燃えよドワーフ!(エンター・ザ・ドワーフ)

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第十一章

ミキモトvsダー その1

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 陽は高く中天にあった。
 ヴァルシパル軍の騎馬隊の甲冑が、ふりそそぐ光を受け、かがやいた。
 やがて、地に落ちた光の波頭がふたつに割れた。
 そこから白馬に乗った騎士が、たったひとり、供も連れずに現れた。
 男は派手すぎる貴族風の服に袖をとおしており、ろくに武装していない。
 ただ一剣のみを腰に佩いている。
 
 その男があらわれたとき、ナハンデル陣営のほとんどの兵は、一風変わった使者が来たものと勘違いをした。だが次の瞬間、それは驚愕へとかわった。
 男が腰鞘から、まるで届かぬ斬撃を空へ向けて放ったのだ。

「――いけない、伏せて!」

 土塁上に、コニンの切迫した声がとどろいた。
 どういう意図なのか測りかねたナハンデルの弓兵たち数人は、かしげた首ごと切り落とされ、なだらかな勾配を転げ落ちていった。
 コニンの指示を咄嗟にまもった数人の弓兵は、背後の坂を転がり落ちていく生首と胴をかわるがわる見つめ、ごくりと息を呑んだ。

「い、いまのは……?」

「異世界勇者の攻撃だよ。迂闊に首を出したら、あんなふうになる」

 コニンは土塁の上で伏せている。どうにかして、ここから射ることができないか考えつつ応えた。
 次の斬撃が放たれ、振動がコニンを襲った。そっと覗くと、土塁の前面に、斜めに走った巨大な傷跡がついている。
 ちょっと無理っぽいな。コニンはすぐにその考えを放棄した。

「さあ、亀のように引っこんでいるナハンデルの兵どもよ、これだけでは済みませんねえ」

 さらに斬撃が鋭さを増し、空へと放たれる。
 加減は調整できるのか、空気を斬りさくすさまじい音がした。
 これまでの中で、まちがいなく最大級の斬撃だった。
 ついで。めきめきと木のへし折れる音がした。櫓の柱がちょうど中段あたりから切りさかれ、人と巨大な木のかたまりがひとつになって落下してくる。
 今度は、コニンたちは坂道を駆け降りる必要があった。忙しいかぎりである。
 櫓はもう、形を成していない。中途で断ち切られた柱だけが、むなしく佇立しているだけであった。
 
「やめんかい! このナルシスト!」

 ふいに怒声がこだました。人々が眼をむけると、土塁の中央部分から、小さな人影が姿をあらわすところであった。えっちらおっちら、徒歩である。
 ドワーフ、ダー・ヤーケンウッフその人だった。

「ほほう、出てきましたね、敵の首魁が」

「わしとしてはもう貴様の勘違いハンサム面はもう見飽いたのじゃが」

「ほざいたね。この老いぼれドワーフ、老眼で美醜の判断がつかぬと見えますねえ」

「残念ながらナハンデルには絶世の美女と美男子が揃っておるでの。それからくらべると、おぬしなどはどこにでもいるヘイボーンな顔じゃよ。一世紀ばかり後に出直してまいれ」

「彼我の戦闘力の差もわきまえず、よくほざきますね。あれほど城でボコボコにされたのに、今度は命まで落とすことになるでしょうね」

 白き馬にまたがったミキモトは、わざとらしいほど優雅なしぐさで馬上から降り、地上の人になった。すぐさま髪をかきあげるのは、もう見慣れた風景である。
 
「さて、これが最後です。珠をよこしなさい。命が惜しければ」

「珠ならおぬしも2個ほどもっておろうに」

「く……この期に及んで聞き苦しい下ネタを……もう堪忍なりませんね」

 ミキモトは大げさなモーションで、腰の剣――レイピアをぬきはなった。
 白い剣身はあざやかな光をともない、天へと掲げられた。
 ダーも愛用の戦斧を抜いた。
 ふたりの距離は数歩。
 だが、異世界勇者の武器に距離は関係がない。
 
