色の髪をした男であった。
 クロノが肯定の意思をこめた頷きをかえすと、にやりと歪んだ男の口許から、八重歯のようなするどい歯がのぞいた。

「よし。ではこのンドゥンが相手をしよう」

「――む、それはずるい。私だって、そいつと死合いたい」

「無論、俺もだ」

 異を唱えたのは、残るふたりの鋼魔将である。彼らのいずれも、みずからの主張を崩そうとせず、険悪な視線をぶつけあっている。
 ダーはガハハとあざ笑い、ずいとクロノの前に身をさらした。

「よさぬか、もてぬ男どもが。ひとりの女をめぐって奪いあいか。野暮な連中は、このダー・ヤーケンウッフが斧の錆にしてやるわい」

「邪魔をするな、ドワーフ如きが」

「案ずるな。そのドワーフごときに殺されるのがおぬしらの定めじゃ」

 殺気がダーのもとに集中した。ダーはにぶい表情でそれを見返す。
 3人の魔族は互いに視線をかわしあった。クロノの身体はひとつしかなく、どのみち2人はあぶれてしまう。このままでは埒があかぬのは確かなのだ。

「ほらほら。いつまでもグズグズしてないで、とっとと決めなよ。せっかくここまで転移魔法で連れてきてあげたのに、時間が勿体ないでしょ」

 黒衣の少女が、苛立ったように叱責する。3魔将は決意したように頷きあった。

「よし。ここは公平にくじ引きで決めるか」

 3人はダーたちを放置して、なにやらごそごそとくじ引きを始めている。

「……見かけより呑気な連中じゃのう」

 先程までの威勢はどこへやらである。ダーはすっかり緊張感が抜けてしまった。
 黒衣の少女はあくびをし、退屈そうに空を見上げている。ベクモンドは木桶を手に川へむかい、馬へ水を与えている。

 この間に、あちらもどうやら結果が決まったようだ。
 ずいと前に出てきた魔将がいる。体格面でクロノにひけをとらぬ、3人のなかで最も大型の戦士だった。鉄の胴鎧を身にまとい、両側から青く逞しい腕がのぞいている。

「――クロノトールとやら、貴様の相手はこのンリッグがつとめる」

「……ん……」クロノは頷いた。

「よし、ならばこのダー・ヤーケンウッフの相手は誰じゃ!」

 ダーは戦斧を引き抜き、勇躍して言った。
 これに応えたのが、最初にクロノへ声をかけた中肉中背の魔将である。

「貴様はこのンドゥンが、じきじきに冥府へ送ってやろう」

「――さて、このンテカトルの相手になる奴はいるか?」

 ンテカトルと名乗った細身の魔将は、じろじろと周囲を見渡した。身長はンドゥンより高く、ンリッグよりわずかに及ばない。背中に弓を背負っているところから見るに、アーチャーなのだろう。
 彼はのこった面子を見渡すと、がっかりと盛大な溜息を漏らす。

「なんということだ。あとは雑魚と女だけではないか。我と闘える剛の者はおらぬようだ」

「雑魚かどうか、勝負してみればわかるよ」

 コニンがずいと前に歩み出た。その顔は自信に満ちあふれている。
 エクセとルカが、慌ててその肩をつかんでひきもどそうとする。

「いけません、闘うなら私が――」

「だめだめ、相手は弓使いだ。魔法使いのエクセさんは詠唱時間を考えたら、正面対決は不利だよ。ここは同じ弓使いのオレに任せときな」

 不敵な笑みすら浮かべ、コニンはみずからの胸をどんと叩いた。
 口調も出会ったときと同じような、ぞんざいな感じに戻っている。
 
「フン、しかし俺の相手としては不十分だな。勝負になるかどうか」

 魔将ンテカトルは、侮蔑がブレンドされた悪意ある眼をコニンに向けている。

「女とあなどられちゃかなわないね。オレだって戦士さ」

「何か勘違いをしてるのではないか、女。われわれはこれから弓の技術を競うわけではない。弓を使って殺し合いをしようというのだ」

「決闘だろう。望むところだ」

「――よし、ではあそこに木の切り株がある」

 料金所の向かい。街道をはさんで30メートルは離れているだろうか。その位置から豊かな木々が生い茂っている。森の入り口になっているようだ。
 ンテカトルはその手前に立っている、小さな切り株を指差した。

「あれに命中させられるか」

 その問いが口から放たれた刹那だったろうか。
 切り株のおよそ中心部に、びんと矢が突き立った。
 ンテカトルがコニンに眼をやると、すでに彼女はフォロースルーの態勢に入っている。
 
「なんか言ったか?」

 けろりとした表情で、コニンが訊いた。

「はははははは、上出来、上出来だ!」

 魔将ンテカトルは、その広い肩を揺すって笑った。

「それぐらいやってもらわねば、こちらも出かけて来た甲斐がない。まあ、どこまで持つか分からぬが、せいぜい楽しませてくれ」


―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―


 一方のクロノトールは、ンリッグという巨漢と対峙していた。
 青い皮膚の上に、茶褐色の兜と鎧を着込み、たくましい二の腕はむき出しだ。
 その鎧も特注品だろう。というのも、ンリッグは逞しい上半身をしているが、腹はたるんで突き出ていた。
 筋肉を肥大させるには大量の食事が必要だが、運動量よりも食事量が多すぎると、こうした極端な体型となる。
 
 クロノトールは対照的に、野性味あふれる引き締まった筋肉をしていた。
 しっかりと鍛錬し、節制している証拠だった。
 その筋肉の上に、ダーがこしらえた黒の装備一色を身にまとっている。

「かなり鍛えぬいた肉体をしているようだな。だがな、戦に重要なのは節制することではないぞ!!」

 ンリッグは、突如としてクロノに突進してきた。
 クロノは素早くブラックタートルシールドを構え、防御の姿勢をとる。
 そこに、力任せのンリッグの大剣がぶつかってきた。
 その破壊力たるや。クロノの巨体を後ろへ吹っ飛ばすほどの威力だった。
 クロノとしては、ひっくり返らぬよう、後退して体勢を立て直すしかない。
 
「わかるか? 戦に必要なのは体重によるパワーよ。他はいらぬ」

 さらに無二無三、ンリッグは剣を大きく振り回してくる。
 クロノはことごとく盾で受けたが、いずれも衝撃が大きく、体勢を崩されてしまう。
 崩されると、ふたたび相手に攻撃のチャンスを与えてしまう。
 これはまずいと悟ったクロノは、盾を捨て、バスタードソードを両手に構えた。

「ふむ、防御を捨てたか。しかし、それは命取りと知れ!」

 再び、ンリッグは雄大な軌道で、袈裟斬りに剣を振り降ろしてきた。
 速度はないが、当れば何でもまっぷたつに切断してしまいそうだ。
 クロノも合わせるように剣を降った。下から迎撃するように。
 剣は空中で激突した。
 ――その瞬間、クロノは手首を返していた。
 ンリッグの剣は、クロノの剣身の上をななめに滑り落ちていった。

「しまっ――」

 ンリッグがあわてて体勢を立て直す前に、すでにクロノは旋回している。
 遠心力を生かした横殴りの一撃が、ンリッグの胴を捉えていた。
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