燃えよドワーフ!(エンター・ザ・ドワーフ)

チャンスに賭けろ

文字の大きさ
8 / 146
第一章

ドワーフ、唐突すぎる告白に戸惑うのこと

しおりを挟む
「――もう行かれるのですか、名残惜しいですな」

「ええ、先を急ぐ身ですので」

 エクセ=リアンは村人たちに、ぺこりと頭を下げた。
 目指す目的地は、まだ先である。
 せめて馬でいかれてはどうかと、親切に村人は馬車を進呈しようとした。
 ダーたち一行は、その申し出を丁寧に断った。
 ありがたい話だが、このような小さな村では、馬車は必需品といっていい。それを頂戴しては彼らの生活が立ち行かなくなる。そう考えてのことだった。

「なんと奥ゆかしい冒険者たちだろう」

 そう感激してくれた村人たちは、なにやら協議をはじめた。
 どうしても何か受け取ってもらいたい。そんな意思がひしひしと伝わってくる。
 やがて会議は決し、村長がなにやら、小さな樫の木箱を持ってきた。
 聞くと、それは村長の家に代々伝わる、村の宝だという。
 それも断ろうとしたが、「恩人に何もできないのは犯罪も同じだ」と力舌する彼らの前で、断るのは難しかった。
 その木箱だけは受け取ると、名残を惜しむフルカ村の住人に手を振って、ジェルポートの町へと向かった。

「ダー、村人から渡された木箱は何でした?」

「うむ、開けてみたが、なにやら青い球体だったわい」

 ダーはごそごそと背嚢から、ぴかぴか光る珠をとりだした。
 掌にすっぽり収まるサイズの、青い色をした綺麗な球体だった。

「村の宝だと言っていましたね。大切に使ってあげるべきでしょう」

「そうじゃの、細工を施して、武器にでも埋め込んでみるか」

 豪快な性格から忘れられがちだが、ドワーフであるダーは細工物は得意なのだ。

 ダーは新たに仲間になった冒険者たちから自己紹介を受けた。
 三日も村へ逗留していたので、ある程度はすでに顔なじみとなっているが、なにごともきちんとした形式は必要なのである。ちなみに三人とも種族は人間だ。

「――私は、ルカディナ・セロンと申します。ルカとおよび下さい」

 栗色の髪をした女の僧侶が、ていねいに頭を下げた。
 ふわふわした髪の毛が特徴的な、笑顔のかわいい娘だ。
 いかにも聖職者らしい、紺を基調に白のラインが入った服で統一している。
 割とタイトなデザインで、身体の線が浮き出て見える。
 回復と援護の奇跡を専門とするが、死者を蘇らせることはできないそうだ。

「それはむしろ、死者に対する冒涜ですから」

 彼女の入信しているセンテス教は、そういう教義なのだろう。
 ダーは逆に死者を冒涜する連中も知っているが、あえて何も言わなかった。
 こんなところでわざわざもめる必要もないことを、彼らより長く生きているダーは理解していた。

「オレはコニンだ――コニンと呼んでくれ!」

 やたら威勢のいい、黒髪でショートカットの弓矢使いがいった。

「当たり前じゃ、他に呼びようがあるか」

「オッサン、それはいいっこなしだぜ」

「オッサンではない、ダー・ヤーケンウッフじゃ」

 元気のかたまりのような娘だった。
 髪は短く、硬そうであまり手入れをしていないようだ。
 かわいい男の子といっても通じそうだが、着ている緑のチュニックには、ちゃんと女性らしいふくらみがある。
 フルネームはなんというのかを問うても、コニンでOKだという返事。
 なぜ自分のことをオレと呼ぶのかも聞いてみたが、
「オレはオレなんだ。だからオレでいいんだ」という、禅問答のような答えしか返ってこないので、それ以上詮索するのは諦めた。

 さて、最後は大きな女戦士の番だ。

「………クロノトール………」

 それが名前のようだった。しかし――でかい。
 ダーが小さいせいもあるが、身長は二メートルはあるのではないか。
 しかも、伝説とまで言われたビキニアーマーを装着している。
 どこからどう見ても切り傷だらけになりそうな格好だった。
 鋼のように鍛え上げられた肉体には、それを示す傷跡がいくつも残っている。

