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予想外の展開 3
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「もう仕方がない人達ね。二人は放っておいて、私達でお話をしましょうか」
懐かしさで盛り上がるモンドとケンドールを横目にジアンナがそう言って、ランゼーヌを見た。
「ランゼーヌ嬢は、何か趣味はございまして?」
「え! あ、はい。本を読んで……いえ、えーと、ど、読書です」
突然、問いかけられたランゼーヌは、しどろもどろになりながらも答えた。
趣味というか、ほぼ毎日読書ぐらいしかする事がないというのが正しい。
「クレイ、あなたは読書をするの?」
母親のジアンナに話しかけられたクレイは、彼女に振り向き驚いた様に目を一瞬大きくしたが、すぐに無表情に戻る。
「いえ、とくには」
と一言。
会話が続かない。
『こいつ無口だな』
ジアンナは、その態度に苦笑いした。
「ごめんなさいね。口下手で」
「いえ……」
ランゼーヌも似たようなものだ。何を話したらいいかなどわからないから黙るしかない。
「これでも王宮勤めなのよ」
「……精霊の儀の護衛だ。王宮勤めとは言わないだろう」
「あら、王宮で行っているでしょう?」
「場所がそこなだけであって、王宮勤めとは言わない」
「うふふ……」
「………」
なぜかジアンナが、にこにことしてクレイを見つめていた。それにも無表情なクレイ。
(なぜかわからないけど、夫人が楽しそう。クレイ様は精霊の儀の護衛をしているのね!)
「すごいわ! ねえ、精霊って見た事がある?」
ランゼーヌは、キラキラした瞳でクレイに話しかけた。
「一度だけ」
「それってやっぱり、虹色の蝶なの?」
「はい……」
ランゼーヌは、精霊が見えている。だが、他の人達が同じように見えているか気になっていた。
精霊の儀について書かれた本には、虹色の蝶の様な姿と書かれてはあったので、そうだとは思ったが確かめてみたかったのだ。
「そっかぁ。儀式って魔法陣を描くのよね?」
「あぁ……」
「それって家でやっても呼び出せるのかしら? やっぱり司祭のお祈りがないとダメかしら?」
「………」
ランゼーヌがそう言うと、クレイが驚いた顔で目を瞬かせ彼女をジッと見つめる。
「ランゼーヌ!」
強い口調でアルドがランゼーヌの名を呼び睨みつけた。
ランゼーヌは、ビクッとして俯く。
「ランゼーヌが、変な事を言って申し訳ありません」
アーブリーが、ワザとらしくやれやれという仕草で言った。
ランゼーヌは、精霊の儀を受けていなかったので、気になったのだ。
10歳になったら行うと本で読んで楽しみにしていた。だが、11歳になっても声が掛からないのでモンドに聞くと、困り顔で体調が悪そうだったので断ったと返って来たのだ。
モンドの話によると、ちょうどランゼーヌが風邪をこじらせて伏せっている時に、頼りが来たが行けそうもないので断ったの事だ。
直感的にランゼーヌは嘘だと思った。
つまり精霊の儀に行かせるつもりないのだと。たぶん、アーブリーが反対したのだろう。そう推測し、諦めたのだ。本を読んで雰囲気を味わおうと、何度も精霊の儀を読んで過ごした。
直接、精霊の儀に関わった人からの話が聞けると思い、つい嬉しくなって変な事を聞いてしまったのだ。
「ご、ごめんなさい」
しゅんとして、ランゼーヌが謝る。
『別に儀式なんてしなくても俺っちがいるだろうが』
「そうだけど……」
ついぼそっとランゼーヌが呟く。
「精霊に会ってみたかったのですか?」
「え?」
クレイの質問に驚いてランゼーヌは顔を上げた。
先程から受け身だったクレイから話しかけられたからだ。
「いえ、そうではなく、儀式と言うものを体験してみたくて……」
「体験? それって、儀式を受けていないという事ですか?」
驚いた様子のクレイが、更に質問をする。
「えーと……」
「アーブリー夫人。ランゼーヌ嬢に精霊の儀を受けさせていないのですか?」
ジアンナが、険しい顔つきでアーブリーに聞くので、アーブリーは扇子を広げ口元を隠しながら頷いた。
「えぇ。ちょうど体調を崩していたものですからお断りしました」
アーブリーの答えに、ジアンナとクレイが顔を見合わせる。
その仕草にアーブリーは、眉間に皺を寄せた。
「何か問題でもありましたでしょうか? 私、実は、ダタランダから参りましたので、精霊の儀に疎いもので……」
そう言い訳をする。
「そうですか。リダージリ国では義務ですわ。早急に行った方が宜しいかと」
「ですが、もうすでに五年も前の事。15歳になりますし……」
「年齢は関係ありません。10歳以上であれば受けられます。それに、ほぼ毎日行われていますよ」
クレイが、無表情のままアーブリーにそう返すと、彼女は一瞬ランゼーヌを睨んだ。
余計な事を言うから面倒な事になったと。
「どうせ聖女になどなれないのですから、もうかなり過ぎ……」
「そんな事わかりませんよ。私は元聖女です」
面倒な事は断りたいとアーブリーが食い下がっていると、ジアンナが驚く事言って来た。
アーブリーもランゼーヌもジアンナを見つめる。
(そっか。だから精霊が彼女の周りにもいるのね)
ランゼーヌは、ジアンナが言っている事が本当だと確信した。
彼女の周りには、ランゼーヌほどではないが、精霊が近づいて飛び回っている。ただ、ジアンナ自身は、それに気付いていない様子だ。
聖女になったら精霊が見える様になるのだと思っていたランゼーヌは、そこだけ驚くのだった。
懐かしさで盛り上がるモンドとケンドールを横目にジアンナがそう言って、ランゼーヌを見た。
「ランゼーヌ嬢は、何か趣味はございまして?」
「え! あ、はい。本を読んで……いえ、えーと、ど、読書です」
突然、問いかけられたランゼーヌは、しどろもどろになりながらも答えた。
趣味というか、ほぼ毎日読書ぐらいしかする事がないというのが正しい。
「クレイ、あなたは読書をするの?」
母親のジアンナに話しかけられたクレイは、彼女に振り向き驚いた様に目を一瞬大きくしたが、すぐに無表情に戻る。
「いえ、とくには」
と一言。
会話が続かない。
『こいつ無口だな』
ジアンナは、その態度に苦笑いした。
「ごめんなさいね。口下手で」
「いえ……」
ランゼーヌも似たようなものだ。何を話したらいいかなどわからないから黙るしかない。
「これでも王宮勤めなのよ」
「……精霊の儀の護衛だ。王宮勤めとは言わないだろう」
「あら、王宮で行っているでしょう?」
「場所がそこなだけであって、王宮勤めとは言わない」
「うふふ……」
「………」
なぜかジアンナが、にこにことしてクレイを見つめていた。それにも無表情なクレイ。
(なぜかわからないけど、夫人が楽しそう。クレイ様は精霊の儀の護衛をしているのね!)
