燃えよドワーフ!(エンター・ザ・ドワーフ)

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第一章

ドワーフ、ようやく新たな仲間を得るのこと

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「ようやく終りましたね……」

 やれやれといいたげな気だるさで、エクセがつぶやいた。
 ダーがものの役に立たなくなったので、オークの残党狩りはエクセと冒険者、村の若者たちが担当した。
 残った連中は、たちまち逃走態勢に入った。
 これが高度な知性のある生物なら、とっ捕まえて事情を聞き出すところだが、オークにそれは期待できない。
 増援に来られても困るので、ひたすら逃げるオークたちを、冒険者と村人の精鋭は徹底的に追撃した。
 言ってみれば一方的な屠殺である。
 こうして彼らは、オークの残党を完全に一掃したのだった。

 よっこらしょと起ち上がったダーは、口をへの字にして周囲を見回した。

「――ところで、ジンジンとジンギとスカンはどうなった?」

 不審なことに、この戦闘中、彼らの姿がなかったのだ。
 エクセ=リアンが、無言で指をある一方向へと向けた。何もない。
 ダーは目を細くしてそちらを見つめた。地平線に吸い込まれそうなほどの遠方に、豆粒ほどの大きさになった、みっつの小さな背中がある。

「とっくに風を食らって逃げてますよ」

「なな、なんと頼りにならぬへっぴり腰のプーどもじゃ!」

 ダーは怒って地団駄ふんだが、どうにもならない。
 単なる人数あわせの傭兵を入れたのが間違いだったのだ。

「……あの、危ないところをありがとうございました」

 冒険者の一人が、背後からおずおずと声をかけてくる。

「――いや、同じ冒険者ではないか。見過ごしにはできぬよ」

 ダーはふりむき、できるだけ爽やかな営業用スマイルで返した。
 支援を得なければならないという、エクセの言葉を思い出したのだ。
 そのエクセは、フードを目深にかぶりなおして、ふるえている。

(こやつめ、ハハハと笑っておるに違いない)

「あの、失礼でなければ、お名前をうかがってもよろしいですか?」

「ワシはダー・ヤーケンウッフ、こやつはエクセじゃ」

「本当に助かりました。あらためてお礼を言わせてください」

 丁寧に頭をさげたその冒険者は、女の僧侶プリーステスだった。
 三人の冒険者のなかには、ハイオークとの戦いで助力してくれたひときわ大きな戦士がいたが、これまた女性だった。エクセもエルフならではの長身で、180センチはあるが、この女性はさらに大きい。

「…………ありがと………」

 かなり無口な性格らしかった。

「オッス、本当に危機一髪だった! サンキューな二人とも!」

 やたら威勢のいい口の利き方をする弓矢使いが、サムズアップで礼をする。
 つんつんしたショートカットの髪型に、ぞんざいな言葉遣い。
 一見して少年のように見えるが、体型はどこから見ても女の子だった。
 残っていた冒険者三人とも、女性というのは偶然ではあるまい。
 男だけ先に殺して、女は生け捕りにしておたのしみというつもりだったのだろう。

(フン。そうは問屋が不眠症のマイケル) 

 その目論見を、たまたま通りかかったダーたちが未然に打ち砕いたというわけだ。

「それにしても、ここは王都からさほど離れていない村ですよ、こんなところにまで魔物が襲来するなんて、ただごとではないですね」

 そのとおりだった。
 ここフルカ村は彼らが現在、目的地として目指しているジェルポートと、王都ヴァルシパルとのほぼ中間地点に位置する。
 両者を結ぶ街道には関所が設置されており、これほどのオークの大群の侵入をやすやすと許すことは、まずありえないといっていい。

「魔王復活にともない、不可解な現象がおこりつつあるようですね」

 エクセは思案顔になった。
 命懸ケデココヘキタ。あのハイオークの言葉の意味を、色々と考察してるのだろう。
 確かにダーとしても、どのような手段でオークの群れがここまで到達したのか気にならなくもないが、オークならぬ身としては、考えても仕方がないと思っている。
 しかし、頭のいいエクセには何か思うところがあるのだろう。
 こうなると長いので、ダーは声をかけなかった。

「――あぶないところを、ありがとうございます」

 村民たちが、次々とお礼を言いにやってきた。
 ダーのみたところ、村の若い衆は戦闘になれていなかった。
 残党狩りのときのオークどもは、すでに戦意を失っていたため、一方的に倒すことができたが、あのようすではろくな抵抗もできなかったに違いない。
 聞いてみると、たしかに完全な不意うちで、村はほぼ無抵抗状態だったようだ。
 見張り台にいた人間も、接近してくるオークの姿を視界に捉えてはいない。
 たまたま別の依頼で居合わせた冒険者たちも、気付いていれば対応は変わっただろうが、そうはならなかった。
 ろくな作戦も練れずに、殺到してきたオークの大群により、各個に分断され、命を落としていったそうだ。
 言ってみれば、ダーたちは村の危機を救った英雄だった。

