燃えよドワーフ!(エンター・ザ・ドワーフ)

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第一章

ドワーフ、オークと死闘を演じるのこと

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 その発言のぬしは、巨漢であった。
 体格は他のオークどもより一回り以上大きく、肌の色も濃く、どこか異質である。
 瞳の輝きは紅色で、両手で握った巨大なポール・アックスをにぎりしめ、周囲を睥睨する様は目に見えぬ威圧感に満ちている。
 村人の誰かがつぶやいた。 

「ハイ・オーク……」

 オークの中のエリートといっていい。体格、腕力、知力、ともに並みのオークより優れ、中では呪文を唱えるものもいるという。こいつが群れのリーダーであることは疑いようがなかった。
 
「ドイツモコイツモ、ヤクタタズバカリ。オレガ全員シマツスル」

「ほう、しゃべるオークもいるのか。こいつは認識を改めねばならぬわい」

「あれ、昔闘った相手にハイオークはいませんでしたか?」

「何しろ昔のことじゃからな。人間は忘れる動物なのじゃ」

「あなたは人間じゃなくてドワーフですけどね」

「おまえだってエルフじゃろう」

「私はしっかりと覚えていますから」

 どことなく自慢げなエクセに、ちっと舌打ちするダー。
 どや顔の彼の姿を見るのも久しぶりである。

「――クダラヌ会話はオワリダ」

 巨大なポールアックスを頭上に構え、突進するハイオーク。
 轟音が地をゆるがした。紙一重でかわしたダーだったが、空振りの一撃は大地をうがち、あたりにもうもうたる猛烈な砂煙がたちこめる。
 視界が遮られているすきに、ハイオークは、ゆうゆうと地面から巨大な斧をひきぬき、再度大振りの一撃をみまった。
 烈しい硬質の不協和音が、村の空気をかきみだした。
 冒険者のひとり、巨体の女戦士が、その一撃を受け止めたのだ。
 なみなみならぬパワーに、ほほうとダーも驚きを禁じえない。
 拮抗していたのもつかの間、すぐにハイオークの圧力が彼女を上回り、女戦士は数歩うしろに弾きとばされた。
 さらに追撃をこころみるハイオークだったが、それはダーが阻止した。
 すかさず敵の足元に潜りこむと、斧の横撃を見舞う。
 だが、ハイオークもさるもの、長い柄を生かし、それを受ける。意外な機知にダーは目を見開いたが、すぐに斜め後ろにステップした。
 敵が再反撃の構えを見せたからだ。
 瞬く間の攻防だったが、濃密な時間に村人は呆気にとられて言葉もない。

「すごい戦いだ。こんなのは見たことがない」

「しかし、ドワーフとハイオークの死闘とは、悪夢を見てるようだ」

「バカをいうな、あのドワーフは俺達のために闘ってるんだ」

 そんな村人たちが会話をかわせる余裕が出ているのも、オークの数が圧倒的に減少しているからだ。
 オークは機を見るに敏である。言い方を変えれば、劣勢になるとすぐに逃げる。
 もはやハイオークを含め、残党はごくわずかだった。

「お前さんも意地を張るのはやめて、とっとと逃げ帰ったらどうだ。もはや勝負の行方は明白じゃろうに」

「ダマレ、ソウハイクカ」

 ダーの説得も、ハイオークには通じない。

「ワレラハ、コノムラノアルモノヲ奪取セヨトノ命ニヨリ、命懸ケデヤッテキタ。今更アトモドリハデキヌ。任務ヲハタスカ、ココデ死ヌカノフタツヨ」

「死兵というやつかのう」

 己の命を守ろうとするのが生物の本能であるが、あらゆる致命傷を恐れず、ひたすら攻撃に徹する者の怖さを、ダーは長年の戦いで嫌というほど知っている。厄介なやつじゃなあ、と思うしかない。
 会話は終わりのようだった。無言でハイオークは雄大な斧をかまえなおした。
 ふたたび斧を頭上に構え、突撃をしかけるハイオーク。
 無策じゃな、とダーは思ったが、そうではなかった。
 ばきばきっとハイオークの口許で、何かが砕ける音がした。
「むうっ」と気付いた瞬間は、わずかに手遅れだった。
 顔面に何かが叩きつけられ、ダーは思わず目を閉じた。
 ハイオークが自らの牙を噛み砕き、弾丸のように吐き捨てたのだ。
 おそるべき勝利への執念といえた。

