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準備万端 3
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「で、どうであった?」
豪華なワイン色の一人掛けの椅子にどっかりと腰をおろし足を組み、同じく目の前の一人掛け椅子に座る枢機卿に問うそのグリーンの瞳は、興味なさげだが。
人払いした為に部屋には、枢機卿とその向かい側に座る国王イグナシオ・リダージリしかいない為か、イグナシオはいささか気だるげだ。
「彼女は聖女で間違いないでしょう。それと、私しかいないとはいえ、もっとシャキッとしたらいかがでしょうか」
「この俺にそんな事を言えるのは、叔父のあなただけだろうな」
「人払いしているとはいえ、そのような事は口になさらないように」
「っは。聞き耳を立てたとして、俺が張った結界で何も聞こえないだろう。心配するな」
「……そうですが。これが、聖女と騎士の家族構成です」
ため息をしつつ、枢機卿は二人の資料をイグナシオに渡した。
レフルーメンド侯爵家の次男のアルデンが枢機卿になったのは、13年前。イグナシオが王位を継承した時だ。
この年に、イグナシオの第一子の王女が誕生し、前王が退位した。めでたくいや、問題なく継承されたと誰もが思っているが事実は違った。
まだイグナシオの祖父テオールが健在だったのだが、余命いくばくもなく死ぬ前にと、ある秘密をイグナシオとその当時王であったイグナシオの父オーガスに話したのだ。
それは、国王オーガスとレフルーメンド侯爵家のアルデンが双子の兄弟だという驚愕の事実だった。
別に双子だから不吉だとか、男児は一人という取り決めもない。
理由は、アルデンの能力にあった。能力と言っても『精霊が見える』という能力だ。
ランゼーヌとは違い見えるだけだが、それで十分だった。聖女かどうかは、精霊が周りに集まっているかどうかを確認すればいい。
王家の血筋には、『精霊が見える』能力と『結界の魔法を扱える』能力を持つ者が誕生する事があった。
だがこの能力の事は、国民には伏せられている。
テオールは、アルデンに現在ついている地位、すなわち枢機卿になってもらいたいと思い、こっそりとレフルーメンド侯爵家に託したのだ。これは、テオールとレフルーメンド侯爵家の数人しか知らない事実だった。
オーガスには、アルデンの様な『精霊が見える』能力も『結界の魔法を扱える』能力もなかった。
結界の魔法は、息子のイグナシオに出現している。当時は、オーガスも喜んでいた。だがテオールに話を聞いて落胆したのだ。
常々オーガスは、自分は王の器ではないと思っていた。そこに自分より優れた兄弟がいて、しかもその能力のおかげで、オーガスが自動的に王になったに過ぎない。
アルデンが双子の王子として居れば、王位を継いだのは彼だろう。
王位継承権を持っていては、枢機卿にはなれないのだ。
テオールは、ひ孫の顔を見て、もう一人の息子アルデンと対面してその彼が枢機卿になり安心したのか、次の年になりすぐにこの世を去った。
その頃からオーガスの体調がすぐれない為、父であるテオールの死で体調を崩したと思われていたが、実際は彼から聞かされた真実によって憔悴したのだ。
「俺も王に向いてないと思うのだが」
「いきなりなんです?」
「父上が、うわごとの様に言うのだ。私は王の器ではなかったと。俺もだろうと言うと、そうだなと……。枢機卿、あなたが王になればよくないか?」
「よくありませんね」
「だよな。王には、血筋があればなれるけど、枢機卿は能力がないとなれないのだからな」
「今日は、やけにつっかかりますね。何かありましたか?」
「……いや別に。しかし、双子なら似ているだろうに誰も気づかないなんてな」
イグナシオが、枢機卿を見つめ言った。
現に、向かい合う二人はよく似ている。
同じ黒たん色の髪にグリーンの瞳。イグナシオは、父親譲りの髪と瞳だ。つまりオーガスも同じ髪と瞳だった。並んでみればすぐにわかりそうかもと思うが、オーガスは憔悴している為か歳より老けて見える。また、アルデンは、目の前のイグナシオと同じ年代に見えるほど若々しい。とても50代には見えなかった。
「似ていますかね?」
アルデンは、当時王だったオーガスとは対面していない。オーガスが避けたからだ。なので遠目からしか拝見した事がない。
枢機卿の位についたのは、イグナシオが王になってから。イグナシオが指名したのだ。だからアルデンは、イグナシオのお気に入りだと思われていた。
