燃えよドワーフ!(エンター・ザ・ドワーフ)

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第八章

狩りの時間

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 ダーとエクセは深刻な顔を見合わせた。
 領主の奥方が危機的状況にあるのはわかった。ユニコーンの一本角が必要な理由は、その角を溶かすかどうにかすれば、薬となるのであろう。
 しかし、ダーたちは追われる身とはいえ、天地身命に誓って悪事に手を染めたことはない。玄武の珠ほしさに禁忌を犯してしまうのは、さて正しいことなのかどうか。
 
「やれやれ、綺麗な薔薇には棘があるといいますが、ヴィアンカ様も同様のようですね」

 ソルンダは微苦笑というべき表情を浮かべて深緑の魔女を見やる。すると、ヴィアンカは急にくすくす笑い出し、魅力的なウィンクをひとつ。

「本当のことを言うと、ユニコーンなんてこの森にいないわ。希少すぎてね。代わりに獲ってきて欲しいのは、ユニゴンという生物の角なの」

「何じゃい、そのユニゴンというのは」

「見た目は確かに白馬に一本角だけど……ユニコーンより格好悪いのよね。角はトゲトゲで気持ち悪いし……あと、平気で人間を襲うわ。ちゃんと害獣認定されてるから、獲っても苦情は出ないわよ」 

「ふうむ、なんというバッタモン臭い生物なのじゃ」

「いいから、それの角を7本ほど収穫してきて頂戴。なら自分でやれとか言わないでね、わたしは魔女ですから単身で狩りなんてできないわ」

「もちろん、ギブアンドテイクというなら、それに従いましょう。しかし、ちゃんと約束は果たしてもらえるんでしょうね?」

「当然よ。魔女に二言はないわ」

 ヴィアンカはもいちどウィンクした。

「仕方ない。言質をとったからには、行かずばならぬか。しかし、ソルンダはそれでよいのか?」

「――なにがでしょう?」

「ワシらは料金所の一件で、取調べか何かを受ける必要があるのではないか?」

「いえ、今回はなにしろ事情が事情ですからね。ナハンデルの兵のひとりとして、奥方様の具合が快方に向かえば、これに越したことはありません。そのあたりの事情は、私から隊長に説明しておきます」

「がんばって頂戴。角だけしか要らないから、後はポイしちゃってね」

「……ナハンデルに到着した当日に狩りか。なかなかドワーフ使いの荒いおなごじゃのう」

 ダーは芝居がかった大袈裟な仕草で、みずからの肩をトントンと叩いた。長い馬車旅で疲れているのは事実である。
 むろん、そんなことはヴィアンカには関係ない。
 深緑の魔女は冷酷に、人差し指を扉に向けるだけだった。


―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―

 
 ダーたちが、約束していた町の中心の巨大な大木へと向かうと、すでに別働隊3人組は役目を終えて待機していた。やはり長旅がこたえたらしく、3人は並んだ椅子代わりの切り株に腰をおろし、こっくりこっくりと船をこいでいる。
 ダーとエクセは顔を見合わせた。

「これじゃ狩りは難しいのではないか? 明日にした方がよいわい」

「しかし、こちらはお願いした身。相手の要求を叶えるのが最優先かと思いますよ」

 ふうむ、とダーが顎鬚を撫で、思案しているとき―― 
 一瞬の隙が生まれた。
「あたたたたたたた」という苦痛の悲鳴がダーの口から漏れた。
 クロノトールが得意のベアハッグの体勢に、ダーを捕らえている。

「……さみしかった……」

「そ、そこまで長い間離れていたわけじゃなかろう。痛いから離さんか!」

 ダーの大きな悲鳴で、他のふたりも目を覚ました。
 どこかで見たような光景を見て、むにゃむにゃとコニンがつぶやく。

「うーん、なにこれ、デジャブ?」



 さて、ようようベアハッグから解放されたダーから、深緑の魔女からのクエストの説明を受けた3人は、それならば仕方ないと、あっさりユニゴン狩りを了承してくれた。
 疲れていても、優先すべきことはわかっている。
 ならばやるしかありません。それだけのこと。彼女らの意思は簡潔だった。
 
「これはワシが悪かった。みんなを甘く見ていたようじゃの」

「そうそう。フェニックスは一蓮托生」
 
 一行は途中の店で武器と食料を買い込むと、指示を受けた森へと向かった。


 町を隔てる市壁を越えても、さほどの違いはないのではないかと一行は思った。
 魔女の指定した森は、町からそれほどの距離もない。
 というか、ほぼ街道沿いから外れれば、あたり一帯は森といってもいい。
 緑の天蓋から木漏れ日が差している。うららかな光の線が、彼らの行く先を点々と照らし出している。
 