 そのことを一番わきまえているのはダーであった。
 なにしろ強力な破壊力をほこった黒魔獣を、遠方から細かく切り刻んでしまうほどの殺傷力を持っている兵器である。それを間近で見ているダーは、嫌でも緊張せざるをえない。

(さて、異世界勇者の武器の威力を、玄武の珠で防げるか)

 防げなければ終わりである。
 ダーの死をもって、すべては完結するであろう。
 ミキモトはアンガルドの姿勢から、斬撃をくりだした。
 ダーはすばやく玄武の珠を、額のうえに掲げている。
 疾風が大気を切断した。

 大きな砂煙が舞い、周囲の人々は一瞬、ふたりを見失った。
 やがて砂塵がちり、その中からダーは悠然とその姿をあらわした。
 手傷ひとつも負っていない。
 ナハンデル側から歓声が、ヴァルシパル王国側からは、驚愕の吐息がもれる。

「むう、生意気ですね……」

 さらにミキモトは斬撃を見舞った。2撃、3撃、さらにたたきつけられる光の打撃は、すべてダーの肉を切断することはなかった。
 円形をした半透明のドームに覆われたダーの頭上で、珠が緑の光をはなつ。異世界勇者の武器の攻撃を、これは弾いている。
 ダーはいまさらながら、とんでもないものを手に入れたわいと思っている。
 ミキモトの斬撃がやんだ。その貌は、意外なことに笑顔である。

「その珠を傷つけるなという国王からの要求があったのですが、どうやらそれは、かなわないようですねえ……」

 不吉なものを感じとり、ダーはふたたび身構えた。
 ぐぐぐっとミキモトが身をよじった。何かが来る。
 ダーは叫んだ。「玄武障壁《ゲンブ・シールド》」と。
 珠の光が増した。緑の障壁がいっそう強化されたように感じられる。

 刹那であった。
 ミキモトお得意の連続突きが、真昼に現出した流星のごとく、ダーのもとへと降りそそいだ。

 流星連続突きエトワール・フィラント

 すさまじい振動が地軸をゆらし、木々がざわめき、馬がいなないた。
 両陣営とも、あまりの勇者の攻撃のすさまじさに、声もない。
 突風が踊り、風が哭いた。竜巻のごとき風の奔流は無限につづくかに思われた。
 だが、それは唐突に終わりをつげた。

 ミキモトが息を切らせて、連続突きを終えたのだ。
 その正面には、緑の珠を頭上に掲げた、ダー・ヤーケンウッフの姿があった。
 彼は無事だった。頭上にきらめく緑の珠をゆるりとおろすや、

「迎えの馬車でも来たか、色男どの」と、いった。

「くっ、こんな馬鹿なことが、こんなことが許されるはずがありませんね!!」

「――残念ながら、現実じゃ」

「この、この下卑たドワーフ風情が! 勇者の攻撃を防ぐなど、あってはならないことですね!!!」

 ミキモトが叫んだ。地団駄ふんで悔しがった。これまでの優雅なふるまいなど、どこかに吹き飛んでしまったかのようであった。
 それらのすべては演技であり、この激情に駆られた姿が、本来のミキモトなのかもしれぬ、とダーは思った。

「この程度で、勝った顔をするのは気が早いですね! まだそちらはこちらの攻撃を防いだにすぎない!
私にはまだ奥の手が残っているのを知らないと見えますね!」

 優雅さの仮面をぬぎすてたミキモトは、さらに見苦しく叫んでいる。
 ダーにとっては、彼と対峙するのが主目的ではなかったが、これでいい。防御のすごさは実感できた。問題は攻撃面である。ダーはすっと腰の袋に玄武の珠をおさめ、代わりに青い珠をとりだした。
 青龍の珠である。それを戦斧とともに握りしめる。すると、斧全体がほのかな光に包まれたように感じられた。

「そろそろその聞き苦しい舌の回転をとめて、ワシの話を聞かぬか?」

「亜人風情の指示は受けられませんねえ!!」

「よろしい――ならば、次はワシのターンじゃな」

 ダーは低い姿勢のまま、ずいと一歩踏みだした。
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