【完結】婚約破談から始まる堅実令息とあきらめ令嬢の予想外な関係

すみ 小桜(sumitan)

文字の大きさ
19 / 58

準備万端 3

しおりを挟む
 「で、どうであった?」

 豪華なワイン色の一人掛けの椅子にどっかりと腰をおろし足を組み、同じく目の前の一人掛け椅子に座る枢機卿に問うそのグリーンの瞳は、興味なさげだが。
 人払いした為に部屋には、枢機卿とその向かい側に座る国王イグナシオ・リダージリしかいない為か、イグナシオはいささか気だるげだ。

 「彼女は聖女で間違いないでしょう。それと、私しかいないとはいえ、もっとシャキッとしたらいかがでしょうか」
 「この俺にそんな事を言えるのは、叔父のあなただけだろうな」
 「人払いしているとはいえ、そのような事は口になさらないように」
 「っは。聞き耳を立てたとして、俺が張った結界で何も聞こえないだろう。心配するな」
 「……そうですが。これが、聖女と騎士の家族構成です」

 ため息をしつつ、枢機卿は二人の資料をイグナシオに渡した。

 レフルーメンド侯爵家の次男のアルデンが枢機卿になったのは、13年前。イグナシオが王位を継承した時だ。
 この年に、イグナシオの第一子の王女が誕生し、前王が退位した。めでたくいや、問題なく継承されたと誰もが思っているが事実は違った。
 まだイグナシオの祖父テオールが健在だったのだが、余命いくばくもなく死ぬ前にと、ある秘密をイグナシオとその当時王であったイグナシオの父オーガスに話したのだ。
 それは、国王オーガスとレフルーメンド侯爵家のアルデンが双子の兄弟だという驚愕の事実だった。

 別に双子だから不吉だとか、男児は一人という取り決めもない。
 理由は、アルデンの能力にあった。能力と言っても『精霊が見える』という能力だ。
 ランゼーヌとは違い見えるだけだが、それで十分だった。聖女かどうかは、精霊が周りに集まっているかどうかを確認すればいい。

 王家の血筋には、『精霊が見える』能力と『結界の魔法を扱える』能力を持つ者が誕生する事があった。
 だがこの能力の事は、国民には伏せられている。
 テオールは、アルデンに現在ついている地位、すなわち枢機卿になってもらいたいと思い、こっそりとレフルーメンド侯爵家に託したのだ。これは、テオールとレフルーメンド侯爵家の数人しか知らない事実だった。
 オーガスには、アルデンの様な『精霊が見える』能力も『結界の魔法を扱える』能力もなかった。

 結界の魔法は、息子のイグナシオに出現している。当時は、オーガスも喜んでいた。だがテオールに話を聞いて落胆したのだ。
 常々オーガスは、自分は王の器ではないと思っていた。そこに自分より優れた兄弟がいて、しかもその能力のおかげで、オーガスが自動的に王になったに過ぎない。
 アルデンが双子の王子として居れば、王位を継いだのは彼だろう。
 王位継承権を持っていては、枢機卿にはなれないのだ。

 テオールは、ひ孫の顔を見て、もう一人の息子アルデンと対面してその彼が枢機卿になり安心したのか、次の年になりすぐにこの世を去った。
 その頃からオーガスの体調がすぐれない為、父であるテオールの死で体調を崩したと思われていたが、実際は彼から聞かされた真実によって憔悴したのだ。

 「俺も王に向いてないと思うのだが」
 「いきなりなんです?」
 「父上が、うわごとの様に言うのだ。私は王の器ではなかったと。俺もだろうと言うと、そうだなと……。枢機卿、あなたが王になればよくないか?」
 「よくありませんね」
 「だよな。王には、血筋があればなれるけど、枢機卿は能力がないとなれないのだからな」
 「今日は、やけにつっかかりますね。何かありましたか?」
 「……いや別に。しかし、双子なら似ているだろうに誰も気づかないなんてな」

 イグナシオが、枢機卿を見つめ言った。
 現に、向かい合う二人はよく似ている。
 同じ黒たん色の髪にグリーンの瞳。イグナシオは、父親譲りの髪と瞳だ。つまりオーガスも同じ髪と瞳だった。並んでみればすぐにわかりそうかもと思うが、オーガスは憔悴している為か歳より老けて見える。また、アルデンは、目の前のイグナシオと同じ年代に見えるほど若々しい。とても50代には見えなかった。

 「似ていますかね?」

 アルデンは、当時王だったオーガスとは対面していない。オーガスが避けたからだ。なので遠目からしか拝見した事がない。
 枢機卿の位についたのは、イグナシオが王になってから。イグナシオが指名したのだ。だからアルデンは、イグナシオのお気に入りだと思われていた。
 なのでこうして二人きりで会話していても、誰も不思議には思わない。

 「うーん。似ていないな。って、なぜそんなに若い? 俺と同じ歳に見える」
 「恐れ入ります。ですが35歳には見えないでしょう」

 きっと今のアルデンとオーガスが並んで比べられても双子とは思われないだろう。
 アルデンは、胸ぐらいまである髪を一つでまとめていた。それがまた若々しく見えるのかもしれない。

 「そう言えば、今回の聖女って15歳だったな」
 「はい。これはこちらの不手際です。申し訳ありません。本来10歳で受けられなかった者も11歳には受けているもので、通知は毎年出していたようですが」

 まさか精霊の儀を拒否して受けていないとは思っていないので、ただ毎年通知を送るだけになっていた。というよりは、こういう例がなく放置されていたというのが正しい。
 普通は、聖女として判定されても役目を行えそうもない病気や怪我の場合、医師の診断書があれば精霊の儀を受けなくてよいとなっていた。
 だがもしや聖女になれるかもしれないと思う為か、よほどでなければ翌年に精霊の儀を受ける。そのまま受けずにずっとというのはランゼーヌが初めてだったのだ。
 しかもその者が、聖女に選ばれてしまった。

 「ランゼーヌ・ネビューラか。男爵の娘ってこれだけか?」
 「申し訳ありません。聖女の騎士になった彼が、ランゼーヌ様が受けていない事に気付き手配したようです。急な事で家族構成しかわからず……」

 本来は、日程を組むにあたり、聖女になるかもしれないので令嬢の下調べをしておくが、今回は連絡を受けすぐに精霊の儀式を行った。そしてまさかの聖女だった為、登録されている家族構成しか資料がなかったのだ。

 「騎士は、クレイ・パラキード……」
 「彼は、精霊の儀の騎士でして、聖女ランゼーヌ様の父親と彼の父親が知り合いのようで、会話している時に儀式を受けていない事が発覚したようです。事が事でしたので、すぐに儀式を行いました。彼が彼女の精霊の儀の騎士をそのまま担当し、ランゼーヌ様が聖女だとなった時に聖女の騎士として自ら名乗りを上げたようです。もし不都合でしたら替えますが」
 「いや、別に彼のままでいいだろう。ただ聖女の方はきっちりと調べた方がよさそうだな」
 「はい。手配はしております」

 なぜこの歳まで放置していたのか。これもまた調べる必要があったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

短編)どうぞ、勝手に滅んでください。

黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。 あらすじ) 大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。 政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。 けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。 やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。 ーーー ※カクヨム、なろうにも掲載しています

感情の無い聖女様は、公爵への生贄にされてしまいました

九条 雛
恋愛
「――私など、ただの〝祈り人形〟でございます。人形に感情はありませぬ……」 悪逆非道の公爵の元へと生贄として捧げられてしまった聖女は、格子の付いた窓を見上げてそう呟く。 公爵は嗜虐に満ちた笑みを浮かべ言い放つ。 「これからは、三食きちんと食べてもらおう。こうして俺のモノとなったからには、今までのような生活を送れるとは思わぬことだな」 ――これは、不幸な境遇で心を閉ざしてしまった少女と、その笑顔を取り戻そうとする男の物語。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。

しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

みおな
恋愛
聖女。 女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。 本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。 愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。 記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

【完結】お飾り妃〜寵愛は聖女様のモノ〜

恋愛
今日、私はお飾りの妃となります。 ※実際の慣習等とは異なる場合があり、あくまでこの世界観での要素もございますので御了承ください。

幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係

紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。 顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。 ※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

処理中です...