燃えよドワーフ!(エンター・ザ・ドワーフ)

チャンスに賭けろ

文字の大きさ
83 / 146
第八章

あたま、ぽんぽん

しおりを挟む
 切迫した声に背中を押されるように。『フェニックス』一行は駆けだした。
 悲鳴が聞こえた場所はそれほど離れてはいない。それにしても悲鳴に混じって聞こえる、地を揺るがすような音は何だろう。
 木々をかきわけて彼らが目にしたのは、ユニゴンの群れに追われている、一組の男女のカップルであった。
 男女のカップルといっても若い。というか、幼いといってもいいだろう。
 彼らを追うユニゴンは、ざっと8体以上はいるであろうか。
 その光景を目の当たりにしたコニンが思わずつぶやく。

「ユニゴンって群れるのか。知らなかったよ」

「そういう事態ではないと思いますが……」 

 ユニゴンの大群は、白き奔流のごとき勢いをもって、ひたすらきゃーきゃーと金切り声を上げる男女を追いかけまわしている。
 その様を「さて、どうしたものか」と、手をつかねて観察しているダーである。迂闊に手を出せば、自分たちも一緒に追われるのが関の山である。ここは戦略を練って応対しなければならない。
 今まで一匹ずつしか姿を見せなかったユニゴンが、あんな大群を成したのも初見である。

「どうしてあんな大群に追われてるのじゃ?」

「詮索している場合ではありません。まずは助けねば」

「よし、まずは遠距離攻撃で相手の注意を逸らし、ついで魔法攻撃で足止めを行なうとするか。――コニン、頼めるか?」

「――まかされたよ」

 コニンの行動は迅速だった。話の途中ですでに弓に矢を番え、構えている。
 ひゅん、という音を置き去りにして、森の清涼な大気を矢が貫く。
 命中。先頭をつっぱしっていたユニゴンの背に、矢が突き立った。
 遠方に遠ざかる的に当てるという難しい射撃も、まるで難なく決めてみせる。 
 コニンが機械的にさらに次の矢を構えた瞬間だった。

「ゴフウウウファ!」

 攻撃を受けていると察したユニゴンの群れは、ぐるりと弧を描くように方向転換してこちらへ突進してきた。
 白刃の群れのごとき、8つの鋭い一本角がすべてこちらへむき、怒涛の勢いで突進してくるその迫力たるや。尋常なものではない。
 対処法を誤れば、たちどころに八つ裂きにされてしまうだろう。

「エクセ、頼めるか」

 顔を前に向けたまま、ダーが冷静に告げる。

「もちろんです」

 すかさずエクセ=リアンは空中魔法陣を展開する。

『大いなる天の四神が一、朱雀との盟により顕現せよ、火蜥蜴《サラマンデル》』

 朱雀の盟により召還される精霊は、朱雀の影響を色濃く受けてか、基本的に鳥の形をしているものが多い。しかし不思議なことに、このサラマンデルだけは別だ。
 うずくまったまま、紅い舌をちろちろと出し入れしている姿は完全に大型のトカゲである。しかも、鈍重そうなまるまる太ったその姿はどうだ。特に攻撃性を発揮する事もなく、地面にぼてっと伏せて横たわっている。

「これ、何ですの?」

 と、ルカも思わず聞かずにはいられない。ありえないことだが、エクセが攻撃呪文を失敗したのではと危惧したのだ。エクセは頬にかすかな笑みを浮かべ、ちらりとルカを見た。安心させるように。
 サラマンデルは動かない。
 その姿はどこかしらユーモラスに見え、それゆえかユニゴンも、まるで警戒心を抱いていない。速力を緩めることなく突進してくる。

 しかし一体のユニゴンが、その身体に触れた途端。
 サラマンデルに触れた足元から、たちのぼった炎が燃える舌のように全身をなめまわし、白き馬体を紅色に染め上げた。
 炎に包まれた数体のユニゴンは、つうんと肉の焼ける独特の臭気を漂わせながら、次第にその動きを緩慢なものにし、黒煙のなかでばたりと倒れた。