 その彼女が、突如として驚くべき行動に出た。
 いきなりダーをひょい、と担ぎ上げたのだ。
 ダーは重い背嚢や大きな斧を背負っている。信じられない膂力であった。

「おいこら姉ちゃん何の真似じゃいはなさんか」

 クロノトールは、ダーを自分の顔の前まで持ち上げた。
  二人の目が合った。

「………………………………」

 長い沈黙がおりた。

「―――なにか言え」

 さらに長い逡巡のあと、

「………………好き……………」

「はあああああああっ!!???」

 この唐突な告白に、一同そろって大声を上げた。
 まったく意味が分からない。

「大きなお嬢ちゃん、冗談は剣を頭上からまっすぐに振り下ろし」

「ダー、それは上段です」

「はぐらかしちゃ駄目だぞオッサン。それが男というものだ!!」

「オッサンではないダーじゃ!」

 誰もが混乱している。今まさにパーティーを組み、それぞれの自己紹介を終えたタイミングで告白など、前代未聞のことだろう。
  ダーはじっ、とあらためて目の前のクロノトールという大女の顔を見た。
  黒髪でボブカット。茶色の瞳は光を受けて澄みわたり、琥珀のようだ。
  目鼻立ちの整った、きれいな顔をしている。頬が朱が差したように紅いのは、恥らっているのだろうか。

 「よくわからんのじゃがの、お嬢ちゃん。エクセと勘違いしとりやせんか?」

  ダーは、ルカがときおり、熱っぽくエクセを見る視線には気づいていた。
  というか、エクセの美貌に惚れない女というのはほとんどいない、といっていい。
  しかしこのときクロノトールは、首をぶんぶんと左右に振った。これ以上ない、はっきりとした意思表示といってよかった。

 「ふうむ……ワシのどこが気に入ったのだ?」

  表情が変わらないのでよくわからないが、頬の赤みが顔全体に燃え広がっている。どやら照れているようだ。ダーとしては、顔の美醜で人間を判断する方ではないが、それでも美人に惚れられるのは悪い気がしない。
  しかし当然のごとく、ダーは腑におちない。

 ダーは、ルカがときおり、熱っぽくエクセを見る視線には気づいていた。
 というか、エクセの美貌に惚れない女というのはほとんどいない、といっていい。
 しかしこのときクロノトールは、首をぶんぶんと左右に振った。これ以上ない、はっきりとした意思表示といっていい。

「ふうむ……ワシのどこが気に入ったのだ?」

 表情が変わらないのでよくわからないが、紅い頬が顔全体に燃え広がっている。
 一応、羞恥心はあるようだ。しかし、ダーは当然ながら腑におちない。 

「これがタチのわるい冗談ではないのなら尚のことじゃ。ワシら知り合ってまだ、それほども立っておらんはずじゃが」

 彼ら人間より、はるかに長く生きているダーは、自分がモテるタイプではない事は経験でイヤというほど知っていた。というか、憎まれ口がすぎて嫌われるタイプだ。
 口は災いの元という言葉通り、つい最近も、王宮でボコボコにされたばかりである。

「……………冗談じゃないよ……好き………」

「どこが気に入ったというのじゃ?」

「……………ひとめぼれ……………?」

「う、うーむ、そんなものか?」 

 あまりに会話が進まないので、その後の会話をかいつまんで説明すると、どうもハイオークとの一騎打ちのときに見せた、武人らしき堂々たるたたずまいにキュンときたらしい。
――この人こそが運命の男だ。と感じたというのだ。
 
(オークを倒す姿にぐっときたのか。なかなか業が深い女じゃの)

 この世界で二百年以上生きてきたダーにとっても、人間の女性に惚れられるというのは初めての経験だった。
 さすがの燃えるドワーフ、ダーもふうむ、と思案顔にならざるをえない。

「……ワシが本当におぬしの運命の男なのか、それとも、命を救われたことによる錯覚でそう思いこんどるのかは分からん。ただ、ワシらは大事な目的の途中じゃ。それはわかるな?」

 クロノトールはこっくりと頷いた。
 巨体で筋肉質。さらに無口な性格も災いしてか、相手に無用な威圧感を与えてしまう。そのせいで女性と見られることは稀だというが、ちゃんと出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる
 ダーは揺れる彼女の眼を見る。戦闘に特化したタイプのようだが、精神的には脆いのだろうか。 
 そのきらめく茶色の瞳には、怯えるような、不安げな陰が宿っている。断れば泣きだしてしまいそうな、儚げな印象がのこった。ダーは決断した。

「……じゃが、まあワシを好きだというなら、好きなだけ好きになるとよい」

「よかったな!! クロノ、OKだってよ!」

 コニンの声に、クロノトールの顔がほころんだ。
 ぱっと華が咲いたような、それは実にすてきな笑顔だった。

「………………うん、うれしい……………」

「痛い痛い痛いいたい!! 力の入れすぎじゃ、殺す気か!?」

 うれしさのあまりか、クロノがぎゅうううっと、力いっぱいダーを抱きしめた。
 たちまちダーの胴がめきめきと悲鳴をあげた。装備もろともへし折られてしまいかねない、圧倒的なパワーであった。

「――や、やっぱり、前言撤回したい気分じゃわい!!」

 ダーは心の底からの叫び声をあげた。

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

処理中です...