なのでこうして二人きりで会話していても、誰も不思議には思わない。
「うーん。似ていないな。って、なぜそんなに若い? 俺と同じ歳に見える」
「恐れ入ります。ですが35歳には見えないでしょう」
きっと今のアルデンとオーガスが並んで比べられても双子とは思われないだろう。
アルデンは、胸ぐらいまである髪を一つでまとめていた。それがまた若々しく見えるのかもしれない。
「そう言えば、今回の聖女って15歳だったな」
「はい。これはこちらの不手際です。申し訳ありません。本来10歳で受けられなかった者も11歳には受けているもので、通知は毎年出していたようですが」
まさか精霊の儀を拒否して受けていないとは思っていないので、ただ毎年通知を送るだけになっていた。というよりは、こういう例がなく放置されていたというのが正しい。
普通は、聖女として判定されても役目を行えそうもない病気や怪我の場合、医師の診断書があれば精霊の儀を受けなくてよいとなっていた。
だがもしや聖女になれるかもしれないと思う為か、よほどでなければ翌年に精霊の儀を受ける。そのまま受けずにずっとというのはランゼーヌが初めてだったのだ。
しかもその者が、聖女に選ばれてしまった。
「ランゼーヌ・ネビューラか。男爵の娘ってこれだけか?」
「申し訳ありません。聖女の騎士になった彼が、ランゼーヌ様が受けていない事に気付き手配したようです。急な事で家族構成しかわからず……」
本来は、日程を組むにあたり、聖女になるかもしれないので令嬢の下調べをしておくが、今回は連絡を受けすぐに精霊の儀式を行った。そしてまさかの聖女だった為、登録されている家族構成しか資料がなかったのだ。
「騎士は、クレイ・パラキード……」
「彼は、精霊の儀の騎士でして、聖女ランゼーヌ様の父親と彼の父親が知り合いのようで、会話している時に儀式を受けていない事が発覚したようです。事が事でしたので、すぐに儀式を行いました。彼が彼女の精霊の儀の騎士をそのまま担当し、ランゼーヌ様が聖女だとなった時に聖女の騎士として自ら名乗りを上げたようです。もし不都合でしたら替えますが」
「いや、別に彼のままでいいだろう。ただ聖女の方はきっちりと調べた方がよさそうだな」
「はい。手配はしております」
なぜこの歳まで放置していたのか。これもまた調べる必要があったのだった。
豪華なワイン色の一人掛けの椅子にどっかりと腰をおろし足を組み、同じく目の前の一人掛け椅子に座る枢機卿に問うそのグリーンの瞳は、興味なさげだが。
人払いした為に部屋には、枢機卿とその向かい側に座る国王イグナシオ・リダージリしかいない為か、イグナシオはいささか気だるげだ。
「彼女は聖女で間違いないでしょう。それと、私しかいないとはいえ、もっとシャキッとしたらいかがでしょうか」
「この俺にそんな事を言えるのは、叔父のあなただけだろうな」
「人払いしているとはいえ、そのような事は口になさらないように」
「っは。聞き耳を立てたとして、俺が張った結界で何も聞こえないだろう。心配するな」
「……そうですが。これが、聖女と騎士の家族構成です」
ため息をしつつ、枢機卿は二人の資料をイグナシオに渡した。
レフルーメンド侯爵家の次男のアルデンが枢機卿になったのは、13年前。イグナシオが王位を継承した時だ。
この年に、イグナシオの第一子の王女が誕生し、前王が退位した。めでたくいや、問題なく継承されたと誰もが思っているが事実は違った。
まだイグナシオの祖父テオールが健在だったのだが、余命いくばくもなく死ぬ前にと、ある秘密をイグナシオとその当時王であったイグナシオの父オーガスに話したのだ。
それは、国王オーガスとレフルーメンド侯爵家のアルデンが双子の兄弟だという驚愕の事実だった。
別に双子だから不吉だとか、男児は一人という取り決めもない。
理由は、アルデンの能力にあった。能力と言っても『精霊が見える』という能力だ。
ランゼーヌとは違い見えるだけだが、それで十分だった。聖女かどうかは、精霊が周りに集まっているかどうかを確認すればいい。
王家の血筋には、『精霊が見える』能力と『結界の魔法を扱える』能力を持つ者が誕生する事があった。
だがこの能力の事は、国民には伏せられている。
テオールは、アルデンに現在ついている地位、すなわち枢機卿になってもらいたいと思い、こっそりとレフルーメンド侯爵家に託したのだ。これは、テオールとレフルーメンド侯爵家の数人しか知らない事実だった。
