6 / 58
予想外の展開 1
しおりを挟む
「おはようございます。お父さま、アーブリー様、アルド様」
ランゼーヌは、15歳になっていた。
すっかり大人びた彼女だが、結局は家庭教師はついていない。それでも、最低限の振る舞いは自身で身に着けた。
「おはよう、ランゼーヌ。朗報だ!」
「………」
『またとんでもない事を言い出すんじゃないだろうな』
モンドが言う朗報は、彼にとっての朗報であってランゼーヌにとっては朗報どころか区報の事が多い。
「うふふ。よかったわね」
まだ何も聞いていないと言うのにアーブリーが嬉しそうに言った。
彼女は話を聞いているようだ。しかも、アーブリーにとってはいい話なのだろう。
『嫌な予感しかしない……』
ワンちゃんが、ジト目をしてモンドを見ている。
「私の友人の息子との婚約が決まった」
「え!!」
「なんですと! 聞いておりません!」
執事長のバラーグが驚いて、モンドに詰め寄った。
「こういうのは、そう、サプライズだ」
「サプライズにするのは本人のみでよろしいでしょう。いや、これはサプライズにする事ではありません」
「煩いわよ、バラーグ。もう決まった事。15歳の誕生日プレゼントにドレスを買ったでしょう。あれを来て行きなさい」
「………」
あまりの事にランゼーヌは何も言えず、ぱちくりと目を瞬くだけ。
どうせ家から出ないのだからと、ドレスは誕生日にしか買ってもらえないでいたが、今年のドレスは少し金額が張ったものだった。
そう誕生日には、この話は持ち上がっていたのだろう。
「明日、婚約の顔合わせだ」
「明日ですと!」
「明日って……」
(よっぽどお金持ちの息子なのかしら?)
ランゼーヌは、小さな頃と違いネビューラ家は、火の車だと知っていた。
それを自分が受け継ぐ事になると思うと、ため息しかでない。そう思っていた矢先だ。
15歳なら爵位を受け継げる。もしかしたら結婚と同時に、受け渡す気なのかもしれない。と言っても別にモンドが爵位を受け継いでいるわけではなく、席は空席のままだ。
何かあれば、モンドが代理として色々こなしていた。だが彼は商売には向いていなかったようだ。
年々赤字が膨らんで行った。
(もしかして、支援を頼み込んだ? 友人だと言っていたし)
そんな期待をしていると……。
『あんまり期待してがっかりするのは、ランゼだからな。あいつには何も期待するな!』
ランゼーヌの考えている事がわかったようで、ワンちゃんがそう言ったのだった。
その後、部屋に戻ったランゼーヌに詳細を聞き出したバラーグが訪ねて来て話す。
「お相手は、旦那様のご結婚前に交流があったご友人のパラキード子爵家の長男クレイ殿。結婚したばかりの姉と弟が居るようです。ただこちらの家系は騎士です。もちろんクレイ様も騎士だそうです」
「騎士!?」
『ほらな。言っただろう』
子爵家なら男爵家よりは裕福だろう。だが、火の車のネビューラ家を支援出来る程ではないはずだ。
しかも騎士の家系なら婿に来たとしても、一から覚えなくてはいけないので、はっきりといって最初は戦力にならない。
それに、パラキード子爵家にとってメリットがないように思える。
「ランゼーヌ様がネビューラ家を継ぐのだと、先程も釘を刺しましたが相手が嫡男となると嫁がせるつもりではないでしょうか……」
ため息交じりにバラーグが言う。
「お父さまもお解りになっていると思いますからそれはないと思いますが……」
少々不安もあるが、そうランゼーヌは返した。
爵位継承は、王家に提出して許可が通ると血縁でなくても爵位が継げる。裏を返せば、許可が下りなければ、血縁であっても爵位は継げない事になる。
ネビューラ家もランゼーヌが継ぐまでに間があるから、その間だけモンドが爵位を継ぐと言う申請をしたが却下されたのだ。つまりネビューラ男爵家は、ランゼーヌしか継げないと言う事になる。
それを知っていて、嫁がせる事はないだろうと思ってはいるが、どちらにもメリットがない婚約なのだ。不安しか残らない。
「まったく旦那様は何をお考えなのでしょうか。まあアーブリー様にそそのかされて、こうなったとは思いますが」
大体がそうなのだ。彼女に言われるまま行動してしまう。
信頼しているというより、尻に敷かれているのだろうが、バラーグが行動する前に相談してほしいと口をすっぱくして言っても、アーブリーに黙ってなさいと言われればそうしてしまうから始末が悪い。
嘆いていても婚約の顔合わせは明日だ。この日に、婚約が文書で執り行われる。つまり今は、仮の婚約だ。だが普通は、よっぽどの事が無ければ破談になる事はない。
「とても言いづらいですが、お断りしてきて頂いてもよろしいでしょうか」
今まで一度もバラーグが、ランゼーヌにお願いなどした事がなかった。
頭を下げるバラーグに、ランゼーヌは慌てる。