「すごいわ! ねえ、精霊って見た事がある?」
ランゼーヌは、キラキラした瞳でクレイに話しかけた。
「一度だけ」
「それってやっぱり、虹色の蝶なの?」
「はい……」
ランゼーヌは、精霊が見えている。だが、他の人達が同じように見えているか気になっていた。
精霊の儀について書かれた本には、虹色の蝶の様な姿と書かれてはあったので、そうだとは思ったが確かめてみたかったのだ。
「そっかぁ。儀式って魔法陣を描くのよね?」
「あぁ……」
「それって家でやっても呼び出せるのかしら? やっぱり司祭のお祈りがないとダメかしら?」
「………」
ランゼーヌがそう言うと、クレイが驚いた顔で目を瞬かせ彼女をジッと見つめる。
「ランゼーヌ!」
強い口調でアルドがランゼーヌの名を呼び睨みつけた。
ランゼーヌは、ビクッとして俯く。
「ランゼーヌが、変な事を言って申し訳ありません」
アーブリーが、ワザとらしくやれやれという仕草で言った。
ランゼーヌは、精霊の儀を受けていなかったので、気になったのだ。
10歳になったら行うと本で読んで楽しみにしていた。だが、11歳になっても声が掛からないのでモンドに聞くと、困り顔で体調が悪そうだったので断ったと返って来たのだ。
モンドの話によると、ちょうどランゼーヌが風邪をこじらせて伏せっている時に、頼りが来たが行けそうもないので断ったの事だ。
直感的にランゼーヌは嘘だと思った。
つまり精霊の儀に行かせるつもりないのだと。たぶん、アーブリーが反対したのだろう。そう推測し、諦めたのだ。本を読んで雰囲気を味わおうと、何度も精霊の儀を読んで過ごした。
直接、精霊の儀に関わった人からの話が聞けると思い、つい嬉しくなって変な事を聞いてしまったのだ。
「ご、ごめんなさい」
しゅんとして、ランゼーヌが謝る。
『別に儀式なんてしなくても俺っちがいるだろうが』
「そうだけど……」
ついぼそっとランゼーヌが呟く。
「精霊に会ってみたかったのですか?」
「え?」
クレイの質問に驚いてランゼーヌは顔を上げた。
先程から受け身だったクレイから話しかけられたからだ。
「いえ、そうではなく、儀式と言うものを体験してみたくて……」
「体験? それって、儀式を受けていないという事ですか?」
驚いた様子のクレイが、更に質問をする。
「えーと……」
「アーブリー夫人。ランゼーヌ嬢に精霊の儀を受けさせていないのですか?」
ジアンナが、険しい顔つきでアーブリーに聞くので、アーブリーは扇子を広げ口元を隠しながら頷いた。
「えぇ。ちょうど体調を崩していたものですからお断りしました」
アーブリーの答えに、ジアンナとクレイが顔を見合わせる。
その仕草にアーブリーは、眉間に皺を寄せた。
「何か問題でもありましたでしょうか? 私、実は、ダタランダから参りましたので、精霊の儀に疎いもので……」
そう言い訳をする。
「そうですか。リダージリ国では義務ですわ。早急に行った方が宜しいかと」
「ですが、もうすでに五年も前の事。15歳になりますし……」
「年齢は関係ありません。10歳以上であれば受けられます。それに、ほぼ毎日行われていますよ」
クレイが、無表情のままアーブリーにそう返すと、彼女は一瞬ランゼーヌを睨んだ。
余計な事を言うから面倒な事になったと。
「どうせ聖女になどなれないのですから、もうかなり過ぎ……」
「そんな事わかりませんよ。私は元聖女です」
面倒な事は断りたいとアーブリーが食い下がっていると、ジアンナが驚く事言って来た。
アーブリーもランゼーヌもジアンナを見つめる。
(そっか。だから精霊が彼女の周りにもいるのね)
ランゼーヌは、ジアンナが言っている事が本当だと確信した。
彼女の周りには、ランゼーヌほどではないが、精霊が近づいて飛び回っている。ただ、ジアンナ自身は、それに気付いていない様子だ。
聖女になったら精霊が見える様になるのだと思っていたランゼーヌは、そこだけ驚くのだった。
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