オーガスには、アルデンの様な『精霊が見える』能力も『結界の魔法を扱える』能力もなかった。
結界の魔法は、息子のイグナシオに出現している。当時は、オーガスも喜んでいた。だがテオールに話を聞いて落胆したのだ。
常々オーガスは、自分は王の器ではないと思っていた。そこに自分より優れた兄弟がいて、しかもその能力のおかげで、オーガスが自動的に王になったに過ぎない。
アルデンが双子の王子として居れば、王位を継いだのは彼だろう。
王位継承権を持っていては、枢機卿にはなれないのだ。
テオールは、ひ孫の顔を見て、もう一人の息子アルデンと対面してその彼が枢機卿になり安心したのか、次の年になりすぐにこの世を去った。
その頃からオーガスの体調がすぐれない為、父であるテオールの死で体調を崩したと思われていたが、実際は彼から聞かされた真実によって憔悴したのだ。
「俺も王に向いてないと思うのだが」
「いきなりなんです?」
「父上が、うわごとの様に言うのだ。私は王の器ではなかったと。俺もだろうと言うと、そうだなと……。枢機卿、あなたが王になればよくないか?」
「よくありませんね」
「だよな。王には、血筋があればなれるけど、枢機卿は能力がないとなれないのだからな」
「今日は、やけにつっかかりますね。何かありましたか?」
「……いや別に。しかし、双子なら似ているだろうに誰も気づかないなんてな」
イグナシオが、枢機卿を見つめ言った。
現に、向かい合う二人はよく似ている。
同じ黒たん色の髪にグリーンの瞳。イグナシオは、父親譲りの髪と瞳だ。つまりオーガスも同じ髪と瞳だった。並んでみればすぐにわかりそうかもと思うが、オーガスは憔悴している為か歳より老けて見える。また、アルデンは、目の前のイグナシオと同じ年代に見えるほど若々しい。とても50代には見えなかった。
「似ていますかね?」
アルデンは、当時王だったオーガスとは対面していない。オーガスが避けたからだ。なので遠目からしか拝見した事がない。
枢機卿の位についたのは、イグナシオが王になってから。イグナシオが指名したのだ。だからアルデンは、イグナシオのお気に入りだと思われていた。
なのでこうして二人きりで会話していても、誰も不思議には思わない。
「うーん。似ていないな。って、なぜそんなに若い? 俺と同じ歳に見える」
「恐れ入ります。ですが35歳には見えないでしょう」
きっと今のアルデンとオーガスが並んで比べられても双子とは思われないだろう。
アルデンは、胸ぐらいまである髪を一つでまとめていた。それがまた若々しく見えるのかもしれない。
「そう言えば、今回の聖女って15歳だったな」
「はい。これはこちらの不手際です。申し訳ありません。本来10歳で受けられなかった者も11歳には受けているもので、通知は毎年出していたようですが」
まさか精霊の儀を拒否して受けていないとは思っていないので、ただ毎年通知を送るだけになっていた。というよりは、こういう例がなく放置されていたというのが正しい。
普通は、聖女として判定されても役目を行えそうもない病気や怪我の場合、医師の診断書があれば精霊の儀を受けなくてよいとなっていた。
だがもしや聖女になれるかもしれないと思う為か、よほどでなければ翌年に精霊の儀を受ける。そのまま受けずにずっとというのはランゼーヌが初めてだったのだ。
しかもその者が、聖女に選ばれてしまった。
「ランゼーヌ・ネビューラか。男爵の娘ってこれだけか?」
「申し訳ありません。聖女の騎士になった彼が、ランゼーヌ様が受けていない事に気付き手配したようです。急な事で家族構成しかわからず……」
本来は、日程を組むにあたり、聖女になるかもしれないので令嬢の下調べをしておくが、今回は連絡を受けすぐに精霊の儀式を行った。そしてまさかの聖女だった為、登録されている家族構成しか資料がなかったのだ。
「騎士は、クレイ・パラキード……」
「彼は、精霊の儀の騎士でして、聖女ランゼーヌ様の父親と彼の父親が知り合いのようで、会話している時に儀式を受けていない事が発覚したようです。事が事でしたので、すぐに儀式を行いました。彼が彼女の精霊の儀の騎士をそのまま担当し、ランゼーヌ様が聖女だとなった時に聖女の騎士として自ら名乗りを上げたようです。もし不都合でしたら替えますが」
「いや、別に彼のままでいいだろう。ただ聖女の方はきっちりと調べた方がよさそうだな」
「はい。手配はしております」
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