『俺っちもそうした方がいいと思うぞ』
「バラーグ、頭を上げて。とりあえずどういう状況なのか聞いて判断するわ。もしかしたら商売とかに興味がある方なのかもしれないし」
『そんなわけあるか。あの男の友人だぞ?』
ランゼーヌの言葉にワンちゃんが突っ込みを入れる。苦笑いするしかないランゼーヌだった。
ランゼーヌは、15歳になっていた。
すっかり大人びた彼女だが、結局は家庭教師はついていない。それでも、最低限の振る舞いは自身で身に着けた。
「おはよう、ランゼーヌ。朗報だ!」
「………」
『またとんでもない事を言い出すんじゃないだろうな』
モンドが言う朗報は、彼にとっての朗報であってランゼーヌにとっては朗報どころか区報の事が多い。
「うふふ。よかったわね」
まだ何も聞いていないと言うのにアーブリーが嬉しそうに言った。
彼女は話を聞いているようだ。しかも、アーブリーにとってはいい話なのだろう。
『嫌な予感しかしない……』
ワンちゃんが、ジト目をしてモンドを見ている。
「私の友人の息子との婚約が決まった」
「え!!」
「なんですと! 聞いておりません!」
執事長のバラーグが驚いて、モンドに詰め寄った。
「こういうのは、そう、サプライズだ」
「サプライズにするのは本人のみでよろしいでしょう。いや、これはサプライズにする事ではありません」
「煩いわよ、バラーグ。もう決まった事。15歳の誕生日プレゼントにドレスを買ったでしょう。あれを来て行きなさい」
「………」
あまりの事にランゼーヌは何も言えず、ぱちくりと目を瞬くだけ。
どうせ家から出ないのだからと、ドレスは誕生日にしか買ってもらえないでいたが、今年のドレスは少し金額が張ったものだった。
そう誕生日には、この話は持ち上がっていたのだろう。
「明日、婚約の顔合わせだ」
「明日ですと!」
「明日って……」
(よっぽどお金持ちの息子なのかしら?)
ランゼーヌは、小さな頃と違いネビューラ家は、火の車だと知っていた。
それを自分が受け継ぐ事になると思うと、ため息しかでない。そう思っていた矢先だ。
15歳なら爵位を受け継げる。もしかしたら結婚と同時に、受け渡す気なのかもしれない。と言っても別にモンドが爵位を受け継いでいるわけではなく、席は空席のままだ。
何かあれば、モンドが代理として色々こなしていた。だが彼は商売には向いていなかったようだ。
年々赤字が膨らんで行った。
(もしかして、支援を頼み込んだ? 友人だと言っていたし)
そんな期待をしていると……。
『あんまり期待してがっかりするのは、ランゼだからな。あいつには何も期待するな!』
ランゼーヌの考えている事がわかったようで、ワンちゃんがそう言ったのだった。
その後、部屋に戻ったランゼーヌに詳細を聞き出したバラーグが訪ねて来て話す。
「お相手は、旦那様のご結婚前に交流があったご友人のパラキード子爵家の長男クレイ殿。結婚したばかりの姉と弟が居るようです。ただこちらの家系は騎士です。もちろんクレイ様も騎士だそうです」
「騎士!?」
『ほらな。言っただろう』
子爵家なら男爵家よりは裕福だろう。だが、火の車のネビューラ家を支援出来る程ではないはずだ。
しかも騎士の家系なら婿に来たとしても、一から覚えなくてはいけないので、はっきりといって最初は戦力にならない。
それに、パラキード子爵家にとってメリットがないように思える。
「ランゼーヌ様がネビューラ家を継ぐのだと、先程も釘を刺しましたが相手が嫡男となると嫁がせるつもりではないでしょうか……」
ため息交じりにバラーグが言う。
「お父さまもお解りになっていると思いますからそれはないと思いますが……」
少々不安もあるが、そうランゼーヌは返した。
爵位継承は、王家に提出して許可が通ると血縁でなくても爵位が継げる。裏を返せば、許可が下りなければ、血縁であっても爵位は継げない事になる。
ネビューラ家もランゼーヌが継ぐまでに間があるから、その間だけモンドが爵位を継ぐと言う申請をしたが却下されたのだ。つまりネビューラ男爵家は、ランゼーヌしか継げないと言う事になる。
それを知っていて、嫁がせる事はないだろうと思ってはいるが、どちらにもメリットがない婚約なのだ。不安しか残らない。
「まったく旦那様は何をお考えなのでしょうか。まあアーブリー様にそそのかされて、こうなったとは思いますが」
大体がそうなのだ。彼女に言われるまま行動してしまう。
信頼しているというより、尻に敷かれているのだろうが、バラーグが行動する前に相談してほしいと口をすっぱくして言っても、アーブリーに黙ってなさいと言われればそうしてしまうから始末が悪い。
嘆いていても婚約の顔合わせは明日だ。この日に、婚約が文書で執り行われる。つまり今は、仮の婚約だ。だが普通は、よっぽどの事が無ければ破談になる事はない。
