居候と婚約者が手を組んでいた！

第22話

　ふう。疲れたわ。
　初日から変な騒動に巻き込まれてしまった。

　「お帰りなさい。レネット嬢」
　「ただいま……って、えぇ！　ガストン様？　今日はどうしたのですか？」

　まだ薬師は決まっていないので、仕事は再開していない。なので、彼が来るとは思っていなかった。
　ルトルン伯爵に、様子でも見て来いと言われたのだろうか。
　真面目になりましたアピールかな？

　「今日からお世話になります」
　「はい。うん？　お世話とは？」
　「今日からここに住むんです」
　「えぇ！！」

　聞いていないのだけど。

　「が、学校はどうなさいますの？　通うの大変ではないですか？」
　「問題ありません。こちらの領地にある学校に変更しましたから」

　どういう事？　意味がわからないわ。

　「あらおかえり、レネット」
　「エルダ夫人！　聞いておりません！　ガストン様が今日から住むなど」
　「あら言い忘れていたかしら？」

　白々しいのだけど。
　うん？　見ない使用人がいるわね。
　ってあれ？　使用人が増えている？

　「あのエルダ夫人。使用人を勝手に増やしました？」
　「いいえ。変更しただけよ」
　「変更？」
　「今までいた方には辞めて頂いたの」
　「何ですって！　どうしてそんな勝手な事を！」
　「大丈夫よ。彼らには、ルトルン伯爵からたんまりと退職金を渡したから」
　「え？　ルトルン伯爵ですって……」

　どういう事なのよ。

　「彼女達は、ルトルン伯爵が雇ってくれたの」
　「わざわざなぜそんな事を？」

　増やすならわかるけど、総入れ替えなんて！
　そもそもなぜ、そんな勝手にできるのよ。
　この領地では、使用人を不当に解雇できないように、色々書類を届けないといけないのよ。
　受理されるわけがないわ。

　「あのね、レネット。あなたが提出した誓約書のおかげよ。私は、グリンマトル家として使用人の人事権を持つ事ができたのよ」

　なんですって。
　そうか。はじめからこれを狙って、あの変な誓約書にしたのね。
　エルダ夫人は、元々グリンマトル伯爵令嬢だったのだし、私の両親がいない事から学園を卒業するまで、仕事に関する事以外なら権限をもてるってわけね。
　で、総入れ替えをしてどうする気なのよ。
　というか、何の為に入れ替えたのよ！

　「あなたが、使用人に払う給料が足りなくなるような事を言うから、ルトルン伯爵が気を利かせてくれたのよ」
　「どういう意味？」
　「使用人の給料は、ルトルン伯爵が持ってくれる」
　「え……」

　何それ。意味がわからない。
　そこまでしてルトルン伯爵に何の得があるの？　乗っ取るつもりがなければやり過ぎよ。

　「それより、あなたに大事な話があるの。ちょっと来てちょうだい」

　これよりも大事な話って何よ。
　とりあえずついて行けば、アンナの部屋だった。
　アンナは、ニヤニヤしている。
　一体何なの？

　「私、聞いちゃった。レネットたら婚約を解消したいと言っていたのは、彼の事が好きだったからなのね。こっそりと逢瀬をしていたなんて驚きだわ」
　「え……」

　あのやり取りを聞いていたの？

　「あれは誤解なのよ」
　「大丈夫よ。ガストン様には内緒にしておくから」
　「もちろん、ルトルン伯爵にもね」
　「待って。本当に誤解なのよ。抱き合っていたって言うのも、お父様達が事故に遭った現場で、フランシスク様に泣きついただけで」
　「あら？　彼、そんなところにいたの？」

　エルダ夫人が、驚いた顔をする。

　「凄いわね。レネットの窮地に駆け付けたんだ」
　「え……」

　どうしてそうなるのよ！

　「この事がルトルン伯爵に知れれば、どうなるかしらね」
　「どうって」
　「浮気をしていたのはどっちだとなるでしょう。そもそもマスティラン侯爵令息まで葬儀に来ているなんて変だと思っていたのよ。そういう仲なら納得だわ。まさかとは思うけど、お兄様はこの事を知って、ガストン様を嵌めようとしたのではないでしょうね」
　「そんなわけないでしょう！！　お父様を愚弄しないで！」

　つい頭にきて、そう怒鳴ってアンナの部屋を出た。
　自分の部屋に入り、ドアを背に泣き崩れる。
　どうして、そんな酷い事を言えるのよ。あなたの兄でもあるのに！