燃えよドワーフ!(エンター・ザ・ドワーフ)

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第十章

奥の手

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 一騎討ちは、ナハンデル側に凱歌があがった。
 しかし、これは前哨戦というより、単なる余興の部類であろう。
 本格的な戦は、これからはじまるのだ。
 ヴァルシパル国王軍から、人馬のうごめく気配がした。やがて進軍ラッパが鳴り、馬蹄のひびきが地をゆるがした。ヴァルシパルの誇る、騎馬隊が動きだしたのだ。

 これに対抗するナハンデル側は、わざと狭隘な地に陣をしき、さらに高い土塁を築きあげている。土塁はヴァルシパル側には急勾配となっていて、ナハンデル側は上にのぼりやすいよう、なだらかに設置している。 
 ヴァルシパル騎馬隊は、一気に斜面を駆けあがろうと突進してくる。だが、土塁の前には、土を盛るために掘られた穴が、堀のようにうがたれている。
 さらに馬の上には、鎧帷子に身を固めた、重い騎士が乗っているのだ。
 この状態で、騎馬が土塁を駆けあがるのは至難の業である。
 さらにエクセの献策で、土塁の上には弓手部隊が配置され、接近する騎馬をばたばたと射殺している。まともに正面突破をはかろうともくろむヴァルシパルは、序盤から無益な出血を強いられていた。
 ここにコニンも配置されていた。際立った力量をもつ彼女の存在は、大いにナハンデルの助けとなり、大いにヴァルシパルを苦しめた。

「ええい。坂を無理に上ろうとするな。あの穴を突け!!」

 号令がくだる。あの穴とは、土塁の中央部だけ、ぽかりと人馬がとおりぬけられるほどに開かれた、通行口のことを示している。
 先ほどの一騎討ちで、スカーテミスが駆け抜けていったのは、ここである。
 それを、ヴァルシパル側も見ていたのだ。
 ここが弱点であると考えるのは当然といってよかった。
 土塁の上の、弓箭隊の弓のいきおいが暫時おとろえた。
 混乱している、隙が生じた。とヴァルシパル側は判断した。

「――よし、俺が一番乗りだ!!」

 ひとりの騎士が、土塁の隙間を駆け抜け、歓喜に満ちた雄たけびをあげた。
 それが最後の言葉となった。
 次の瞬間、死んだ。
 左右から、無数の長槍が全身をつらぬき、かれを空中に固定したのだ。
 主のいない馬だけが、そのまま走り去っていく。
 
 狡猾な罠だった。土塁の隙間は、人馬一体が通り抜けるのが限界であるようにこしらえられている。
 その左右の死角に長槍隊を伏せておき、通る瞬間、刺し殺すのだ。
 馬蹄がとどろく。つぎつぎと、土塁の隙間を目指して一騎ずつ騎馬があらわれては、左右から延びる槍に全身をつらぬかれ、落馬して地に屍をさらしていく。
 彼らは土塁を通り抜けるまで、自らの運命を知らない。
 死の瞬間のみ、おのれの身に起こったことを知るのだ。

 ヴァルシパル側も、多数の犠牲者を出してようやく事態を把握した。
 なにしろ、高い土塁が視界をはばみ、裏で何が起こっているのか見当がつかないのだ。一方のナハンデル側は、急ごしらえとはいえ、豊富にある木材で造られた物見の櫓がある。これで敵の様子はほぼ一望できるのだ。
 ヴァルシパルが何かを企図する。それを櫓の上で見ている兵が、旗をあげてナハンデル全軍に伝達する。
 ほぼすべて、ヴァシパル軍が狙った行動は阻止されつづけている。
 これに業を煮やしたのが、ほかならぬヴァルシパル国王であった。

「ええい、何をしている! 森の方面は手薄であろう。そちらから一気に片付けぬか!」

「は、しかし――」

「しかしもお菓子もあるか。国王の命令であるぞ」

 国王命令であるといわれれば、騎士に否やはない。
 かれらはやむを得ず、この無茶な指令を実践に移した。
 結果は散々なものであった。 
 そもそも木々の間を騎馬で駆けるという行為が危険なものなのだ。障害物が多く、せっかくの騎馬の機動力が半減する。
 さらにナハンデル側は、そこに周到な罠を設置している。
 縄である。
 騎馬で跳びこえられない、絶妙な高さで縄を張っておく。
 すると馬の首か、騎士の身体に縄がかかる。
 騎士は当然のように落馬する。いったん落馬した騎士ほど哀れなものはない。重い甲冑が災いして、まるでひっくり返された亀のように、容易に立ちあがることすらできない。
 そこに伏兵が駆け寄り、鎧の隙間からとどめを刺す。それだけでいい。