「とても言いづらいですが、お断りしてきて頂いてもよろしいでしょうか」
今まで一度もバラーグが、ランゼーヌにお願いなどした事がなかった。
頭を下げるバラーグに、ランゼーヌは慌てる。
『俺っちもそうした方がいいと思うぞ』
「バラーグ、頭を上げて。とりあえずどういう状況なのか聞いて判断するわ。もしかしたら商売とかに興味がある方なのかもしれないし」
『そんなわけあるか。あの男の友人だぞ?』
ランゼーヌの言葉にワンちゃんが突っ込みを入れる。苦笑いするしかないランゼーヌだった。
7
あなたにおすすめの小説
「醜い」と婚約破棄された銀鱗の令嬢、氷の悪竜辺境伯に嫁いだら、呪いを癒やす聖女として溺愛されました
黒崎隼人
恋愛
「醜い銀の鱗を持つ呪われた女など、王妃にはふさわしくない!」
衆人環視の夜会で、婚約者の王太子にそう罵られ、アナベルは捨てられた。
実家である公爵家からも疎まれ、孤独に生きてきた彼女に下されたのは、「氷の悪竜」と恐れられる辺境伯・レオニールのもとへ嫁げという非情な王命だった。
彼の体に触れた者は黒い呪いに蝕まれ、死に至るという。それは事実上の死刑宣告。
全てを諦め、死に場所を求めて辺境の地へと赴いたアナベルだったが、そこで待っていたのは冷徹な魔王――ではなく、不器用で誠実な、ひとりの青年だった。
さらに、アナベルが忌み嫌っていた「銀の鱗」には、レオニールの呪いを癒やす聖なる力が秘められていて……?
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
噂の聖女と国王陛下 ―婚約破棄を願った令嬢は、溺愛される
柴田はつみ
恋愛
幼い頃から共に育った国王アランは、私にとって憧れであり、唯一の婚約者だった。
だが、最近になって「陛下は聖女殿と親しいらしい」という噂が宮廷中に広まる。
聖女は誰もが認める美しい女性で、陛下の隣に立つ姿は絵のようにお似合い――私など必要ないのではないか。
胸を締め付ける不安に耐えかねた私は、ついにアランへ婚約破棄を申し出る。
「……私では、陛下の隣に立つ資格がありません」
けれど、返ってきたのは予想外の言葉だった。
「お前は俺の妻になる。誰が何と言おうと、それは変わらない」
噂の裏に隠された真実、幼馴染が密かに抱き続けていた深い愛情――
一度手放そうとした運命の絆は、より強く絡み合い、私を逃がさなくなる。
王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります
cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。
聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。
そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。
村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。
かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。
そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。
やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき——
リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。
理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、
「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、
自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
白い結婚に、猶予を。――冷徹公爵と選び続ける夫婦の話
鷹 綾
恋愛
婚約者である王子から「有能すぎる」と切り捨てられた令嬢エテルナ。
彼女が選んだ新たな居場所は、冷徹と噂される公爵セーブルとの白い結婚だった。
干渉しない。触れない。期待しない。
それは、互いを守るための合理的な選択だったはずなのに――
静かな日常の中で、二人は少しずつ「選び続けている関係」へと変わっていく。
越えない一線に名前を付け、それを“猶予”と呼ぶ二人。
壊すより、急ぐより、今日も隣にいることを選ぶ。
これは、激情ではなく、
確かな意思で育つ夫婦の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる