燃えよドワーフ!(エンター・ザ・ドワーフ)

チャンスに賭けろ

文字の大きさ
134 / 146
第十三章

魔王降臨

しおりを挟む
 大地に転がった凱魔将は、胡坐をかくような姿勢のまま哄笑した。

「カッカッカ、これは恐れ入った。俺を大地に叩きつける女傑がいたとはな」

 剣を咽喉元に突きつけられているというのに、まるで意に介さず、豪快に笑うラートドナ。どことなく、自分の置かれている状況を面白がっている風でさえある。
 
「――どうだ女、俺の女にならんか?」

 この問いにさしものクロノも、一瞬きょとんとした。
 命惜しさに言っているのではない。ラートドナの目は真剣そのものであった。
 やがて頬を紅く染めたクロノは首をぶんぶんと左右に振り、

「……もう、好きな人、いるから……」

 そういって彼女は、魔力枯渇でぐったりと倒れ伏した、人形のようなドワーフに目線を走らせた。その仕草だけでラートドナには伝わったようで、さらに笑みを深くし、

「カッハッハッハ! 俺が振られるとはな。それは残念――」

 しかしその仕草は、完全なる隙であった。
 ラートドナが反撃態勢を整えるには充分すぎるほどの。
 
「気をつけなさい、そこからが本番よ!」

 すかさずケイコMAXの警告がとんだ。だが時すでに遅し。
 すでにラートドナの傍らに転がっている大剣はその掌の内にあり、黒い靄に包まれている。地に倒されながらも、すかさず次の策を練っていたに違いなかった。

「我が大剣よ、漆黒の掌にて敵を掴め」 

 ラートドナの大剣が帯びていた暗黒の靄が、剣尖から延びて、クロノトールの巨躯を鷲づかみにしていた。今度はクロノの天地が逆さになる番であった。
 脳天からまっさかさまに大地へと叩きつけられる。すかさず身をひねって受身をとり、致命傷をまぬがれたが、まともに食らっていたら頚椎を損傷していたであろう。

「……ぐうっ……」

 さしもの頑健で知られるクロノですら、思わず苦悶の声を漏らした。並大抵の衝撃ではなかっただろう。ふらふらになりながら立ち上がるが、すでにラートドナは臨戦態勢に入っている。

「さて、剣技あそびも飽いた。クロノといったか。ま、俺の妻になりたくないというなら仕方ない。ここで名誉の戦死を遂げるがよい」

 剣の技のみで勝敗を競いあうことなど、ラートドナにとってはどうでもよいことだった。彼にとって最優先事項はただ戦争に勝つことのみであり、この地ザラマを足がかりに、ヴァルシパル王国を侵略する。その一点に尽きた。
 その余勢を駆って、秘境とよばれる奥地のプロメ=ティウを征服すれば、魔族悲願の大陸統一は果たされるのだ。そして、奥にひきこもったまま出てこない魔王ヨルムドルより、大陸を統一した覇者として、ラートドナの名は大陸じゅうに轟きわたるであろう。

 その夢想を切りさくように、一条の閃光が彼の兜の隙間目がけて飛んだ。
 それを羽虫でも叩き落とすように大剣の靄で払うラートドナ。
 一撃では終らない。連打、連打。コニンはひたすら銀色の弓から連続で矢を放つ。ことごとく剣の靄で払いおとすラートドナだが、ついに堪忍袋の緒が切れたとばかりに、

「くどい!! 我が大剣よ、漆黒の波を放て」

 と叫ぶや、ラートドナの剣身から暗黒の波動が放たれた。
 誰がどう見ても、直撃をもらってはまずいことだけはわかる。コニンは必死に地に身を投じて回避する。
 黒い弾丸は地をうがち、不気味な臭気をあたりに放った。
 コニンが立ち上がった先には、ラートドナが回りこんでいる。
 
「――では、貴様から先に死をくれてやる」

「――おっと、そういうワケにもいかないようだぜ」

 ラートドナの背後に立っているのは、ゴウリキであった。
 ありえないことであった。彼はミキモトとともに魔王軍10万を相手にしているはずである。でなければ、彼らはとっくに大軍に蹂躙され、粉砕されているはずである。

