燃えよドワーフ!(エンター・ザ・ドワーフ)

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第十二章

謎の少年

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 怪物どもの流した血の臭気がたちこめる中、一行はそれぞれの武器を鞘におさめた。おもな敵はオークとゴブリンの二種族だったが、種族間の連携がまるでとれていなかったのが幸いし、ダーたちはさしたる苦労もすることなく快勝をおさめた。
 
「いやはや、あぶないところをありがとうございました。感謝のことばもございません」

 と、恰幅の良い商人ふうの男が前に進みでて、謝意をつたえた。
 聞けば、彼らは3つの商家が連合してつくった隊商《キャラバン》らしい。最近の治安の悪化を懸念して、いつもより護衛は多く雇ったらしいが、さすがに敵の数が多すぎた。

「彼らは頑張ってくれましたが、いかんせん30もの怪物たちに囲まれては勝ち目がありません。それでも必死に防戦してくれて、敵の数はかなり減らしてくれましたが……」

 ダーたちは周囲を見渡した。無残に大地に転がっているのは怪物の死体だけではなく、勇敢な護衛たちの成れの果ての姿もある。残った護衛の数は4人。当初の半数以下であるという。

「この人数では、目的地のジェルポートまでは、とてもではありませんが無事に到達できないでしょう。そこで、皆様方の武勇を見込んで提案がございます、どうか目的地までご同行願えないでしょうか。無事に到達できたならば、むろん謝礼の方ははずませていただきます」

「いや、悪いが商人どの、ワシらは急ぎの旅の途中なのじゃ。悪いが他をあたってくれぬかのう」

「いったいこのような人馬も見かけぬ街道で、他の腕利きを探すことなどできましょうや。どうか一生の願いと思ってお頼み申します」

「さようです。この商品を無事に届けるのが商人としての意地でございます。それができねば、ご主人様に顔向けができません」

 他の商人も口をそろえてダーたちの説得をこころみる。
 さすがの頑固なダーも困り果て、一同をかえりみた。

「さて、どうするかのう。この商人たちを助けてやるべきかどうか」

「オレは見捨てていきたくはないな。もちろん目的は大事だけど、こまっている人を目前にしたら、ね」

「そうですね、困窮している者あらば救いの手を差し伸べよ。そうセンテスの教えにもありますし」

 コニンとルカがそういうと、クロノも無言でこくこくと頷いた。
 どうやら3人娘の意見は一致しているようであった。

「くだらない事を言いますね。われらの目的はあくまで魔王軍の撃退、このような瑣末事につきあっていては、時間がいくらあっても足りはしませんね」

 と、ミキモトはにべもない。対するエクセは少し複雑である。

「もちろん、ミキモト殿のおっしゃることはどこまでも正論です。しかし、ここで困っている人々を見捨てていくことが、果たして勇者の資質として相応しいかどうか」

「敵の魔王を討ち取れば、すべてが平和になり、このような事態も起こらなくなるのですね。だからこそ一刻も速くザラマに到達し、魔王軍を討伐する。これ以外の道はありませんね」

「困っている人を目前にしてもですか?」

「くどいですね。このような出来事は、大事のまえの小事ですね。私のなかではそれ以上の意味をもちません!」

 ミキモトはそういい捨てると、ぷいっと首をそむけた。
 やれやれとダーは苦い顔つきで顎髭をなでる。この旅はあくまでも隠密の旅である。ミキモトの協力なくしては、いささか困ったことになるのだ。
 どことなく険悪な雰囲気のなか、ひとりの若者がそよ風のように穏やかな微笑を浮かべ、商人たちのもとへ歩み寄った。

「みなさん、心配はご無用です。ここにおられるのは、かの救国の英雄、異世界勇者、ミキモト様です。勇者たるお人が皆さんの窮地を放っていくとお思いですか?」

 その言葉に、商人たちは大いに相好を崩し、

「おお、あなたが異世界から参られた勇者様ですか! ご勇名はかねがね」

「ありがたい、ミキモト様、これで我らの安全は保障されたようなもの」

 商人たちはミキモトの白馬をとりかこむようにして両手を合わせ、感謝の意を伝える。

「ええ、いや、それはですね、なんというか……」

 これにはさすがに冷淡だったミキモトも、面食らったようにたじろいだ。基本的にこうした押しには弱い性格のようだ。さすがに商人たちはこうした場面には慣れているようで、ここが押し時とみたか、

「それ、おまえたちも隠れていないで、勇者様にご挨拶しないか」

 と、手を打ち鳴らした。
 馬車の扉が開き、それまで内部で隠れていた女たちが飛び出してきた。
 
「ミキモト様、わたしたちのために護衛を引き受けてくださり、ありがとうございます」

「勇者様がご一緒ならば、私たちも安心して旅を続けることができますわ」

 3人の女性たちは白馬の前で、うやうやしくひざまずいた。いずれも年若く、美人の部類に属するだろう。ミキモトはあわてて白馬を飛び降り、彼女たちの手をとって立たせる。
 
「おお、麗しきレディたち、そんな顔をしてはいけませんね。心配ご無用。この私、異世界勇者ミキモトが、あなた達を無事にジェルポートまでお連れいたしますね」

 ダーは盛大にずっこけそうになって、辛うじて姿勢を保持した。
 先ほどまでと言動がまるで真逆である。ダーはやれやれと嘆息をひとつつくと、温和な微笑を浮かべたまま佇立している若者の腰を、ぽんと叩いた。

「やるのうシュローク、おぬしのお陰で風向きが変わったわい」

「いえ、お役に立てて何よりです」

「――そうそう! こう見えて、シュローはすごいんだよ!」

 と、スカーテミスが猛烈ないきおいで彼の背中に飛びついてくる。
 その勢いを支えきれず、シュロークは前のめりに倒れる。ダーはすかさず身をひねり、かろうじてふたりの下敷きになるのを回避した。
 
「ふう、そうそう何度もバカップルの犠牲者になってはたまらぬわい」

「ダー、そんなことより、こちらへ来てください」

 いつのまにか隊商の馬車の近くへと身を寄せていたエクセが、ちょいちょいと手招きをしている。その声音の深刻なようすに、ダーは無言で駆け寄った。
 開け放たれた馬車の扉の奥に、小さく縮こまって座っている人物がいる。どうやら少年のようだった。あっと声をあげて、商人たちがあわてて駆け寄ってくるが、時すでに遅しである。ダーはすでに見てしまった。

「ムウ、これは――」

 ダーは絶句した。その少年は黒髪黒瞳、少女のように端正な顔立ちをしていたが、ダーが注目したのはそこではない。

「これはしたり、この少年は――魔族ではないか」

 そう、ダーが見たのは少年の肌の色であった。この世界の人間型の生物で、皮膚の色が青なのは、魔族以外には存在しない。
 どうやって魔族の――しかも年端も行かぬ少年が、こんなヴァルシパル王国のほぼ中央部までたどりつくことができたのか。いくら王国内がさまざまな事柄で揺れているとはいえ、想像を絶している。
 ダーは少年に尋ねてみることにした。

「少年よ、おぬしは名をなんという」

「…………」

「共通語《コモン》はわからぬか?」

 通常、ダーたちが会話に用いているのは、人間の使う共通語である。ドワーフにはドワーフ族にしか通じぬドワーフ語があるし、エルフのエクセ=リアンも里に戻ればエルフ語で会話をする。魔族にも当然、魔族語が存在するというわけである。

「共通語……わかるよ……あんまり……だけど」

「ふむ、会話できれば大したものじゃわい。おぬしはどこから来たのじゃ?」

「…………わからない」

「どうしてここにおるのじゃ?」

「…………わからない」

「目的地はあるのかの?」

「…………やっぱり、わからない」

 埒があかない。商人たちが言うには、少年はひとりぼっちで、供のものも連れず、街道をとぼとぼと歩いていたらしい。ぼろをまとっていたが、少年が魔族であることはすぐに気付いたそうだ。

「たとえ魔族だろうが、子供がひとりでこんな物騒な街道を歩いているなんて、放ってはおけませんよ」

 と、商人のひとりが、真剣な表情で訴える。
 どうやら他意はなく、純粋な親切心で拾ってあげたようだ。
 魔族の少年はひたすら大人しく、他人と積極的に関わろうとしないが、女性陣たちが話しかけると、ぽつぽつと会話はしてくれるようだ。

「ふうむ、どうやら悪い子ではなさそうじゃ」

「悪い子じゃないのはいいけど、これから先が大変だよ」

ただでさえ指名手配を受けている一行である。人目を忍ぶ旅に、魔族の少年が加わればどうなるか。目立つ要素のオンパレードではないか。

「――ええい、魔族は皆殺しですね!!」

 そんな物騒なことを口にする異世界勇者を見やりつつ、

「これまた説得に時間がかかりそうじゃ」
 
 と、ダーたちは苦い視線をかわしあうのだった。
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