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諦め令嬢の誕生 1
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――優しい母親ティーゼは、ランゼーヌが五歳の時に亡くなった。
悲しくてランゼーヌは、母親より濃い色のディープグリーンの瞳を濡らす日々を過ごす。
『泣くなよ。俺っちが虹をかけてやるから』
精霊は、それこそランゼーヌの母親譲りの暁色の髪をまるで撫でているかのように、髪に引っ付いている。
ぐすん。
ランゼーヌを元気つけようと、小さな蝶の様な形の精霊が言うも、彼女は首を横に振った。
前に見たいと言ってやってもらった時に、部屋がびしょ濡れになりティーゼに叱られたのだ。
それを思い出し、ランゼーヌは少し微笑む。
「大丈夫。元気出たから」
『うーん。だったら……』
精霊は、どうしても何かしたい様子だ。
精霊がランゼーヌに触れると、精霊は犬の姿に変わった!
もちろん大きさは同じまま。全身白い毛で覆われ顔がその中にある感じ。クリっとした可愛い瞳は、虹色。
手のひらサイズの精霊は、ランゼーヌの手の平に降りた。
『どうだ。好きだろう。こういう見た目』
「うん。かわいい」
ランゼーヌが微笑むと、精霊はパーッと輝く。
『俺っちは特別だ。だから他のモノと区別が付くように、呼び名が欲しい』
「ワンちゃんのお名前?」
『もう付けてくれたか。では今日から俺っちはワンだ』
「うん」
その日から犬の姿の精霊――ワンちゃんが、小さな犬の姿で周りを飛び交うようになり、ランゼーヌは泣かなくなった。
◇
とんとんとん。
「失礼します」
「あ、リラ」
彼女は、ティーゼが亡くなる少し前からランゼーヌの専属の侍女として仕えている。
ちなみにリラには精霊は見えていない。いや、ランゼーヌ以外には姿は見えず声も聞こえない。
そして彼女がこうして精霊を見てお話している事を知っているは、彼女の母親のティーゼだけ。
知っているティーゼにも、精霊は見えなかった。
それなのにティーゼは、ランゼーヌの言う事を信じ誰にも言ってはいけないと口止めした。リラや父親のモンドにもこの事は内緒にしている為、知らないのだ。
「旦那様がお呼びです」
「うん……」
呼ばれたランゼーヌは、リラと一緒にモンドの書斎へと向かう。
「失礼します。お嬢様をお連れしました」
「入りなさい」
おずおずと入ると、にこりともしないモンドが立っていた。
そしてその隣には、見た事がない女の人とランゼーヌと同じぐらいの歳の男の子が立っている。
女性は、胸まであるストレートの茶色い髪に瞳で、大きく胸元が開いたドレスを着ていて、ランゼーヌは驚く。ランゼーヌの母親であるティーゼが、そういう胸元を強調したドレスを着ていたのを見た事がなかったからだ。
「ランゼーヌ、紹介しよう。彼女は、アーブリー。そしてこの子は、息子のアルド。二人は今日から一緒に暮らす家族だ」
「家族?」
ランゼーヌは、モンドの言っている意味がわからず、首を傾げた。
「お前も寂しくて泣いて暮らしていただろう。新しい母親と兄だ」
「え……」
『何言ってんだ、こいつ。ランゼを放って置いて』
(新しいお義母さま?)
ランゼーヌは、ショックを受ける。
寂しいだろうと言いながらも甘えさせてもくれなかったモンドが、見ず知らずの人を母親にしたのだ。しかも彼女には笑いかけている。
(ワンちゃんは、怒っているみたいね。ありがとう)
ランゼーヌは、怒りより悲しみでいっぱいだ。
「はじめまして。モンドの妻になるアーブリーよ。息子はあなたより一つ上、7歳よ」
「アルドだ」
「………」
ランゼーヌがあまりの事にまだ、何も言えずにいるとモンドが一言こう言った。
「アルドは、ランゼーヌの本当の兄だ。兄妹仲良くな」
「え!」
驚きの声を上げたのは、ランゼーヌではなく侍女のリラ。彼女は、モンドの言った意味がわかったのだが、まだ六歳のランゼーヌには本当の兄という意味がどういう事を示すのか、わからなかったのだ。
母親のティーゼと結婚するより前から、アーブリーと関係があったという事実を。
アルドは、赤い瞳にワインレッドの髪で、モンドが親子だという様に容姿は似ていた。
モンドは、髪も瞳も赤い。
その後、二人で部屋へ戻るとリラがポツリと言った。
「部屋を改装していると思ったらそういう事だったのね」
数か月前から業者の人が来て、部屋を改装していたのだ。それは二人を迎え入れる為だった。
「何があってもランゼーヌお嬢様の事は、私がお守りしますからね」
「……うん」
『俺っちも、もちろん味方だ』
「ありがとう」
ランゼーヌは、二人に笑顔でお礼を言う。
「あぁ、お嬢様」
ぎゅっとランゼーヌをリラが抱きしめてくれた。いつもこうやって、母親の代わりに抱きしめてくれている。
ランゼーヌは、抱きしめられると安心する事が出来た。私は一人ではないと。
この衝撃の日は、ティーゼが亡くなって一年経ったぐらいの時の事。
モンドは、ティーゼが亡くなって一人で仕事をこなす中、アーブリー達を呼び寄せる準備を着々と進めていたようだ。
週の半分は、家にいられないぐらい忙しいと言うのに。いやもしかしたら彼女の所へ行っていたのかもしれない。
悲しくてランゼーヌは、母親より濃い色のディープグリーンの瞳を濡らす日々を過ごす。
『泣くなよ。俺っちが虹をかけてやるから』
精霊は、それこそランゼーヌの母親譲りの暁色の髪をまるで撫でているかのように、髪に引っ付いている。
ぐすん。
ランゼーヌを元気つけようと、小さな蝶の様な形の精霊が言うも、彼女は首を横に振った。
前に見たいと言ってやってもらった時に、部屋がびしょ濡れになりティーゼに叱られたのだ。
それを思い出し、ランゼーヌは少し微笑む。
「大丈夫。元気出たから」
『うーん。だったら……』
精霊は、どうしても何かしたい様子だ。
精霊がランゼーヌに触れると、精霊は犬の姿に変わった!
もちろん大きさは同じまま。全身白い毛で覆われ顔がその中にある感じ。クリっとした可愛い瞳は、虹色。
手のひらサイズの精霊は、ランゼーヌの手の平に降りた。
『どうだ。好きだろう。こういう見た目』
「うん。かわいい」
ランゼーヌが微笑むと、精霊はパーッと輝く。
『俺っちは特別だ。だから他のモノと区別が付くように、呼び名が欲しい』
「ワンちゃんのお名前?」
『もう付けてくれたか。では今日から俺っちはワンだ』
「うん」
その日から犬の姿の精霊――ワンちゃんが、小さな犬の姿で周りを飛び交うようになり、ランゼーヌは泣かなくなった。
◇
とんとんとん。
「失礼します」
「あ、リラ」
彼女は、ティーゼが亡くなる少し前からランゼーヌの専属の侍女として仕えている。
ちなみにリラには精霊は見えていない。いや、ランゼーヌ以外には姿は見えず声も聞こえない。
そして彼女がこうして精霊を見てお話している事を知っているは、彼女の母親のティーゼだけ。
知っているティーゼにも、精霊は見えなかった。
それなのにティーゼは、ランゼーヌの言う事を信じ誰にも言ってはいけないと口止めした。リラや父親のモンドにもこの事は内緒にしている為、知らないのだ。
「旦那様がお呼びです」
「うん……」
呼ばれたランゼーヌは、リラと一緒にモンドの書斎へと向かう。
「失礼します。お嬢様をお連れしました」
「入りなさい」
おずおずと入ると、にこりともしないモンドが立っていた。
そしてその隣には、見た事がない女の人とランゼーヌと同じぐらいの歳の男の子が立っている。
女性は、胸まであるストレートの茶色い髪に瞳で、大きく胸元が開いたドレスを着ていて、ランゼーヌは驚く。ランゼーヌの母親であるティーゼが、そういう胸元を強調したドレスを着ていたのを見た事がなかったからだ。
「ランゼーヌ、紹介しよう。彼女は、アーブリー。そしてこの子は、息子のアルド。二人は今日から一緒に暮らす家族だ」
「家族?」
ランゼーヌは、モンドの言っている意味がわからず、首を傾げた。
「お前も寂しくて泣いて暮らしていただろう。新しい母親と兄だ」
「え……」
『何言ってんだ、こいつ。ランゼを放って置いて』
(新しいお義母さま?)
ランゼーヌは、ショックを受ける。
寂しいだろうと言いながらも甘えさせてもくれなかったモンドが、見ず知らずの人を母親にしたのだ。しかも彼女には笑いかけている。
(ワンちゃんは、怒っているみたいね。ありがとう)
ランゼーヌは、怒りより悲しみでいっぱいだ。
「はじめまして。モンドの妻になるアーブリーよ。息子はあなたより一つ上、7歳よ」
「アルドだ」
「………」
ランゼーヌがあまりの事にまだ、何も言えずにいるとモンドが一言こう言った。
「アルドは、ランゼーヌの本当の兄だ。兄妹仲良くな」
「え!」
驚きの声を上げたのは、ランゼーヌではなく侍女のリラ。彼女は、モンドの言った意味がわかったのだが、まだ六歳のランゼーヌには本当の兄という意味がどういう事を示すのか、わからなかったのだ。
母親のティーゼと結婚するより前から、アーブリーと関係があったという事実を。
アルドは、赤い瞳にワインレッドの髪で、モンドが親子だという様に容姿は似ていた。
モンドは、髪も瞳も赤い。
その後、二人で部屋へ戻るとリラがポツリと言った。
「部屋を改装していると思ったらそういう事だったのね」
数か月前から業者の人が来て、部屋を改装していたのだ。それは二人を迎え入れる為だった。
「何があってもランゼーヌお嬢様の事は、私がお守りしますからね」
「……うん」
『俺っちも、もちろん味方だ』
「ありがとう」
ランゼーヌは、二人に笑顔でお礼を言う。
「あぁ、お嬢様」
ぎゅっとランゼーヌをリラが抱きしめてくれた。いつもこうやって、母親の代わりに抱きしめてくれている。
ランゼーヌは、抱きしめられると安心する事が出来た。私は一人ではないと。
この衝撃の日は、ティーゼが亡くなって一年経ったぐらいの時の事。
モンドは、ティーゼが亡くなって一人で仕事をこなす中、アーブリー達を呼び寄せる準備を着々と進めていたようだ。
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