「なんのなんの、造作もないことじゃわい」

 ひたすら頭脳を働かせているエクセは放置しておくことにし、ダーはとりあえず、お礼を言いに集まった村人の応対をすることにした。

 
 ……その後、ダーと冒険者は、村人たちと共にオークの屍を処理した。
 放っておくと、疫病が蔓延するおそれがあるからだ。
 さらに虐殺された村民と、斃れた冒険者たちの遺体も埋葬した。
 かれらに祈りの言葉をささやく女僧侶。
 その目にはうっすらと涙がにじんでいる。
 他のふたりの冒険者も、沈痛なおももちだ。仲間が死んだのだ。無理もない。

 ダーとエクセも、無言で葬儀に参列した。
 ダーといえど、こんなときにふざけた態度をとることはない。
 静かに両目を閉じ、勇敢に戦い、死した冒険者たちに黙祷をささげた。

―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―

 そうした事後処理に追われているうち、村も落ち着きをとりもどしつつあった。
 ダーたちもそうした手伝いに追われ、気付けば三日ほども村へと逗留している。
 その後、ささやかながら村をあげての歓待を受け、ダーは大いに喜んだ。
 酒と肉さえあれば、ドワーフ大満足なのである。
 もう三人のアホ戦士どもに逃げられたことなど、とうに頭から消えている。

「ところでおふたりは、どこへ行くおつもりだったのです?」

 冒険者の一人、女僧侶が尋ねる。

「うむ、もともと吾らはジェルポートの町に向かう途中であった」

 すっかり出来上がっているダーは上機嫌で答えた。

「なにか目的でも?」

「ふむ、世直しの旅といったところじゃな」

「世直しだって! これは大きく出たな、オッサン」

「オッサンではない。ダーと呼べ」

「とても興味深い話です。よろしければぜひお聞かせください」

「………聞きたい………」

 興味津々の冒険者たちに、ダーは熱弁をふるった。
 王宮での出来事――。
 異世界から召還した勇者に頼りきりで、自らは何の行動も起こさない連中。
 それは情けないと正論を唱えたダーを、彼らは非道にも暴力をもって叩き潰した。
 勇者たちの横暴にあきれ果てたダーとエクセのふたりは、熱き正義の心に突き動かされるがまま立ち上がった。
 そう、自らの手で魔王軍を撃退し、この世界を救うと天に誓ったのだ。天命、われにあり!

 身振り手振りを交え、時には高く、時には低く、ダーは情熱的に語った。
 ダーの話というのは、基本的に大げさである。エクセ=リアンがちゃんと聞いていたら、たちまち彼は四神魔法でこんがりと焼かれていたところだろう。
 しかしエクセは、なにやら考え事に没頭していた。
 まるで周囲の声が耳に入っていない状態なので、ダーの独演会を許してしまったのだ。
 エクセ、最大の失敗といってよかったかもしれない。

パチパチパチパチパチパチパチ!

 
 万雷の拍手に囲まれて、エクセはハッと我にかえった。
 何が起こったのか理解が追いつかないようだ。
 エクセは満足そうに髭をなでおろしているドワーフの耳を引っつかむと、

「ダー、何をしでかしたのです?」と詰問した。

「―――私たち、大いに感動しました!」

「な、なにがでしょう?」
 
 ぎょっとした顔でふりかえるエクセ。

「もしよかったら、その世直しの旅、俺たちも同行させてくれないか!」

「………行きたい………」

「もちろん歓迎じゃ。仲間は多いほどよい」

「ダー、あなたはまた勝手に……」

「エクセ様は反対なのですか?」

 女の僧侶に問われ、いえ、そういうわけでは……とたじろぐエクセ。
 何が起こったのか把握していないだけに、複雑な表情を浮かべている。
 じろりと横目でダーを睨むのが精一杯だった。

「よいではないかエクセ、これでダー救国戦士団の復活じゃ!」

「そのださいネーミングはよしなさい! それにあなたはよいのですか?」

 「なにがじゃ?」

 「あなたはもともと、国王の亜人差別がもとで立ち上がったようなもの。人族を加えては本末転倒ではないですか?」

 「ガハハ、わしは国王とは違う。ともに戦うものに種族は関係ない。異世界の者ではなく、この土地に暮らす、すべての種族が力を合わせて魔王軍を倒す。これこそが重要なのじゃ」

  もはやエクセが何をいっても無駄のようだった。
  彼は「後悔すると思いますよ……」と言葉を添えるのが精一杯だった。

 「後悔なんてないよ。世界を救うなんて、冒険者冥利に尽きるよ!」

  はりきって、アーチャーの元気娘が応えた。
  こうしてダーは三人の仲間に逃げられ、新たに三人の仲間をゲットしたのだった。 

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