「貴様、勝利を捨てたか。なぜここにいる」

「そりゃ、とばっちりを受けたくないからだぜ」

「まったく、勇者を時間稼ぎに利用しないでほしいですね」

 いつのまにか、ミキモトすらここにいた。どういうことか理解できない。周囲をとりかこむ10万の大軍は、なぜこの連中を一網打尽にしてしまわないのか。
 周囲を見渡して理解した。彼の大軍は統率を失っていた。
 まるで蜘蛛の子を散らしたように右往左往して逃げ惑っている。
 それも無理はないだろう。紺碧の天空を割って、隕石のように巨大な炎の鳥が落下してくるのをまのあたりにしてしまえば――

 彼はまるで着目していなかったエルフの魔法使いを見た。
 エルフは指揮者のように小さな杖を振りつつ、女僧侶に肩を抱かれるようにして、青い顔で微笑んでいる。ラートドナはあわてて周囲を顧み、

「ントロードはどこか、弓箭隊に命じ、あのエルフを射すくめよ!!」

「はっ、ントロード様は先程……」

「ええい、そうであった、ならばンバラバはどうした!」

 若い従者は無言で指差した。ラートドナがふりむくと――
 ちょうど黒い剣が、ひとりの男の兜を叩き割る光景が目に飛び込んできた。紅い霧が晴れると、そこに仁王立ちする女戦士クロノトールと、まるで棒切れのように大地へ倒れ伏すンバラバの姿があった。

 包囲体勢をとっていた魔王軍は急激な状況の変化についていけず、算を乱して逃げ惑った。そこには統率だった行動はまるでなかった。逃げる兵同士があちこちでぶつかりあい、互いに退路を探して衝突した。もはや大軍は烏合の衆と変わりなかった。
 その烏合の衆の群れに、エクセ=リアン最大の魔法、ファイヤー・カセウェアリーが落下した。彼らはあたかも燃えさかる巨鳥の生贄のごとく炎に蹂躙されることとなった。

 それでも、被害の少ない部隊は何とか体制を立て直そうと、あちこちで再集結しようと号令をかけている。その様子を見たラートドナが、安堵の吐息を漏らす暇も無かった。

「勝機われにあり、つづけ――っ!!」

 これまで固く閉ざされていたザラマの市壁が自ら開いた。
 コートオアを総大将としたザラマ全軍が、勝機と見て討ってでたのだ。
 もはや形勢は大きく変わろうとしていた。
 あちこちで火の粉が舞い、青き炎の戦士ヒュベルガーが躍動する。見えぬ刃が兵たちの喉首を切りさく。ベスリオスがハイド・アンド・シークで暗躍する。強力な攻撃呪文が次々とフォーポインツの面々から放たれる。もはや狩るものが狩られる側となっていた。

「……ラ、ラートドナ様、いかがいたします?」

 狼狽した従者の声で、逆にラートドナはわれに返った。
 この不利な情勢を変えるには、総大将である彼が号令し、態勢を整えなければならぬ。ラートドナがそう決意した瞬間であったろうか。
 彼の目の前に、ゴウリキとミキモトが立っていた。
 さらに、ひとりの女傑、クロノトールが歩み寄った。
 ふらふらと立ち上がったのはケイコMAXだ。

「さて、これで4vs1となったぜ――」

「まさか、卑怯とか言うまいね?」

「言うものかよ――」

 さしものラートドナの、剛毅な顔も引きつっている。
 この数瞬前には思いも寄らぬ、圧倒的不利な立場に己が立たされるとは。
 自嘲気味な笑みと共に大剣を構えたかれの周囲の空間がゆがんだ。

「――いいや、ぼくは卑怯だと思うよ」

「て、てめえ、まさか!」

 ゴウリキが狼狽したのも無理はなかった。空間を裂いて異を唱えたのは、かつての同士、敵方に堕ちた異世界勇者ケンジ・ヤマダだったからである。
 さらにその傍らに姿を現したのは、凱魔将ラートーニ。これにはラートドナも驚いたらしく「あ、姉上!」と叫び声をあげた。
 さらに空間がゆがみ、最後のふたりが姿を現した。
 ひとりは凱魔将ウルル。
 もうひとりは見覚えの無い人物であった。
 ダー一行を除いては。

「あ、あなたは――」

 エクセが声を上ずらせたのは、あながち疲労のためだけではなかった。
 その少年は、かつて魔王ヨルムドルに追われていた少年――

「みなさん、お久しぶりです」

 その少年は、優しげな笑みを一同に向けた。
 ウルルが少年の手前で片膝をつき、彼の紹介をはじめた。

「この方は、われわれの新たな魔王、イルン・ウェミナー様です――」
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

処理中です...