 かくして国王の命令により、さらに貴重な騎馬が無駄に死んでいく。
 この劣勢を打ち破るには、奥の手を用いるしかない。
 決断は迅速だった。ふたたび国王の命令がくだった。

「――魔法騎馬隊を投入せよ!」

 魔法騎馬隊。
 鞍上に、馬の扱いに熟練した魔法使いを配置し、駆け抜けさせる。
 馬を疾らせながら、馬上より魔法を放つ。
 馬の突進力と火力で、敵を圧倒し、強引に勝機をつかむ。
 これこそヴァルシパルの誇る必勝戦法だった。

「ついに魔法騎馬隊のおでましです。いよいよ敵は本気ですね」

「本気なのは最初からわかっていたことではないかの」

「まあまあダーさん、ぼやかない」

「……ダー、がんばって……」

「そうです、ここからはあなたが主役なのですからね」

「おだてても何も出んが、まあ確かにワシがやらざるを得まい」

 ダーはよっこらしょと重い腰をあげた。
 いままで采配はエクセにまかせ、ダーはしばらく高みの見物にまわっていたのだが、ようやく彼の出番が到来したのだ。

「ところで弓手のコニンは、ここにいていいのかの?」

「うん、危ないから一時避難。あとはダーさん次第だよ」

 轟音が響いた。敵の放った朱雀の攻撃呪文、ファイヤ・バードが、硬い土塁を揺るがしているのだ。
 敵は一撃を見舞っては、離脱していく。
 次の騎馬がまた攻撃呪文を唱えつつ突進する。離脱する。
 この波状攻撃で、一気に場を制圧しようという構えだろう。
 それを許すわけにはいかない。

 ダーは懐から玄武の珠をとりだした。それをかざしつつ、土塁をのぼる。
 そうじゃ。ダーはふと思い出した。

「珠の力を最大限にひきだしたいなら、言霊をのせるといいわ」

 そういってアドバイスをくれたのは、深緑の魔女だった。
 ダーはさっそく試すことにした。

玄武障壁」ゲンブ・シールド 

 緑の光が、激しく視界を覆った。
 彼の手のなかの玄武の珠の力が増したように感じられた。
 振動はまるでしなくなった。
 敵の魔法攻撃は、すべて玄武の珠の力で防がれてしまっていたのだ。
 こうなるともはや、王国の誇る魔法騎馬隊といえど、なすすべはない。
 
「頃はよし、反撃開始!」

 ウォフラム・レネロスの号令一下、敵の魔法攻撃に避難していた弓手隊が、ふたたび土塁の上へと駆けあがった。弦の音がかさなりあい、矢の群れがうなりを生じて魔法騎馬隊におそいかかった。
 これを回避する方法は、騎馬隊には存在しなかった。
 ばたばたと、馬が悲鳴にも似たいななきをあげて地に倒れた。
 魔法使いは抵抗をこころみるが、この障壁のなかで何ができるわけでもない。
 矢が死の痛みをともなって、彼らを襲いつづけた。
 
 ひとりの騎士が、無念の表情で国王の前で膝をついた。
 報告をする義務が、かれにはあった。 

「王、魔法騎馬隊……全滅しました」

 その声はふるえ、かすれていた。ヴァルシパル王国の誇る最強の部隊、魔法騎馬隊が、このようなとるにたらない一領主を征伐するのに失敗し、地上から消滅したのだ。
 この事態に、王をとりまく重臣たちも、苦い表情を見合わせるほかはない。

「王よ、残念ながら、戦況はわが方の不利です」

「ここは一時後退し、ふたたび陣を立て直すべきです」

 その苦渋にみちた進言を、国王は一笑に付した。

「なぜ撤退する必要がある。私の目には、劣勢など映っておらぬ」

「しかし、われわれは刻を急ぐあまり、ほぼ騎馬隊ばかりでこの場に急行しております。攻城兵器が王都より到達するまで堅く陣をしき、防御に撤するべきでは?」

「やれやれ、心配性の家臣ばかりで、私も気苦労が絶えぬ。こちらには、まだ最強の兵器が残っておるではないか」

「はて、最強の兵器とは、どういう――」

 そのときであった。
 この場にいる全員が、思わず引いてしまうほどのド派手な格好をした若者が、ゆっくりと王の前に姿を現した。

「お呼びですかねえ、国王陛下」

「うむ、やってくれるな、ハルカゼ・ミキモト――」

 ミキモトと呼ばれた若者は、舌なめずりせんばかりの不気味な笑みを浮かべ、

「わかりました。実に! 造作もないことですねえ」

 と応えた。
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