40 / 58
決断 5
しおりを挟む
二人はゆっくりと、精霊が集い七色に輝く大きな精霊樹がある箱庭へと進む。もちろん精霊樹が見えているのは、ランゼーヌだけだ。
「怖くない? 大丈夫?」
クレイが気遣いそう聞いた。
呪いの箱庭と言われるように、朽ちた木の柵に囲われ精霊樹以外は荒れ果てた土地。
ランゼーヌも精霊樹が見えなければ、おののいていただろう。
「大丈夫です。ただ、本当に結界があるとは思えなくて……」
そもそも本当に結界があるのかという疑問がランゼーヌにはあった。それ以外の精霊や精霊樹が見えてしまう彼女には、そっちの方に引っ掛かりがあったのだ。
「どうでしょう。ただなかったらとしたら本当は何をさせたいのかという新たな疑問が生まれます。私的には、ずいぶんと手の込んだ方法を取るのだなと思うところです」
箱庭の前に来てそれを見つめクレイはそういった。
クレイは、話の真実よりも方法が気になっていたのだ。確実に結界を解かせる方法を相手は取っている。
精霊の儀もこの時の為でもあったのだろうと、クレイは確信していた。
チラッとクレイは、隣に立つランゼーヌを見る。
聖女を探す儀式がこの時の為ならば、男の自分では結界は解けないのかもしれない。
『……ランゼーヌ』
「あ……」
「どうしました?」
今回ははっきりとピュラーアの声が聞こえたランゼーヌは反応してつい声を出した。
「話しかけられました」
ランゼーヌの答えにクレイは、真剣な顔つきで頷く。ランゼーヌは目を瞑った。
(目の前に来ましたよ)
『ありがとう。お願いします。どうか私の願いを叶えてください』
(え?)
急にすがる様な言い方にランゼーヌは驚く。
今までは精霊王と名乗っただけあり、威厳がある感じだった。
『おわかりの様に、私自身では何も出来ないのです。ここまで整えておきましたが、結局はランゼーヌ、あなた次第なのです。もし無理でも二人は元の場所へと送り届けます。その後の事はワンに任せます。ここから解放されない限り、結局精霊王として力を発揮できないのですから』
(ワンちゃんに任せるって、もう精霊王にするって事ですか?)
『いいえ。人間の王制度の様に権利を渡すという事ではないのです。わかりやすくいうと、私が精霊王としての力がなくなった時にワンが自然に精霊王になるという事です。任せると言ったのは、あなたの事です』
(え? 私の事?)
『ワンなら言わずともあなたの事を守るでしょうが、権力者からあなたを守るという事です。彼らが私の事をどうしたいと思っているかわかりませんが、どちらにしてもあなたをそのままにはしないでしょう』
(確かにそうだわ)
ランゼーヌは、秘密を知る者となる。そして、箱庭の結界を解く者の一人。後で色々と策を練った後に結界を解こうと思うなら生け捕りにしておくかもしれないが、結界を解く事をよしとしないのならばランゼーヌがいなければ解けないのだから始末する事だろう。
それから、この秘密を知っているもう一人のクレイもまたどうなるかわからない。
ピュラーアは、ランゼーヌの身は結界が解けても解けなくても、保証すると言ってはいるがクレイは含まれてはいないだろう。
クレイの存在を認知していない可能性もあるが、ワンが伝えている可能性の方が高い。いやこの精霊の儀の仕組みを作ったピュラーアが、クレイの存在を知らない方が不自然だ。
つまりピュラーアには、クレイの存在はどうでもいいのだろう。
ゆえにこう答えるしかない。
(結界を解きます!)
