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予想外な来客 5
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テーブルに置かれた婚約誓約書を見たアルデンは、驚きの顔を表面に出してしまうほど驚いた。
「どういう事だ……」
そして、ぽつりと呟き、それを手に取る。
まさか、クレイが手を回したのだろうか。聖女になったランゼーヌを手に入れる為に。しかし、彼にはそんな暇はなかっただろう。
「簡単な事です。彼と出会ったのが、婚約の顔合わせだったのです。そこで、ランゼーヌが精霊の儀を受けていないことが発覚し、まずは受けてからそれを提出しようとなったのです。まさか誰もランゼーヌが聖女になるとは、その時は思ってもおりませんでしたから」
ニマニマとして、モンドは言った。
モンドは、アルデンの取り乱し様に満足し、これでクレイに会えると確信する。
「そうですか」
納得と、アルデンは頷く。
自ら聖女の騎士に名乗り出たのは、婚約するはずの相手だったからなのかと。
しかし、クレイとも会わせる事は出来ない。なぜなら、聖女の騎士だからだ。聖女がお勤めを終えるまで、彼もまた他との接触はご法度だった。
「では、こちらは私がお預かりしておきます」
「は? なんだと!?」
アルデンの言葉に、バンとテーブルを叩きモンドは立ち上がる。
「我々の事にそこまで干渉するつもりですか!」
「落ち着いて下さい」
「これが落ち着いていられるか! それはすぐに提出するつもりだ! 返せ!」
「ですから私から陛下にお渡しすると申しています」
「へ、陛下だと?」
なぜ国王に見せる必要があると、モンドはアルデンを睨みつけた。
「まずはお座りください。ご説明致しますから」
モンドは、ムッとしたままアルデンの指示に従い、椅子に座る。
「本来ならこの婚約誓約書は、提出しただけで受理されます。ですが、聖女の令嬢が婚約なされる場合、王族の承認が必要になるのです。ランゼーヌ様が、聖女だと判明する前でしたらそのまま受理されていた事ですが、今この段階ですと陛下の承認が必要になります。ですのでこのまま私が預かりましょうと申し上げたのです」
「な……」
まさか、聖女になったら陛下の承認が必要になるなど思っていなかったモンドは、動揺が隠し切れない。何せ、ランゼーヌのサインは偽物なのだから。
「だ、だったらランゼーヌがお勤めを終えてから改めて提出します」
「……提出する予定なのでしたらお預かりしておきますよ」
「しかし、よく考えればランゼーヌはともかく、クレイ殿が心変わりするかもしれない。何せ聖女だと言えずに数年連絡を取れないのだから」
モンドは、何とか婚約誓約書を取り返そうとする。
「でしたら尚更、提出しておく方が宜しいのではないでしょうか。許可が下りれば、婚約が成立した旨がクレイの実家にも届きます。それに、婚約期間が数年あるのは、おかしな事ではありません。許可が下りましたら、こちらからクレイにランゼーヌ様が聖女だとお伝えしておきます。それなら何も問題ないでしょう」
アルデンは、にっこり微笑む。
「う……」
アルデンの言っている事はごもっともだ。
モンドは、クレイにランゼーヌが聖女だと伝えるとは言っていないが、そうするという含みのある言い方をしたので、言い返せない。
「この件に関しては、これで宜しいですね?」
「……は、はい」
まずい事になったと、モンドはヒア汗が出た。
いや筆跡が違うなど、わかるわけがない。そうモンドは、自分に言い聞かせ平常心を取り戻そうとする。
「私からも聞きたい事があったのですが、宜しいですか?」
「え? 一体どのような……」
「なぜ精霊の儀を放置したかです。確かに罰則はありません。ですが、この国に住む以上義務だとはおわかりでしたよね?」
そういえば、そう問われる事だったと、アルデンに言われ気づき更にモンドはヒア汗をかく。
「そ、それは、妻に任せっきりで……」
「ご婦人ですか? 確か再婚をなさっておられますよね。相手は他国の方」
「そ、そこまで調べたのですか!?」
「聖女になった方、全員お調べする事です」
本来は、精霊の儀を行う際に調べておく内容だ。だがモンドには、聖女になった者と言った方がいいだろうと、アルデンはそう伝えた。
「お恥ずかしい話ですが、私は忙しくて教育と言いますか、そういうのはすべて妻に任せっぱなしだったもので」
「では、本当に婚約の顔合わせで発覚したと?」
「そうです! クレイ殿に確認してもらっても構いません」
「そうですか。わかりました。しかし、任せっきりと言いましても、毎年通知は届いていたはずですが? 執事などからあなたに連絡などなかったのですか?」
あえて少し冷ややかな顔つきでアルデンは聞く。
さっきから聞いていれば、言い逃れしか言っていないからだ。
「そ、それは……いや、えーと。そう! 一年中受け付けているとは知らなかったのです!」
「……そうですか」
通知の中身を一切確認していなかったのかと問いたいところだが、聞いても言い逃れしかしないだろう。
毎年通知が来ていたのは承知しているようなので、わかっていて放置していたと確認がとれた。ひとまずはこれで良いだろうと、アルデンは頷く。
「本当です! クレイ殿に聞いて初めて知ったのです」
「別に疑ってはおりませんよ。確認をしたまでです。こちらも通知のみですませてしまっていたので、あなた方だけを責めるつもりはありません」
「そ、そうですな。年に何度もくれば、いつでもやっているともっと早くわかったかもしれん」
一安心したのかモンドが、いつもの調子でそう言ってしまうと、アルデンは、ではと何やら用紙をテーブルの上に置く。
「大変お手数ではありますが、この回答書に今私に言った事を書いて頂いて宜しいですか?」
「え! これは書かなくてはいけないものなのですか?」
まさか書き残せと言われるとは思っていなかったモンドは、また慌てだすのだった。
「どういう事だ……」
そして、ぽつりと呟き、それを手に取る。
まさか、クレイが手を回したのだろうか。聖女になったランゼーヌを手に入れる為に。しかし、彼にはそんな暇はなかっただろう。
「簡単な事です。彼と出会ったのが、婚約の顔合わせだったのです。そこで、ランゼーヌが精霊の儀を受けていないことが発覚し、まずは受けてからそれを提出しようとなったのです。まさか誰もランゼーヌが聖女になるとは、その時は思ってもおりませんでしたから」
ニマニマとして、モンドは言った。
モンドは、アルデンの取り乱し様に満足し、これでクレイに会えると確信する。
「そうですか」
納得と、アルデンは頷く。
自ら聖女の騎士に名乗り出たのは、婚約するはずの相手だったからなのかと。
しかし、クレイとも会わせる事は出来ない。なぜなら、聖女の騎士だからだ。聖女がお勤めを終えるまで、彼もまた他との接触はご法度だった。
「では、こちらは私がお預かりしておきます」
「は? なんだと!?」
アルデンの言葉に、バンとテーブルを叩きモンドは立ち上がる。
「我々の事にそこまで干渉するつもりですか!」
「落ち着いて下さい」
「これが落ち着いていられるか! それはすぐに提出するつもりだ! 返せ!」
「ですから私から陛下にお渡しすると申しています」
「へ、陛下だと?」
なぜ国王に見せる必要があると、モンドはアルデンを睨みつけた。
「まずはお座りください。ご説明致しますから」
モンドは、ムッとしたままアルデンの指示に従い、椅子に座る。
「本来ならこの婚約誓約書は、提出しただけで受理されます。ですが、聖女の令嬢が婚約なされる場合、王族の承認が必要になるのです。ランゼーヌ様が、聖女だと判明する前でしたらそのまま受理されていた事ですが、今この段階ですと陛下の承認が必要になります。ですのでこのまま私が預かりましょうと申し上げたのです」
「な……」
まさか、聖女になったら陛下の承認が必要になるなど思っていなかったモンドは、動揺が隠し切れない。何せ、ランゼーヌのサインは偽物なのだから。
「だ、だったらランゼーヌがお勤めを終えてから改めて提出します」
「……提出する予定なのでしたらお預かりしておきますよ」
「しかし、よく考えればランゼーヌはともかく、クレイ殿が心変わりするかもしれない。何せ聖女だと言えずに数年連絡を取れないのだから」
モンドは、何とか婚約誓約書を取り返そうとする。
「でしたら尚更、提出しておく方が宜しいのではないでしょうか。許可が下りれば、婚約が成立した旨がクレイの実家にも届きます。それに、婚約期間が数年あるのは、おかしな事ではありません。許可が下りましたら、こちらからクレイにランゼーヌ様が聖女だとお伝えしておきます。それなら何も問題ないでしょう」
アルデンは、にっこり微笑む。
「う……」
アルデンの言っている事はごもっともだ。
モンドは、クレイにランゼーヌが聖女だと伝えるとは言っていないが、そうするという含みのある言い方をしたので、言い返せない。
「この件に関しては、これで宜しいですね?」
「……は、はい」
まずい事になったと、モンドはヒア汗が出た。
いや筆跡が違うなど、わかるわけがない。そうモンドは、自分に言い聞かせ平常心を取り戻そうとする。
「私からも聞きたい事があったのですが、宜しいですか?」
「え? 一体どのような……」
「なぜ精霊の儀を放置したかです。確かに罰則はありません。ですが、この国に住む以上義務だとはおわかりでしたよね?」
そういえば、そう問われる事だったと、アルデンに言われ気づき更にモンドはヒア汗をかく。
「そ、それは、妻に任せっきりで……」
「ご婦人ですか? 確か再婚をなさっておられますよね。相手は他国の方」
「そ、そこまで調べたのですか!?」
「聖女になった方、全員お調べする事です」
本来は、精霊の儀を行う際に調べておく内容だ。だがモンドには、聖女になった者と言った方がいいだろうと、アルデンはそう伝えた。
「お恥ずかしい話ですが、私は忙しくて教育と言いますか、そういうのはすべて妻に任せっぱなしだったもので」
「では、本当に婚約の顔合わせで発覚したと?」
「そうです! クレイ殿に確認してもらっても構いません」
「そうですか。わかりました。しかし、任せっきりと言いましても、毎年通知は届いていたはずですが? 執事などからあなたに連絡などなかったのですか?」
あえて少し冷ややかな顔つきでアルデンは聞く。
さっきから聞いていれば、言い逃れしか言っていないからだ。
「そ、それは……いや、えーと。そう! 一年中受け付けているとは知らなかったのです!」
「……そうですか」
通知の中身を一切確認していなかったのかと問いたいところだが、聞いても言い逃れしかしないだろう。
毎年通知が来ていたのは承知しているようなので、わかっていて放置していたと確認がとれた。ひとまずはこれで良いだろうと、アルデンは頷く。
「本当です! クレイ殿に聞いて初めて知ったのです」
「別に疑ってはおりませんよ。確認をしたまでです。こちらも通知のみですませてしまっていたので、あなた方だけを責めるつもりはありません」
「そ、そうですな。年に何度もくれば、いつでもやっているともっと早くわかったかもしれん」
一安心したのかモンドが、いつもの調子でそう言ってしまうと、アルデンは、ではと何やら用紙をテーブルの上に置く。
「大変お手数ではありますが、この回答書に今私に言った事を書いて頂いて宜しいですか?」
「え! これは書かなくてはいけないものなのですか?」
まさか書き残せと言われるとは思っていなかったモンドは、また慌てだすのだった。
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