居候と婚約者が手を組んでいた！

第24話

　「レネット様、ディナーの用意ができました」

　ノックと共にそうドアの外から声がかかった。
　いつの間にか結構な時間が経っていたのね。

　「ありがとう。着替えたら行くわ」

　薬師の学校に通っていた事もあり、家に戻ってからも専属侍女を付けず、出来る事は自分でしていた。
　着替えもそう。だから一人で着れる部屋着。

　そういえば、私のせいでアンナも簡素な部屋着になったって、嘆いていたわね。
　お母様が、私よりアンナが立派なドレスを着ているなんておかしいとお父様に抗議したからだけど。
　自身で買っていたならまだしも、そのお金はグリンマトル家からの出費だものね。

　「ガストン様が婚約者の為にこちらの屋敷に来たと言うのに、浮気していたらしいわ。アンナお嬢様が、ガストン様がお可哀そうと話していたのを聞いたのよ」
　「ガストン様が、心を入れ替えたと思ったら。やっぱりガストン様って見る目ないのね」

　なんですとー！
　部屋を出ると、使用人達がコソコソと私を見て噂話をしているのが聞こえた。
　ガストン様に言わなくても、使用人が知ってしまったら彼の耳にも届くでしょうに。
　それに、全員かわからないけど、少なくとも今噂話をしていた使用人は、ルトルン伯爵家から来た使用人のようね。

　それにしても言いたい放題ね。
　これで解雇などしたら、誤解が真実になっちゃうわね。
　私は薬師として一人で生活していけるから、もうこの際一生独身でもいいけど、少なくとも、フランシスク様の方が片付いてからでないと、まずいわよね。

　ダイニングに行くと、もうすでに皆座っていた。ただ、席順がおかしい。
　奥の席にガストン様とアンナが並んで座っていて、二人の向かい側、つまり手前側にウルミーシュ子爵、エルダ夫人と並んで座っており、その横の席が空いている。

　普通、その開いている席にアンナが座るのではなくて？
　いや、別にいいのだけど。
　四人は私を待たずに食べ始めていた。
　ため息しか出ない。
　一応、ここの主人は私だと思うのだけど？

　席に座ると、前菜にスープが置かれた。
　スープを一口口にして、驚く。冷めている。
　今、持ってきたのよね？　置いてあったならわかるけど……。
　嫌がらせのつもりなのでしょうけど、まあ、いいわ。
　これで解雇の名分が立つもの。繰り返されればだけど。

　次に、パンとメインの肉料理が置かれた。
　肉料理は普通だったのだけど、パンがカチカチだ。
　この世界で初めてこんなカチカチのパンに触れたわ。

　一日経ったパンは、かたくなる。でもここまでにはならない。
　更に一日経ったものかもしれないわ。
　我がグリンマトル家では、無駄にならないように必要な分だけ作る。余ったとしても次の日に温め直したものを使用人が食べていい事になっている。
　だから、それより古いパンはないはずなのに！

　「あら、食べないの？」
　「えぇ。かたくて食べられないもの」

　まさかと思うけど、エルダ夫人の仕業ではないわよね。そう思って、そう言ってみた。

　「あら嫌だ。温めれば食べられるでしょう。食べないのならいただくわ」

　そう言って、驚く事にパンが乗った皿を持って行った。
　そして、パンに触れると皿を持って振り返る。

　「そこのあなた。これはかたくて無理だわ。新しいのを持って来てちょうだい」
　「あ、はい。ただいま」

　皿を受け取り、慌てて使用人は下げた。そして柔らかいパンをエルダ夫人の前に置く。
　エルダ夫人は、それを千切って食べ始めた。
　まあそうよね。彼女が、私を気遣うはずないわ。

　こんなやり取りをしているのにもかかわらず、目の前に座る二人は、楽しく談話している。
　お願いだからアンナには、手を出さないでね！
　でもまあ、そうなったらそうそうに、この四人に出て行ってもらうけどね。