『ありがとう。ランゼーヌ。では、手を伸ばし柵に触れ、解除と告げて下さい』
ランゼーヌは頷くとスーッと手を伸ばす。伸ばせば届く位置に居たランゼーヌの手のひらは、ひんやりとした腐りかけた柵に触れた。
見守っていた隣に立つクレイは、急に手を伸ばすランゼーヌ驚く。
「待って!」
「解除します」
クレイが慌てて止めようとしたが、ランゼーヌはピュラーアの言う通りに言葉を放つ。
ランゼーヌが触れている柵から光が発せられ、それが全体へ広がった。そして、あっけない程に柵は、砂の様に崩れ落ちる。
手を伸ばしたままのランゼーヌも止めようとしていたクレイも、消え去った柵の向こう側を唖然と見つめた。
目の前の荒れ果てた箱庭は、柵が崩れ落ちると同時に周りの森と同じく緑豊かな姿へと変わっていく。
朽ちていた草木が瑞々しく緑化していき、大きく育っていった。
精霊樹も更に大きくなり、その根が森へと広がっていく。
心地よいそよ風が、二人を包む。
『ありがとう、ランゼーヌ』
二人の目の前にピュラーアが現れた。
七色の輝きを持つ羽、深緑の長い髪にスカイブルーの宝石の様な瞳。果実の様に瑞々しい唇。
人型を取ったピュラーアの体には、グルグルと蔦が巻き付いている。胸の辺りから足まであり、まるで森の人魚のようだ。
ランゼーヌとクレイは、神々しいほど美しいピュラーアに見とれるのだった。
「怖くない? 大丈夫?」
クレイが気遣いそう聞いた。
呪いの箱庭と言われるように、朽ちた木の柵に囲われ精霊樹以外は荒れ果てた土地。
ランゼーヌも精霊樹が見えなければ、おののいていただろう。
「大丈夫です。ただ、本当に結界があるとは思えなくて……」
そもそも本当に結界があるのかという疑問がランゼーヌにはあった。それ以外の精霊や精霊樹が見えてしまう彼女には、そっちの方に引っ掛かりがあったのだ。
「どうでしょう。ただなかったらとしたら本当は何をさせたいのかという新たな疑問が生まれます。私的には、ずいぶんと手の込んだ方法を取るのだなと思うところです」
箱庭の前に来てそれを見つめクレイはそういった。
クレイは、話の真実よりも方法が気になっていたのだ。確実に結界を解かせる方法を相手は取っている。
精霊の儀もこの時の為でもあったのだろうと、クレイは確信していた。
チラッとクレイは、隣に立つランゼーヌを見る。
聖女を探す儀式がこの時の為ならば、男の自分では結界は解けないのかもしれない。
『……ランゼーヌ』
「あ……」
「どうしました?」
今回ははっきりとピュラーアの声が聞こえたランゼーヌは反応してつい声を出した。
「話しかけられました」
ランゼーヌの答えにクレイは、真剣な顔つきで頷く。ランゼーヌは目を瞑った。
(目の前に来ましたよ)
『ありがとう。お願いします。どうか私の願いを叶えてください』
(え?)
急にすがる様な言い方にランゼーヌは驚く。
今までは精霊王と名乗っただけあり、威厳がある感じだった。
『おわかりの様に、私自身では何も出来ないのです。ここまで整えておきましたが、結局はランゼーヌ、あなた次第なのです。もし無理でも二人は元の場所へと送り届けます。その後の事はワンに任せます。ここから解放されない限り、結局精霊王として力を発揮できないのですから』
(ワンちゃんに任せるって、もう精霊王にするって事ですか?)
『いいえ。人間の王制度の様に権利を渡すという事ではないのです。わかりやすくいうと、私が精霊王としての力がなくなった時にワンが自然に精霊王になるという事です。任せると言ったのは、あなたの事です』
(え? 私の事?)
『ワンなら言わずともあなたの事を守るでしょうが、権力者からあなたを守るという事です。彼らが私の事をどうしたいと思っているかわかりませんが、どちらにしてもあなたをそのままにはしないでしょう』
(確かにそうだわ)
ランゼーヌは、秘密を知る者となる。そして、箱庭の結界を解く者の一人。後で色々と策を練った後に結界を解こうと思うなら生け捕りにしておくかもしれないが、結界を解く事をよしとしないのならばランゼーヌがいなければ解けないのだから始末する事だろう。
それから、この秘密を知っているもう一人のクレイもまたどうなるかわからない。
ピュラーアは、ランゼーヌの身は結界が解けても解けなくても、保証すると言ってはいるがクレイは含まれてはいないだろう。
クレイの存在を認知していない可能性もあるが、ワンが伝えている可能性の方が高い。いやこの精霊の儀の仕組みを作ったピュラーアが、クレイの存在を知らない方が不自然だ。
つまりピュラーアには、クレイの存在はどうでもいいのだろう。
ゆえにこう答えるしかない。
(結界を解きます!)