「ドワーフさん、あぶない!!」

 冒険者たちが悲鳴をあげる。 
 だがダーも、ただ棒切れのように斬られる趣味はない。
 眼を閉じたまま、投げた。
 斧を。
 
「バカナ、血迷ッタカ!」

 唯一の得物を投げて飛ばすとは、戦士として自殺行為としかいいようがない。
 斧は正確にハイオークの顔面へと飛んだが、それは当然、ポールアックスで防がれる。
 こうなると、もはや無手となったドワーフを殺すことは容易なことだった。
 しかし、飛んできた斧を防いだ一瞬。
 ハイオークの視界が塞がった一瞬。
 顔の前から斧を動かしたハイオークの眼前に、炎に包まれた鳥があった。
 エクセの攻撃呪文、ファイア・バードが飛来していた。
 
「ヌウッッッ!!」

 これは、ポールアックスで防いでも、防ぎきれない。
 飛んでくる炎のかたまりを、剣で防げないのと同じ道理である。
 ハイオークの上半身は、火に包まれた。
 焦げ臭い嫌なにおいが、大気を汚染した。
 ダーとしては、エクセが援護してくれるのは、確信に近いものがあった。
 一瞬だけ、ハイオークの目を逸らさせる何かがあればよかったのだ。
 
 ダーが涙目ながらに瞳を開くと、目に飛び込んできた光景は、ハイオークが大地に転がって、上半身の炎を消そうと必死になっている姿だった。
 ダーは自身の斧を拾い上げると、ハイオークに向き直った。
 そのまま待つ。相手が立ち上がるのを。
 
「さっさととどめを刺すんだ!!」

 そんな村人の叫び声を傲然と無視し、ダーは待った。
 やがて、上半身を赤く爛れさせたハイオークが起ち上がった。
 無言のまま、ダーは戦斧を構えた。
 ハイオークもそれを見て、ポールアックスを構えた。

「戦士ノ情ケカ?」

「ちがう」

「デハナンダ?」

「斧使い同士、斧で勝敗を決せんでどうするよ」

 カッハッハハと、ハイオークが笑った。本来なら火傷の痛みで、声も出まいに。

「受ケヨウ、ドワーフノ戦士――名前ヲ聞コウカ」

「ダー・ヤーケンウッフ」

「ハイオークノ『壊シ屋』グゲルグ」

 風が吹いている。
 距離は数歩。
 どちらともなく、突進した。もはや小細工はなかった。
 リーチ差から、先に攻撃が届いたのはハイオークの一撃だった。
 その数瞬前に、ダーは歩調を変えていた。
 地摺り旋風斧のステップへと。
 ドワーフの一撃と、ハイオークの一撃は、ほぼ同時に炸裂した。
 斧と斧とがぶつかりあい、金属音が炸裂した。
 ハイオークはわずかに体勢を崩した。
 しかし、ダーの強靭な足腰は、さらに追撃の旋回を可能にしていた。
 体勢を崩しつつも、ハイオークはさらに斧を振り、ダーの追撃を防いだ。
 だが、ダーは止まらない。地摺り旋風斧は止まらない。
 二度防いだのが限界だった。ダーはそのまま回転を続け、斧も旋回し続ける。
 目標物が消滅するまで。
 やがてダーの斧が空を斬った。その反動を利してぐるんと振り向くと、両足をずたずたに切り裂かれたハイオークが、その身を紅に染まった大地に転がしていた。

「見事ナ連撃ダッタ。ドワーフヨ、トドメヲサセ」

「おぬしもな、いい勝負だった」

「アア、楽シカッタナ……ダー・ヤーケンウッフヨ」

 ダーは無言で頷くと、その通りにした。
 ハイオークが絶命した瞬間、村人の歓喜の声が、輪になってダーたちを取り囲んだ。
 ダーは静かに雄敵に礼をささげると、その場にどっかと腰を下ろした。

「やれやれ、こんな勝負ばかりしてると、五百年の命も五年に縮まってしまうわい」

 
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