「これはなかなかの衝撃映像じゃわい」

「見かけは呑気な召喚獣ですが、この火トカゲの内包する温度は1000度を超えています」

「なるほど、擬態というやつじゃな」

「ぜんぜんそうではありませんが……」

 そんな会話をかわしている間に、このトカゲの剣呑さに気付いた後方のユニゴンは、軽々とその身を飛越してくる。
 しかし、それは迎撃にはおあつらえむきの状況だった。
 着地し、速度の緩まったユニゴンなど半分の脅威もない。

「ここで、わしらの出番よ!!」

 飛越し、着地したユニゴンの顎下に、黒い剣先が貫通した。
 クロノは勢いを利し、バスタードソードをユニゴンの喉元に埋めこんだまま、弧を描くように大地に叩きつける。
 次に着地した一体は、咆哮とともにクロノの背中へと突進する。
 そうはいかんと、横から小型の竜巻が迎撃した。ダーの地摺り旋風斧だ。
 脚を失った無残な姿のユニゴンが、大地を橇《そり》のように滑っていく。

 残ったユニゴンは、コニンの弓に射られ、あるいはクロノとダーの刃先にかかって命を落とした。
 襲われていたふたりの男女は、すでにルカが保護している。

「もう大丈夫ですからね」

 と、安心させるように穏やかな口調で言いながら、ルカはふたりの擦過傷を治療している。
 治療を受けつつ、ふたりは呆然としている。
 冒険者の闘いを間近で見る機会がなかったのか。はたまたその光景に何らかの感銘を受けていたのか。またたくまにユニゴンの群れが死体に変わっていく様子を、肩で息を切らしながら、ただ呆然と眺めていた。

「さて、あらかた片付いたかのう」

「へっへーん、オレ大活躍の巻だね」

「ああ、よくやったわい」

 ダーがぽんぽんとコニンの肩を叩いてねぎらう。
 コニンはちょっと頬を紅く染めて、照れくさそうに笑みを浮かべる。

「……むー……」

 その様子を眺めていたクロノが、がっしとダーを羽交い絞めの体勢に捕らえる。

「なんじゃ。すごい殺気を感じるが、ワシは死ぬのか?」

「……私もがんばった……」

「ああ、お前さんもよくやったからこれを解除するんじゃ」

「……あたま、ぽんぽん……」

「わかったわかった、やるからこれを解除するんじゃ」

 クロノはようやく、がっちり決まったダーの両手を開放した。
 まるで勲章を授かる騎士よろしく、うやうやしく片膝をつく。
 あたま、ぽんぽん。
 クロノは嬉しそうに微笑んだ。

「あ、あのう……」

 おずおずと、それを黙って見守っていた二人が声をかけてきた。

「おお、おぬしら無事だったか。災難じゃったのう」

「あの……それは何かの儀式なのでしょうか?」

「……まあ、そのようなものじゃ」

 とりあえず、そういうことにしておこう。
 クロノは満足げに笑みを浮かべていることだし。とダーは思った。
 ダーはあらためて、追われていた男女に眼をむけて尋ねる。

「――それで、おぬしらは何ゆえ追われておったのじゃ?」

「よ、よくわかりません……」

 ものの見事に視線を逸らせながら、男のほう――よく見ると、まだ少年だ――が応えた。心のなかにあるやましさを、上手に隠す事ができない年齢のようだ。

「助けてもらってありがとう。ではこれで――」

「ちょっと待ちなさい」

 女性――というか女の子が、そそくさと退散しようとした男の子の首根っこを、がっちり掴んで離さない。

「お世話になった人に、その対応は失礼でしょ。お父様が恥をかくわ」

「お父様のことなんて、言わなきゃこの方たちは知らないよ。それより早く戻らないと、それこそ大目玉だよ――いてっ」

 ごいんと頭をどつかれて、少年はその場にうずくまった。
 ふん、と鼻息荒くした少女は、周囲の目に気付き、あわててとりつくろうような笑みを浮かべた。スカートの端をつまみあげ、ぺこりと頭を下げる。緑を基調にした服とスカートは、一見簡素に見えつつも、袖口と首もとに細やかな金の刺繍が施されており、かなり身なりがいい。

「失礼をお詫びいたします、冒険者さま。私はノルニル、こちらはアッシバと申します。危ないところをありがとうございました」
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

処理中です...