『ありがとう。ランゼーヌ。では、手を伸ばし柵に触れ、解除と告げて下さい』
ランゼーヌは頷くとスーッと手を伸ばす。伸ばせば届く位置に居たランゼーヌの手のひらは、ひんやりとした腐りかけた柵に触れた。
見守っていた隣に立つクレイは、急に手を伸ばすランゼーヌ驚く。
「待って!」
「解除します」
クレイが慌てて止めようとしたが、ランゼーヌはピュラーアの言う通りに言葉を放つ。
ランゼーヌが触れている柵から光が発せられ、それが全体へ広がった。そして、あっけない程に柵は、砂の様に崩れ落ちる。
手を伸ばしたままのランゼーヌも止めようとしていたクレイも、消え去った柵の向こう側を唖然と見つめた。
目の前の荒れ果てた箱庭は、柵が崩れ落ちると同時に周りの森と同じく緑豊かな姿へと変わっていく。
朽ちていた草木が瑞々しく緑化していき、大きく育っていった。
精霊樹も更に大きくなり、その根が森へと広がっていく。
心地よいそよ風が、二人を包む。
『ありがとう、ランゼーヌ』
二人の目の前にピュラーアが現れた。
七色の輝きを持つ羽、深緑の長い髪にスカイブルーの宝石の様な瞳。果実の様に瑞々しい唇。
人型を取ったピュラーアの体には、グルグルと蔦が巻き付いている。胸の辺りから足まであり、まるで森の人魚のようだ。
ランゼーヌとクレイは、神々しいほど美しいピュラーアに見とれるのだった。
8
あなたにおすすめの小説
「醜い」と婚約破棄された銀鱗の令嬢、氷の悪竜辺境伯に嫁いだら、呪いを癒やす聖女として溺愛されました
黒崎隼人
恋愛
「醜い銀の鱗を持つ呪われた女など、王妃にはふさわしくない!」
衆人環視の夜会で、婚約者の王太子にそう罵られ、アナベルは捨てられた。
実家である公爵家からも疎まれ、孤独に生きてきた彼女に下されたのは、「氷の悪竜」と恐れられる辺境伯・レオニールのもとへ嫁げという非情な王命だった。
彼の体に触れた者は黒い呪いに蝕まれ、死に至るという。それは事実上の死刑宣告。
全てを諦め、死に場所を求めて辺境の地へと赴いたアナベルだったが、そこで待っていたのは冷徹な魔王――ではなく、不器用で誠実な、ひとりの青年だった。
さらに、アナベルが忌み嫌っていた「銀の鱗」には、レオニールの呪いを癒やす聖なる力が秘められていて……?
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
噂の聖女と国王陛下 ―婚約破棄を願った令嬢は、溺愛される
柴田はつみ
恋愛
幼い頃から共に育った国王アランは、私にとって憧れであり、唯一の婚約者だった。
だが、最近になって「陛下は聖女殿と親しいらしい」という噂が宮廷中に広まる。
聖女は誰もが認める美しい女性で、陛下の隣に立つ姿は絵のようにお似合い――私など必要ないのではないか。
胸を締め付ける不安に耐えかねた私は、ついにアランへ婚約破棄を申し出る。
「……私では、陛下の隣に立つ資格がありません」
けれど、返ってきたのは予想外の言葉だった。
「お前は俺の妻になる。誰が何と言おうと、それは変わらない」
噂の裏に隠された真実、幼馴染が密かに抱き続けていた深い愛情――
一度手放そうとした運命の絆は、より強く絡み合い、私を逃がさなくなる。
王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります
cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。
聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。
そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。
村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。
かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。
そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。
やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき——
リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。
理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、
「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、
自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
白い結婚に、猶予を。――冷徹公爵と選び続ける夫婦の話
鷹 綾
恋愛
婚約者である王子から「有能すぎる」と切り捨てられた令嬢エテルナ。
彼女が選んだ新たな居場所は、冷徹と噂される公爵セーブルとの白い結婚だった。
干渉しない。触れない。期待しない。
それは、互いを守るための合理的な選択だったはずなのに――
静かな日常の中で、二人は少しずつ「選び続けている関係」へと変わっていく。
越えない一線に名前を付け、それを“猶予”と呼ぶ二人。
壊すより、急ぐより、今日も隣にいることを選ぶ。
これは、激情ではなく、
確かな意思で育つ夫婦の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる