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オレの名は――

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 大丈夫みたいだ。
 オレは、そっと扉を開き廊下の様子を伺う。

 『それじゃ行きましょう』
 『大丈夫よ。私がついているわ。どこからみても立派なミックスよ』

 オレは、静かに頷いた。
 猫耳がついたフード深めに被り、シフォンの黒い外套に身を包みながら宿を後にする。
 なんとか二人にバレずに宿を出れた。

 「ふう」

 フードは被らない方がいいかも。
 動物の耳がついたフードなど、この世界にはないだろうから目立つ。可愛いんだけどなぁ。って、オレが身に着けても可愛くないか。

 「あ、あれだ」

 暫く歩くと冒険者ギルドを発見した。
 この世界は、全国共通文字らしい。そうじゃないと冒険者達は大変だよな。
 あぁ、緊張する。まるで受験を受けに行く気分だ。テストはないと聞いたけど。

 建物の中に入ると、街の中より色んな種族がいた。というか、受付の人も普通にキツネ族の者じゃない。
 でもいいなぁ。ケモ耳の人って。獣人ならオレはこっちミックスが好みだ。

 『なんかエロい事考えてる?』
 「ふえ? いいや。そんな事は考えてないよ」

 ごほんと咳ばらいをして、受け付けに向かう。
 受付の子は、ちょっと縦長の耳だ。何の動物だろう。猫や犬ではなさそうだけど。

 「あ……」

 手を見て判断しようとして、驚いた。人の手だ。いたんだ、人の手を持つミックス!

 『睨まれてるわよ』

 シフォンに言われ、ハッとして受付嬢の顔を見ると一瞬でニッコリと笑顔になった。
 オレ、睨まれるような事したっけ?

 『彼女は、馬族じゃないかしら? 珍しく手はエルフの手だから受付嬢をしているのでしょう』

 クロラの言葉になるほどと頷く。
 もしかして、手に反応したから睨まれたのかも。気を付けなくちゃ。

 「で、どういったご用件でしょうか? 仕事を受けるのならまずあちらで……」
 「あ。いえ。冒険者になりたくて」

 掲示板がいっぱいあるオレから見て左側を指さした受付嬢は、こう言った。

 「銅貨100枚頂きます」
 「え! 登録料いるの?」
 「……はい。いります」

 つーんと冷たいんだけど。
 それにしても困った。お金を持っていない。まだ分け合ってなかったんだ。何せレックスさんは、オレの事を子供扱いしているから、ここについたらわけ合うって言っていたから。
 小説などでは、お金がかかる事もあるけどそんな事言っていなかったと思う。
 子供だから言われていなかっただけ!?
 これを支払った後に、分けるつもりだったのか。
 オレは、ここで仕事を受けて稼げば何とかなると思っていたけど、甘かった。

 「仕方がありません。仮発行します。と言っても、証明書は発行されませんが。あちらから出来る仕事をここに持ってきてください。完了すれば、普通に報酬をお支払いいたします。ただし仮ですので、私以外には受け付けは、おこなえませんのでお気をつけください。私は、夜はおりませんので」
 「はい! ありがとうございます」
 「では、お名前をお伺いしても宜しいですか?」
 「な、名前……」

 しまったぁ。考えておこうと思って忘れていた。
 ミツと読めるのでミツにしようかと思ったけど、オレのイメージでは女の子なんだ。だから違う名前にしようと思っていた。

 「どういたしました?」
 「……ミーツ」

 オレは、そう小さな声で言うと、彼女は耳をぴくぴくとさせる。

 「ミーツさんで間違いないですか?」
 「はい」
 「では、お仕事頑張って下さい」

 ふう。名前、ミーツになっちゃった。まあミツより、男っぽいよね?
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