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婚約破棄して下さい 5

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 「さて、答えをお聞きしましょうか」

 夕食時、ジャナと一緒に来たパレルモは、ジャナを一人返し三人を目の前にして平然と言った。
 クレイは、パレルモを睨みつける。

 「どういうおつもりでこんな事をしているのですか? 聖女を脅すなど」
 「聖女? あなたが一番ご存じでしょうに、彼女が偽物だと。あなたこそ、手を引いた方がいい。まさか枢機卿と手を組んでいたようだが、ここまで……」
 「ちょっと待て。言っている意味がわからない。まるで私が何かを企んでいるように聞こえるのですが?」

 クレイの言葉に、パレルモの笑みが消え冷ややかな表情になった。

 「まだそんな事を言いますか。あぁもしかして、彼女すら騙していたという事ですか」
 「騙していただと? 何を言っている」
 「ふう。仕方ありません。ランゼーヌ様の為にもここで明らかにしましょうか?」

 ランゼーヌとリラは、目をぱちくりとして二人の言い合いを見ていた。
 思っていた事態と違うのだ。なぜかクレイが責められている。

 「あなたは、王座を狙っていた。枢機卿と手を組み、王宮内に侵入に成功。方法は、偽聖女をでっちあげ、呪いの箱庭を利用した。枢機卿も……」
 「待って下さい! 偽聖女である事は認めますが、クレイ様は何も関係ありません!」

 何やら凄い誤解をしているとランゼーヌは焦ってパレルモに言う。

 「なに? そう言えと言われたのか?」
 「ですから、なぜそんな勘違いを?」
 『俺っちが説明してやるよ』

 突然姿を現したワンちゃんに、パレルモが少し驚く表情を見せるもキッとクレイを睨みつける。

 「これが例の精霊ですか? 上手くやりましたね。精霊が我々に見えるはずがない」
 「はぁ……。これも私の仕業だと? 一体あなたは、私に何の恨みがあるのですか?」
 「恨み? そんなものはない。ただ阻止すれと言われているのでね。どうせなら偽聖女を利用させてもらおうかと思ったまでだ」
 「誰に? だいたい、その話がおかしいと思わないのですか? なぜ私が王座を狙うと?」
 「本当に白々しいな。落とし胤だろう?」
 「「………」」

 パレルモの言葉に、しーんと静まり返る。

 (この人、どんな勘違いしているのよ! って、違うわよね?)

 ランゼーヌは、クレイを見た。
 クレイも驚いた顔つきで、パレルモを見ている。

 「わ、私が誰の子だと言うのだ」
 「ふん。声が震えているぞ?」

 クレイは、まさかと思っていた。父親がケンドールではないとは思っていたが、王族の者だとは露ほども思っていなかった。普通は、思うはずもないが。

 『こいつ何を言っているのだ?』

 ワンちゃんが声を出すと、チラッとパレルモは見た。

 「で、これは一体どういうカラクリだ? ぜひ聞きたいな」
 「この方は、正真正銘の精霊――」

 バン!
 突然、ドアが大きく開き、全員が何事かと見れば、息を切らした二人が立っていた。アルデンにイグナシオだ。

 「早いお出ましで。あそこでお会いしたので、お越しになるのではないかと思っておりましたが、陛下までご一緒とは……」

 少しパレルモが顔を引きつらせ、アルデンに言った。

 「あなた、余計な事はまだ言ってはおりませんね?」

 少し怖い表情でアルデンが言うと、パレルモがにやりとする。

 「余計な事とは? 偽聖女の事ですか? それともここに侵入する手筈とか?」

 はぁ……と、アルデンが大きなため息をもらす。

 「言っておきますが、彼が彼女の精霊の騎士になったのは、偶然です。乗り込んで来たわけではありません」
 「陛下、枢機卿と彼はグルです……」
 「父上に聞いたのだろう?」

 パレルモは、驚いた顔をイグナシオに向けた。

 『ここまでにしましょうか、パレルモ』
 「! なんだ貴様は!」

 突然姿を見せたピュラーアに、パレルモは驚きつつも身構える。

 『私は精霊王、ピュラーアです。なかなかの野心ですが、色々足りないようですね』
 「精霊王だと……」

 パレルモは、ハッとして辺りを見渡す。誰一人としてピュラーアの存在に驚いていないのだ。陛下であるイグナシオも。
 嘘だとしても、ピュラーア自体の事は知っている事になる。

 「陛下もご存じで……」
 「だから、偶然だと言っている。父上が勘違いしているだけだ。そして、それを利用しようとしたのだろう、貴様は!」

 イグナシオが、語尾を強め言うと、パレルモはビクッとした。

 「その者を捕らえよ!」

 イグナシオが言うと、後ろに控えていた兵士が中へと入って来る。

 「お、お待ちください! 私の話を……」
 「お前の事は、筒抜けだ」

 冷ややかな言葉でイグナシオが言うと、パレルモは黙り込んだ。そして兵士に連れられて行った。
 アルデンがぱたんと、ドアを閉める。

 「何をお聞きになりましたか?」
 「私が、その、王家の血筋かもしれないかもと……」

 クレイが、言葉を詰まらせながら言うと、アルデンがまたため息をつく。

 『彼の戯言ですよ』
 「え?」

 ピュラーアの言葉に、クレイが驚く。

 『ですから、足りないと言ったのです。勘違いを利用した。でしょう、人間の王よ』
 「……だな。これは隠している事だが、父上は患っておいでだ。……迷惑をかけた。すまなかった」
 「いえ、滅相もございません。こ、こちらで対処できなく、申し訳ありません」

 イグナシオの言葉に驚き、クレイは頭を下げた。

 「ここでの事は、他言無用でお願いします」
 「はい」

 クレイは、返事を返し去って行く二人を見送る。

 「ク、クレイ様。その、大丈夫ですか?」
 「え? あ、はい。彼の言葉に驚きましたが、そんなわけありませんから」
 「でもまさか、前陛下が患っておいでとは」

 リラがボソッと言うと、ランゼーヌがそうねと相槌を打った。

 (枢機卿と陛下が慌ててお越しになった。本当に違うのかしら? でもクレイ様がここにいるのは、偶然。それに、ピュラーア様があぁ言ったのですからそうなのよね?)
 「さあ、ランゼーヌ様。冷めてしまったようですが、お食事をしたらいかがですか?」

 リラがそういうも、胸がいっぱいでお腹にはいりそうもない。

 「ねえ、みんなで食べない? ジャナもいない事だし」
 「そ、それはちょっと……」

 クレイが困り顔で言う。

 「どちらにしてもクレイ様は、ちょっと口にできますものね」

 いいなぁという眼差しをリラは向ける。

 「私は、お茶だけ頂きます」

 つまりは、リラも一緒に食べていいと言ったのだ。
 クレイが毒味を終わらせると、二人は食事を始めた。

 「ふう。なんというか、あんな事があったのに、落ち着いていますね」
 「クレイ様。ランゼーヌ様と一緒になるのなら慣れないとダメですよ」
 「げっほ、げっほ」

 リラの言葉に、クレイは口に運んだお茶にむせかえる。

 「もう何を言うのよ。クレイ様、大丈夫ですか?」

 真っ赤になったランゼーヌが言うと、リラはうふふと笑い、クレイは大丈夫だと頷いた。
 さっきまでが嘘のように、和んだディナーになったのだった。
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