ある図書館の少年。

青太郎

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第1章

2話

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「突然、知らない人物が自分の病室に入ってきて、図書館に招待すると言われ、本当に意味不明だと思います」
「……」
私は、その通りだ、と言うように無言で頷いて見せた。
彼、月宮翔という人物そのものが、今の私には意味不明そのものであった。

「さらに現在、不思議な出来事が起きています」
「それは何でしょうか?」

「窓の外をご覧ください」
言われるがままに私は窓の外を見る。
青い空、桜紅葉、広い駐車場、色んな色の車、窓はいつも通り私に色のついた景色を見せてくれている。
色がある景色、というものは何よりも愛おしい景色だ。

モノクロで無機質な世界と、鮮彩せんさいな世界とでは同じはずのものも違って見えてくる。
カラー写真とモノクロ写真が代表的な例だろう。
味気がなくなってしまった私の世界に、色のある景色というのも消えつつあった。
全てのものが、つまらなくどうでも良いものになりつつあった。
そんな中、窓の外はいつだって私に色のある景色を見せてくれた。

しかし、その景色の中に、不可解なものが混ざっていた。
いつも見ている景色とは明らかに違っている、いや、あってはならないことを窓が私に見せている。

「……葉が」

葉が、空中で静止しているのだ。
本来それは地面に、緩く回転しながら、落ちていくはずだったのだろう。

だが私が見た葉は、回転もしておらず、地面に向かって落ちていってもいない。
空中に静止しているのだ。
それは一枚だけではない。
この秋の季節、ほとんどの葉は紅葉し、地へ落ちてゆく。
たくさんの地面に落ちる予定だった葉達が、空中で静止していた。
そして私はさらに視野を広げる。

空、雲は風が止んでいるのか動いていない。
それは納得がいくが、空を飛んでいる鳥まで動いていないのはどういうことなのだろう。
鳥も葉と同様に、静止していた。
太陽に照らされ、輝くその翼をはためかせることなく、美しい彫刻のように、その場にあった。
生きているのだろうか、死んでいるのだろうか、あの鳥は。

駐車場の車は全て、動くことなく駐車されている。
しかし所々の車が指定の場所に駐車されておらず、駐車場の車は散乱していた。
いずれも、動いていない。

病室を見てみる。
時計の針は時を刻むことをやめていた。
私の体内に流し込まれている点滴の輸液も、一連の状況から察するにおそらく今は止まっているだろう。
「全部止まってる」

「その通りです。現在、僕と貴方以外のもの全ての、時間が止まっています」

写真だった。
一瞬の時が、私の目の前に今、永遠に映し出されていた。
一瞬の時間が永遠に映し出されるという矛盾した感覚に私は、一人で酔いにも似たようなクラクラとした感覚に囚われていた。
時間が止まり、歪んだ世界に私は彼と二人きりになっていた。
「月宮さんが時間を止めたのですか?」
冗談半分でそんなことを歳下であろう彼に聞いた。
大人なのに、高校生の子供相手に何をしているのだろう。
客観的に自分を見て少し笑ってしまった。

でも言い訳をしたい。
私は夢でも見ている、頭では、心の底ではわかっている。でも私は現実に疲れていた。
一瞬が永遠になるのなら現実から逃げて、夢ならいっそ楽しみたい。

そう思った。

「いいえ、あなたがそう望んだのです。望んだから、今こうなっているんです」

「それはすごいですね」

お互い静かに笑った。

「あなたは何者なのですか。私の、夢?現実離れしすぎている」
「僕は、さあどうでしょうね。大野さんが思うように解釈してください」
「夢、ということで。このままずっと時間が止まっていてほしいです」
素敵な夢だと思った。
現実に疲れていた私が見た、時間が止まるという夢。
私には贅沢な幸夢だった。

「あなたが望めばずっと止まったままですよ。永遠に」

そう言って彼は椅子から立ち上がった。
「善は急げと言います。早速あなたには僕の図書館へ来ていただきましょう」
「普通の図書館と、あなたの図書館は違うのですか」
「はい。僕の図書館には」
彼はそういって、私に何やら手渡してきた。
招待状だろう、そう期待している自分がいる。
名刺サイズの厚紙だ。
そこには【記憶図書館 大野遥香 様】と大きく丁寧な字で書かれていた。
彼の字だろうか。
小学校の先生が書いたような字だった。
「あなたのすべてがあります」
丁寧な字に見惚れ、次私が顔を上げるとそこは、無機質で狭い病室ではなかった。

図書館だった。
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