「町との差は何かと問われれば、ただ緑の量が違うだけのようにも見えるのう」

「そろそろ出るはずですから、気を引き締めていきましょう」

「狩りといえば、オレの出番だよね。ああ、気が逸る」

 待ち遠しいといわんばかりに、コニンはうきうきと銀の弓をとりだした。

「まだ敵影も見えておらぬのに、気が早すぎるのではないか」

 というダーの言葉も何のその。コニンはひたすら入念に弦の張り具合や、押付、手下、グリップ等をしつようなほどに微調整している。
 
「そんなに焦らなくとも、目的地はもう……」

「……来た……!」

 木陰から唐突に、白き砲弾さながらにこちらへ突進してくるものがいる。
 あっという間の出来事で、いきなり隊列に切り込まれてしまった。
 静かな森に、烈しい衝撃音がこだまする。
 驚いた鳥が、ばさばさと羽音をひびかせて木々から飛び立つ。
 クロノトールがすかさずタートルシールドで受け、流してくれなかったら、ユニゴンの一本角で死傷者が出ていたかもしれない。
 不意を衝かれたとはいえ、それほどまでの突進力だった。
 白馬に似た生物は、突進の勢いのまま直進し、ぐるりと方向転換してこちらを見た。
 まともに眼が合ったダーは、
 
「こやつがユニゴンか」とつぶやいた。

「えー、これが?」

 確かにユニゴンは、一見して小型のユニコーンに見えないこともない。
 しかし体つきがずんぐりむっくりで、あまりに本家とは似つかない。
 白馬の聖獣というより、白いロバに角が生えているといった方が近い。
 しかも歯をむき出しにしてブルルルと威嚇する姿は、かなり獰猛そうであり、知性はあまり感じられない。血走った眼をこちらへ向け、一本角を剣のようにふりまわして牽制している。
 その角も、すらりと一直線に伸びたユニコーンの角とは比較にならないほどに奇怪だった。角に不気味なぶつぶつが生えていて、微妙にねじくれている。

「き、きもい……」

 コニンは弓を射掛けるのも忘れ、素でドン引きしている。
 好機とみたか、ユニゴンは再突進を仕掛けてきた。
 ダーは低い身体をさらに低くして、敵の突撃を待ち構えた。

「ほりゃっ!!」

 ダーは掛け声とともに、身を沈めて直撃を避けた。
 虚空を突いた一本角めがけ、低い姿勢から腕を巻きつける。

「……ここっ……!!」

 すかさずクロノが黒いバスタードソードを振るった。
 首筋に重い斬撃をもらい、断末魔の悲鳴をあげて、ユニゴンは動かなくなった。

「やれやれ、まずは一匹じゃのう」

 ダーは掴んでいた角ごと、ごろりとユニゴンの死体を大地に転がし、ふうっと天を仰いだ。傍らではクロノは懐からナイフをとりだし、角を切断しようとしていた。
 ガキンと硬質の音がした。何度かナイフをふりおろすが、やがて苦い表情でダーを見た。

「……刃が欠けた……」

「相当硬いようじゃのう。ワシがやろう」

 クロノに角の先端を掴んでもらい、すこし浮かせた状態で、ダーは気合とともに戦斧を降りおろした。火花とともに、角が根元から宙に舞った。
 
「これをあと6回か。なかなか大変じゃのう」

「ああもう、次はオレがしとめるからね」

 コニンは役に立てなかったことに悔しげだ。

「ああ、頼りにしとるぞ。これは想像よりかなり獰猛じゃ。矢で射殺した方が、安全に始末できる」

「まっかせて!」

 コニンはどんっと胸を叩いた。
 しかし、なかなか次のユニゴンは現れない。
 今の戦闘で、警戒されたかと一行が不安に思いだしたときだった。
 かさっと葉音がしたと思った瞬間――

「――出た!」

 とコニンが叫ぶ。
 ダーがどこじゃと問う前に、コニンは構えから矢をリリースしていた。
 眼窩から入った矢は、確実にユニゴンの脳を破壊した。
 突進してきた勢いのまま、地をすべるようにユニゴンの死体が転がってきた。
 依頼された角、残りは5本。
 
「いいペースじゃな」

 ダーがコニンと拳をぶつけ合っているとき、
 
「助けて――ッ!!」

 静かな森に絹を裂くような悲鳴が響いた。
 女性のものだ。一同はおどろき、顔を見合わせた。

「一刻を争う事態のようですね」

「とりあえず、悲鳴の方向へ向かうか!」
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